「カイト。今週末、暇か」

帰りの電車の中。

これまでの会話と繋がりもなく脈絡もなく、唐突に訊かれ、カイトはぱちりと瞳を瞬かせた。

空白スケジュール

けれど特に意図を問うこともなく、頷く。

「うん。今んとこ、なんの予定もない」

「来週末は」

重ねて訊かれて、カイトは軽く記憶を漁った。

「んー。なかったと思う」

「さ来週……」

「ちょっと待ちなさい」

さすがにカイトも呆れて、窓の外へと顔を向けているがくぽを見上げた。

「なんなの俺が週末に特に予定が入ることもない、サビシー男だとかいうのを確認したいの?」

「寂しいわけがなかろう」

確かにカイトは、事前にはなんの予約も入っていない。直前まで。それこそ、当日の朝まで。

けれど当日になれば、家にいたことがほとんどない。たまに家にいるかと思うと、誰かしらが訪ねて来ている。

予定立てても忘れるし、立てなくてもなんかしらあるから、とさらりと言われたことがある。

そう。

忘れる、とか。

「がくぽ言いたいことがあるなら…」

「やる」

「ん?」

呆れたように見上げてくるカイトの手に、顔も見ないままに封筒を押しつけた。

反射で受け取ったカイトは、素直に中を開けて見る。

映画のチケット、二枚。

「あ、これ、観たかったやつ………ん………がくぽ?」

がくぽは顔を背けたまま、決してカイトを見ない。

カイトはチケットをくちびるに当て、少しだけ考えた。

「がくぽ。今週末、ヒマ?」

「ああ。予定はない」

そっぽを向いたまま、がくぽは頷く。

「来週末は?」

「……カイト」

ようやく振り返ったがくぽに、カイトは満面の笑みで映画のチケットを閃かせる。

「予定ないなら、俺と映画行こぐーぜん、チケット二枚もらったから」

瞳を見張ったがくぽは、再び顔を逸らしてしまった。

「忘れるのだろう」

「忘れないよ」

即答し、カイトはがくぽの髪をひと房、引っ張った。

「がくぽとの約束は、忘れない。絶対に」