「どっちかっていうと、おばーちゃん子。おじーちゃんも生きてるけど、おばーちゃん子だなー、やっぱり」

少し考えて、カイトはそう結論した。

My Granma Says Me

「同居はしてないんだけど、スープがぬるくなるくらいの距離に住んでてさ。両親も共働きだから、ちっちゃい頃から預けられること多くって、結局」

「スープがぬるくなるくらいって、どういう距離だ」

普通は、冷めない距離、と表現する。

外水道のコンクリ壁に凭れて地べたに座るカイトの背後に、コンクリ壁に凭れて立つがくぽは小さくツッコんだ。

――しかして、ツッコミを入れたいのはどちらかというと、カイトのクラスメイトであり、教科担任だった。

現在、カイトは体育の授業中で、グラウンドにいる。

他チームが試合をしていて、自分は待機中だからおしゃべりなどをしているが、授業中。

そしてがくぽは別クラス。別授業。無関係。

「だって冬だったら、ちょっとの距離でもすぐぬるくなるし」

「そういう細かい設定はいい」

「えー。だってがくぽ、俺のことすぐに大雑把って言うし。たまには細かいとこも見せようと思って」

見せ所を間違えている。

しかしそこにツッコミだすときりがないので諦め、がくぽは試合を眺めているカイトへ視線を投げた。

「――だが、おまえが作ってくる弁当に入っている料理は、芸が細かいぞ」

「だからさ、俺に教えてくれてるのが、おばーちゃんだから。大雑把なひとなんだけど、たまにすっごい細かいんだよ」

言って、カイトは首を曲げ、がくぽを見上げた。

「さっきも言ったけど、ちっちゃい頃からなにかっていうと、おばーちゃん家に預けられてたからさ。なにかあると俺、親より先におばーちゃんに相談する癖あって」

「ああ、まあ。そうなるだろうな」

がくぽのほうは、グラウンドの試合を眺めている。点が入りそうで、微妙に入らない。

他人事にやきもきと眉をひそめるのに笑って、カイトもグラウンドに目を戻した。

「だから料理とか家事も、真っ先におばーちゃんに、教えてって頼んだの。『俺、高校卒業したら大好きなひとのヒモになるから、ちゃんとできるようになりたいんだ』って」

「っは?!」

「それでね、『貰ってやるって言われたの?』って訊かれたから、『うん』って答えちゃったぇへへっ」

恥らうカイトかわいい。かわいいがしかし!

目を白黒させたがくぽは唐突に思い出し、座るカイトへと身を乗り出した。

「カイト、おまえ……っ。そういえば最初に習いに行ったとき、祖父が救急車で病院に搬送されたと言ったが!」

「あー…うん、そうなんだよねー。一日で退院はしたけど………。あんまり飲めないひとなのに、なんでかいきなり昼間っから大酒食らってさ、急性アル中で。おばーちゃんは呆れるし、もぉタイヘンで……」

「おまえと祖母の話を、祖父が聞いてはいなかったか?!」

のんびりと言うカイトに、がくぽは眩暈を覚えつつ訊く。

がくぽの勢いの理由がわからないカイトは、あくまでのへんと笑った。

「うん、いたよ『なにしに来たの』って台所でおばーちゃんに訊かれたとき、傍で新聞読んでたし」

「……………っ」

どう考えても――自棄酒の末の、急性アルコール中毒。

かわいい孫のヒモ宣言に、衝撃を受けての――

立ちくらみと戦うがくぽに、カイトはほんのりと目元を染めて恥じらいながら、最高に愛らしく笑いかけた。

「おばーちゃんがね、『おばーちゃんが腕によりをかけて、あなたの彼好みにしっかり仕込んで上げるから、安心なさい』って」

「……………っ」

とりあえず――

カイトの祖母は、味方だ。おそらく。

がくぽはそれだけ、記憶しておくことにした。