「あ、おい、カイト?!」

「置いてくよ、がくぽー」

「…っ」

明るく笑って手を振られ、がくぽは慌てて電車から降りた。

カイトの家の最寄り駅まで、あと一駅。

一駅だから、歩いて行けない距離、だとは言わないが――

Honey feels so...

迷いもなくすたすたと歩くカイトが向かうのは、どう考えても、がくぽの家の方向だ。

そう、カイトの家の最寄り駅まであと一駅ということは、がくぽの家の最寄り駅、ということ。

けれどいつもは大人しく、がくぽがカイトの家について来るのに任せているというのに。

「カイト」

隣に並んで声を掛けたがくぽを、カイトが見ることはない。ひたすらに、前を向く。

「今日は俺ががくぽのこと、送りたい」

「…」

固く決意した声で言われて、がくぽは微妙な表情で口を噤んだ。

カイトの送り迎えをするのはがくぽの我が儘で、勝手な――独占欲、だ。

学校の行き帰り、カイトが寄り道をしても、偶然に誰かとばったり会うようなことがあっても――そのすべてに、必ず自分が立ち会えるように。

カイトが自分の与り知らぬところで、誰かと過ごすことがないように。

「カイト…」

「さびしーんだよ」

どうにか言いくるめようと口を開いたがくぽに、カイトは前を向いたまま、ぽつりと言った。

「家の前で別れて、ひとりで帰ってくがくぽの背中見送るの、いつもいつも、すっごく、さびしーんだよ」

「…」

ひどく心細い、今にも泣くかと思うような弱々しい声だった。

言葉が継げなくなって黙りこんだがくぽを、カイトは微笑んで振り仰ぐ。

「たまには、がくぽがさびしー思いしろ」

「…」

寂しい思い以前に。

帰せない気がするな、とがくぽはカイトを見つめて考えていた。