コートにマフラー、耳当てと、もこもこ手袋。

さらにおそらく、コートの下にはセーターやらなにやら、もろもろ着込んでいるだろう。

ぶくぶくと丸くなったカイトは玄関から出てくるや、不機嫌に吐き出した。

「朝が寒くて起きるのがいやなので、もぉ、がっこー行きません!」

ほっと・ぽっと・もーん

「……いくつになって、そういうことを言っているか、生徒会長」

呆れのツッコミを入れたがくぽは、マフラーも耳当てもなしで、手袋も薄手の皮。

そしてお約束のように、羽織っただけのコートは前を開いて、半ば体を晒している。

晒したコートの下だとて着込んでいるわけではなく、体の線はすっきりすらり。

「だって、手袋してるのに、このありえない冷たさとかちょっと触ってみてよ全米が泣くから!!」

鼻の頭を赤くしたカイトは、片方の手袋を取ると、その手をがくぽへと突き出した。

「いちいち大袈裟なんだ、おまえは………」

ぼやきながら、がくぽも片方の手袋を取り、突き出された手を取る。

言うとおり、まるまるぷくぷくに着膨れているにも関わらず、カイトの手はひんやりと冷たかった。

「ココロがあったかいにも程があるよね、俺って」

「そうだな」

ぷりぷりして言うのをさらりと流し、がくぽは取ったカイトの手を自分の首へと招いた。

マフラーもせずに晒しているが、カイトの手よりはずっとあたたかい。

触れた瞬間にぶるりと背筋を震わせたものの、離すことはなく、がくぽはカイトの手を自分の首に押し付けた。

「………………」

「………………」

無言で見合うこと、数瞬。

カイトがはあっとため息をつき、寒さを表す白い煙がもくもくと上がった。

「がくぽってさ………ときどき、すんごくM」

「……………」

特に反論できる根拠もなく、がくぽは視線だけ逸らし、カイトの手をさらに自分の首に押し付けた。

冷え切った手が、少しずつ暖かさを取り戻す。

自分の肌と同化して――

「あのさ、がくぽ」

「………ああ」

もうひとつため息をついたカイトは自分の手を取り戻すと、がくぽの腕に腕を絡めた。

指をしっかりと組み合わせると、繋いだ手をそのまま、がくぽのコートのポケットに突っ込む。

「これでいーんだよね、正直」

言って、歩き出す。

手を繋いでいる以上はがくぽも共に歩き出し、ポケットの中の指に力をこめた。

「痛いよ」

「他人に見られたら、どう言い訳するつもりだ、生徒会長」

苦情を取り合わずに訊いたがくぽを振り仰ぎ、カイトは朝日のごとくに煌く笑顔を閃かせた。

「『犬の散歩中』だってほら、犬の散歩はリードをつけてやらないとだもんね特に、らんぼーものの大型犬なんて!」

明るく放たれた躊躇いのないお答えに、がくぽは軽く眉をひそめた。

「どうしても犬扱いか……………」

不満げにこぼしながらも、その手が離れることはなかった。