「ん、出来たね、がくぽ!」

「ああ………」

カイトがノートに解いた問題を覗きこみ、がくぽはさらりと視線を流す。

癖字だ。

下手というのとは、また違う――ああ、『カイト』の字だな、と、そんなことを記憶に刻む。

顔はノートに向けたまま、視線だけを、隣に座るカイトに流した。

kiss or smack

――ふっふっふ。俺は知っているんだよ、神威がくぽくん。君、あったまいーよね。俺にべんきょー、教えなさい☆

いつもと比べると格段に悪っぽく、ついでに偉そうにがくぽに命令したカイトは、生徒会長だ。

それも、いわゆる『スペシャルクラス』と言われる特待生クラスの中で、特に優秀な生徒ばかりが集まった、癖の強い生徒会役員を見事にまとめ上げている、敏腕会長だ。

その、敏腕会長――の、成績が。

圧倒的に、赤点科目のほうが多いと知ったのは、ついさっき。勉強を教えろと、強請られたときだ。

人には、上位三位以内に入れとか無茶ぶりしておいて、自分は追試の常習犯。

――なんでおまえ、生徒会長なんだ?

呆れて思わず訊いたがくぽに、カイトはあくまで自信満々、堂々としていた。

――成績で選挙、戦ったわけじゃないもん。人望の賜物です☆

そこは、否定の言葉が思い浮かばない。確かにカイトの人望は、並外れている。

正直、『人に教える』自信はなかったが、カイトの命令だ。がくぽは逆らうことなく、カイトとともに学校の学習室に篭もった。

「…んっ」

期待に輝く瞳でじっと見つめてくるカイトに、顔を寄せた。無防備なくちびるに、ちゅっと軽く、触れるだけのキスをする。

「………がくぽ?」

きょとんとするカイトから顔を逸らし、がくぽは赤ペンを取った。ノートに大きく、丸を書き入れる。

「全問正解だ」

「…」

「正解したから、褒美」

しらっと、吐き出す。――内心、どれほどに焦っていて、慌てていても、うまく隠すすべを身に着けている。

カイト相手だと、たまに、そんなすべてが意味のないことのような気がするのだが。

「………正解したら、キスくれるんだ?」

「ほかに欲しいものがあるなら、強請れ。くれてやる。褒美があると、やる気が上がるだろう」

しらしらと、吐き出す。赤ペンをシャーペンに持ち替え、ノートに新しい問題を書き入れていった。

その様子を眺めていたカイトが、手を伸ばす。

シャーペンを走らせるがくぽの手を取ると、甲に、ちゅっとキスを落とした。

「がくぽが欲しいな」

甘い声で、ささやく。

凝然と見つめるがくぽに、カイトは微笑んで、持ったままの指先をくちびるに含んだ。

「…………おなかのなか、入れて、欲しいな、がくぽ………」