「んっ」

びくりと震えたカイトが、顔を歪めて呻く。

「ぁ………っ、が、くぽ…………っん、ちょ…………っは……んん………っゃ、ぃたい………っも少し、やさしく………ぁっ」

熱い吐息とともに強請られて、がくぽは眉間に皺を刻んだ。

ぶらっでぃ・ぶらっどりぃ

わざとだろうか。

わざとだといい。

意外に腹黒いカイトだから、がくぽをからかうために、それくらいやりそうだ――

「ぁっ、やっんんっ、がくぽっっ」

「っ!」

一際甘くかん高い悲鳴が上がり、がくぽはぐしゃりと脱脂綿を握りしめた。

「ええいっ、いい加減にしろっっ、カイトっっ!!!」

「っひゃぅっ!!」

消毒液をサイドテーブルに叩きつけるように置き、がくぽは悲鳴じみた抗議の声を上げる。

怒鳴られて、体育用のジャージ姿のカイトは、片膝を立てたまま軽く身を竦めた。

カイトたちのクラスは、体育の時間だった。内容はサッカーだ。

グラウンドで走り回るのは血気盛んな年頃の男子高校生で、授業ダルいやってらんねえとかなんとか、始まる前にはほざくのだが、始まってしまうと目の色を変える。

夢中になってボールを追いかけ回し、周囲が見えなくなったクラスメイトを避けようとして、カイトはそれはそれは派手にすっ転んだ。

――そのカイトを、誰よりも早く抱え上げ、グラウンドから連れ去って保健室に運んだのが別のクラスで、まったく体育とは関係のない授業を受けていたはずのがくぽだとか。

そこら辺の謎現象ぶりは最近、全校的なスルー事項となりつつある。

生徒会長の忠実なる狂犬。

がくぽに対する全校生徒の認識が固まった証だ。

その忠実なる狂犬は実際のところ、『飼い主』に乗っかって腰を振っていたりするのだが――

「だって痛いよっ!!がくぽ、もっとやさしくっっ!」

カイトは本気の涙目で、擦り切れて血を滲ませる膝に息を吹きかける。

どうやらわざとではなく、本気で悲鳴を上げて――悲鳴、を。

「お………男なら、消毒くらいで、ヒイヒイ言うな」

「痛いんだってばっ!!………って、がくぽ……」

「……」

わずかに前屈みで、顔を背けているがくぽに、カイトははたと気がついた顔になる。

ひくりと引きつると、血の滲む片膝を抱えたまま、じりじりと身を引いた。

「が、がくぽの、ヘンタイ………っ、りょーきしゅみ…………っっ血ぃ見てコーフンするなんて」

「ちっっっがぁああああう!!」

力いっぱい叫び返したがくぽだったが、下半身の素直さ加減はどうにも誤魔化しようがなかった。