帰りは時間によるが、朝は絶対的に混雑した電車で、きゅうきゅうと潰されながら学校の最寄り駅まで行く。

普段はそれでも多少のゆとりがある区間に乗っているのだが、近隣の路線でトラブルがあったとか、悪天候だとかいうと、すぐさますし詰め。

らっしゅあわー

「今日はなにぃ~っ?」

「急病人救護で遅れたところに、踏切内人立ち入りの影響で、さらに遅れているための混雑だ」

「相変わらずだよね、がくぽ!」

乱闘好きでサボり魔の『問題児』とはとても思えない、情報収集能力だ。

「放って………っ」

「んきゅわっ?!」

きゅうきゅう潰されながら混ぜっ返すカイトに反論しようとしたところで、電車が急停車した。

「っっ」

慣性の法則に従って雪崩れる乗客すべてを、がくぽが支えられるわけもない。

押されるままに、カイトを潰す一員と化してしまう。

それでもさすがといえばさすがで、なんとか最低限に被害は抑えた。

ややして流れた車内アナウンスは、先行の電車が駅に詰まっているために、ここでしばらく停車するという。

「あー………」

ここら辺はもう、諦めだ。怒っているより諦めたほうが、ずっと楽なこともある。

軽く天を仰いだカイトはそのまま、密着するがくぽの胸へ、ぽへんと頭を預けた。

「寝る、もう。起きてても体力消耗するし」

「………」

おしくらまんじゅう状態で小さな箱に詰め込まれ、いわば体が支えられている。立ったままでも意外にうたた寝できるのが、唯一の長所といえば長所なのか。

そうとはいっても、がくぽはなんとか腕を動かし、カイトの腰を抱いた。少しでも支えになろうと、引きつける。

「………」

「………」

ぽへんと胸に凭れていたカイトが、わずかに顔を上げた。じっとがくぽを見る。

「…………なんだ」

視線だけちらりとやったがくぽの長い髪を無造作に掴み、カイトは頭を引き寄せた。

「おい」

「がくぽでなかったら、『チカン』って叫んでるからね?」

「…………」

「朝から、――『元気なご子息』をお持ちだよね、がくぽ……。その、若いって、タイヘンだね………」

他人の耳を憚って、カイトにしては珍しいほどにこそこそと、さやけく声で吹き込まれる言葉。

その意味するところは明白で、あまりの衝撃にがくぽは言い返すこともできずに固まった。

――いや、そのがくぽよりさらに、体の一部分が。

若いというならカイトだとて同い年で、そんなことを言われる筋合いは、――しかし。

固まっていたがくぽは、車掌の警告アナウンスとともに動き出した電車に揺られ、我に返った。

きりりと奥歯を鳴らすと、カイトの腰を抱いた手に力をこめる。

「次の駅で降りるぞ」

「は?!え、降りないよ?!降りないからね、がくぽがっこー行くんだから、もう二つ先までちゃんと乗って!」

「やかましいっ、降りるったら降りる!!」

駄々っ子のように小さく叫び返し、がくぽはカイトの腰をさらに抱き寄せた。