寝起きはあまり良くないほうなのに、今日はしゃっきり目が覚めた。

ハレハレホロヒレ

「んっ、よしっ!」

気合いを入れてベッドから出ると、カイトは学校へ行く支度を整えだした。

鞄の中に教科書からノート、必要なものをすべて入れて、忘れ物チェックもしたら、一度部屋から出る。

洗面所に駆け込んで冷たい水で顔を洗ったら、鏡にぐぐっと寄って、細かいところをチェック。

「目やによしっ、ニキビなしっ!」

お顔チェックをクリアしたら、髪の毛についた寝癖をきちんと撫でつけてきれいに整え、再び自分の部屋へ。

床でくしゃっとなっていた制服を拾って、自分で軽くアイロンを当てる。

家事はしないカイトだが、アイロン掛けだけは自分でする。それが、制服を着だしてからの、親との唯一の約束。

ぴしっと皺の伸びた制服は気持ちいいし、アイロンの熱のにおいは、なぜか癒される。それはたとえば、夏であっても。

「んっ、きれいっ!」

朝のわずかな時間に軽く当てただけでも、見た目も着心地もまったく違う。

カイトはにっこり笑って出来映えを自賛すると、早速身に着けた。

「んっ」

ぴしっと伸びた制服は、心までぴしっと伸ばしてくれる。

部屋の片隅に置いた姿見の前で細かなところを整え、カイトは深呼吸した。

「がくぽ、ごめんなさいっ!」

大きな声で謝って、勢いよくぺこんっと頭を下げる――深々お辞儀で止まること、数秒。

「よしっ予行演習カンペキっ今日の俺はデキるっデキるオトコだぜ、神威がくぽっ!!カクゴしろっ!」

鏡の中に向かって意味不明な宣戦布告をし、カイトは身を翻した。

鞄を掴んで部屋から飛び出し、キッチンへ。

まだ寝間着姿でコーヒーを飲んでいた母親が、ひどく胡乱そうな視線を投げてきたが、気にしない。

食パンを出してトースターに突っ込み、昨夜のうちに母親が作っておいてくれたスープをあたためる。

焼けたパンにバターとジャム、ピーナッツクリームとはちみつを乗せて、大きなお口でばっくり。

二枚ほど食べきるとスープも飲み干し、もう一度洗面所に飛び込んで、しっかり歯磨き、しっかり口臭ケア。

「ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっ。よしいえるっっ」

くり返して再度気合いを入れると、キッチンに取って返し、鞄を掴んだ。

さらに胡乱そうな視線を寄越す母親に『いってきます』を告げて、外へ。

いつもより、ちょっとだけ早い時間だけど――

「……あれ、がくぽ…………?」

――がくぽが門の前で待っていても、少しも不思議なことなど、ない。

頼みも約束もしないのに、がくぽは毎朝、カイトの家の前で待っている。

けれど、今日のがくぽは、私服。きっちり結い上げている髪の毛も、わずかにラフ。

「………………カイト、あのな」

きょとんとした顔で立ち尽くすカイトの前にやって来たがくぽは、気まずい顔で乱暴に頭を掻いた。

「今日は祝日で、学校は休みだと、覚えているか?」

「…………………………………………え?」

ますますきょとんと瞳を見張るカイトに、がくぽは深いふかいため息をつく。

立ち尽くすカイトへ腕を伸ばすと、小柄な体を力いっぱい、抱きしめた。

「――俺が悪かった、カイト。もうしない。おまえをそんなに動揺させるなんて……本当に、済まなかった」