カイトは非常な上機嫌顔で、にっこりと笑った。

「これから一週間を、わんこの躾強化週間にしようと思うんだよね!」

Stay Gold

「わんこのしつけきょう………」

カイトの言葉をくり返しかけ、がくぽは止まった。わずかに考えてから、軽く拳を振るう。

「のげっ!」

最後の一人の顔面を容赦なく潰し、掴んでいた襟首を放り出した。

路地裏に広がる『死屍累々』――その出入り口に仁王立ちし、にっこりにこにこ上機嫌に笑う生徒会長。

毎度のことながら、乱闘中、いや、直後の現場を『飼い主』に押さえられた形だ。

ガラの悪い相手に何人で取り囲まれるよりもよほどの覚悟を決め、がくぽは自分が作り上げた死屍累々を超えてカイトの前に行った。

「そのわんこというのは、もしかして俺のことか」

「君以外の誰がいると思ってるの?」

カイトの表情は明るく弾み、声も楽しそうだ。

しかしもちろん、本当に心底からゴキゲンであるわけがない。

大人しく従っておいたほうがいいとは思いつつ、問題児が問題児たる由縁で、がくぽはカイトを睨み下ろした。

「おまえは俺をなんだと思っている。犬扱いに躊躇いがなくなっているが……」

「がくぽ、お手!」

「っ」

びしっと手を突き出して言われ、がくぽは反射で右手を出した。

ぼすんと、突き出されたカイトの手に置く。

カイトはその手を一度握ってから放り、軽く手首を振った。

「おかわり!」

「っっ」

――またしても反射で、がくぽは今度は左手を出してカイトの手に預ける。

軽く握って放り、カイトはがくぽの瞳を見据えた。

「立っち!」

「っっっ」

鞭のようにしなる声に命じられ、がくぽはびしりと背筋を伸ばし、姿勢を正す。帝国兵もかくやだ。すでに立っているがと、ツッコむことすらない。

そこまで一連、すべてを脊髄反射でやってのけたがくぽの両手を取ると、カイトは胸の前できゅっとくるみこんだ。

厳しさから一転し、嘆願を浮かべた甘い瞳でがくぽを見つめる。

「ね、がくぽここまで覚えたんだよ、君………やれば出来る子なんだから『待て』が出来るように、俺とがんばろう?!」