幼いころから武道を嗜んでいたがくぽは、常に姿勢がいい。
それが今日は、べたっと机に懐いて、どこか拗ね模様だ。カイト以外に人のいない生徒会室とはいえ、そんな様子を見せることは珍しい。
You've asked me...
「カイト、おまえ、俺のどこが好きだ」
生徒会の資料を綴じこんだファイルを開くカイトは、ぶすっと吐き出された問いに、軽く笑った。
こちらを見つめる痛いほどの視線は感じても、見返すことはしない。おそらく見返した瞬間に、顔を逸らされるから。
「嘘をつかないとこ」
ページをめくりながら、答える。
「つけないわけじゃないのに、つかないよね。なんでも、真っ向からぶち当たる。そういうとこ」
「……」
カイトの答えに、がくぽはなにか反論しかけ、けれど結局くちびるを閉じる。
しばらく懊悩しているような間があって、がくぽはさらに机に懐いた。
「…………いつから、俺のことが好きだ」
「ぶっ」
堪えきれずに吹き出してしまい、カイトは慌ててそっぽを向いた。背中で、がくぽが盛大に機嫌を損ねているのを感じるから、まずいとは思う。
思うがしかし。
ぷるぷると肩を震わせ、カイトは懸命に、笑いを堪えた。
「………最初に会ったときから。俺が、ワルイコしてる理由を言ってごらんって言ったら、真っ正直に答えたでしょ。誤魔化しでも、だんまりでもなく。それで、ああこいつ、勉強はできるから頭はいいかもしれないけど、生き方はすっごいバカだって思って」
言いながら、カイトはがくぽへと顔を向けた。
浮かんでいるのは、からかうものではない、やさしい笑み。
「………俺から、目を逸らさなかった。負けないで、睨みつけてきた。――ううん。そのときに、俺が負けた。心、持ってかれちゃったんだよ、がくぽ」
「……」
がくぽが顔を逸らすより先に、カイトは屈んで、くちびるにキスを落とす。
軽く触れて離れて、また微笑んだ。
「不器用だけど、すっごくまっすぐ。まっすぐだけど、すっごく不器用。………ほっとけなくて、見ていたくって、気がついたらもう、後戻りできなかった」
ささやくカイトに、がくぽの顔から険が取れていく。拗ねていた気配が治まり、どこか気まずそうに見つめてきた。
明るく笑って、カイトは身を起こす。資料のファイルに向き直り、ページを繰った。
「で?がくぽは、俺のどこが好きで、いつ好きになったの?」
「……」
逆に訊かれて、がくぽは楽しげなカイトの横顔を見上げる。
ややして目を眇めると、つぶやいた。
「天使の顔して、腹黒いところ」
吐き出してから、目を閉じる。
「天使なだけなら、さもなければ腹黒いだけなら、興味も抱かなかったろうに…………腹黒さを見せつけられて、同時に天使でもあって、そのギャップに目が離せなくなって、気がついたら虜だ」
慨嘆するがくぽに、カイトは堪えきれずに爆笑した。