神威家の玄関前に立ったカイトが、にっこり笑う。

I cried

「俺の家は知ってるよね?」

「………まあな」

毎日まいにち送り迎えしているのだ。もちろん、知っている。

「上がっていったことだって、あるよね?」

「そうだな」

泊まりに行ったことすら、ある。

微妙に視線を逸らしてしらしらと答えるがくぽの胸座に、カイトは手を伸ばした。ぐ、と掴むと、引き寄せる。

「それでなんで君は、長期休みに入ると必ず、音信不通になりやがるの?」

「……………」

普段の穏やかな言葉使いと声音が、わずかに荒っぽい。怒っている。

がくぽは視線を逸らし、宥める言葉を考えた。

「…………………忙しいの?」

「いや、っつ」

ぽつりと訊かれたことに反射で答えたら、胸座を引く手に力がこもった。首が絞まるような気がして、背筋がざわつく。

ふいにカイトはぱっと手を離し、ため息をついた。

「………………会いに来たよ、がくぽ。もしかしたら忙しいのかも、とか思ったけど」

「カイト」

「メールしようかと思ったけど、我慢出来なかった。ちゃんと顔見て、声聞いて、……………抱きしめて欲しかった」

「っ」

堪えきれず、がくぽは手を伸ばした。項垂れる体を抱きしめ、肩口に顔を埋める。

嗅ぎ慣れた、愛おしさの募るカイトのにおい。

昂る気持ちのままに、拗ねてわずかに尖るカイトのくちびるに口づけた。舌を差しこみ、久しぶりのカイトの味を堪能する。

「ん…………っ」

震えて縋りつくカイトをさらにきつく抱きしめ、がくぽはようやく、安堵のため息をついた。

この腕の中に、カイトがいる――自分から、会いに来てくれた、カイトが。

「会いたかった」

つぶやくと、耳元でカイトが吐息のように笑った。

「も…………そーやって、ひとのこと、試さない」

「済まない」

素直に謝るがくぽの背をカイトは軽く叩き、次いできつく縋りついた。

「大好きなんだから、がくぽ………………いじわるしないで」