My Fair Incubus

「がぁくぽ、みぃつけたっ!」

「ああ…んっくっ?!」

――カイトはきらきらに輝く笑顔の持ち主だが、恋人であるがくぽの姿を認めた瞬間のその輝きたるや、言葉にし尽せないほどだ。

馴れもせずにうっかり見惚れて反応が遅れたら、がくぽのくちびるはすでに塞がれていた。

確かにここは、がくぽが校内に確保するさぼり場所もとい、隠れ場所のひとつで、人気はない。

が、それにしても生徒会長様ともあろうものが、問題児として鳴らす相手にいきなりちゅうちゅう吸いつくのはいかがなものか。

――とかなんとか、ぼんやりと考えていたがくぽの反応は、芳しいとは言えなかった。

実のところがくぽは目を開けていても、脳みそは寝ているような状態だったのだ。いわば、寝惚けていた。

現れたのが最上にして唯一のと思い定めた相手でなければ、がくぽも一瞬で覚醒していたのだが――

「んー……」

案の定で、芳しくない反応はコイビトのお気に召さなかったらしい。

カイトは不満の鼻声を漏らしながら、がくぽのくちびるを解放する。糸を引いた唾液をちゅるりと啜るカイトの様子に、がくぽの下腹はもやついた。

ムスコのほうが寝覚めがいいなと、未だ寝惚けたことを考えつつ、がくぽはご機嫌を損ねてしまったかもしれないコイビトを宥める言葉を探し、とりあえず口を開いた。

「あー……カイトどうした?」

「夢のほうが、すごかったかなー」

きっかけをなにかと思って振った言葉に、カイトはそれほど不機嫌な様子でもなく返した。

が。

「……ゆ、っ?」

ぎょっと瞳を見開くがくぽに、カイトは濡れるくちびるをちろりと舐め、肩を竦める。

「昨日の夜さ、夢見てさそれががくぽと、すんっっごいべろちゅー、する夢でさ……ってのを、ついさっき、思い出したんだよねー。で、思い出しちゃったら、がくぽとしたくなるでしょ?」

だから探して致しましたと、あっけらかんと説明する。

しかし説明して、カイトの浮かべる笑みは蠱惑的に変わった。

「どっちがすごいのかなーって。やっぱ、リアルの感覚に勝るものはないかと思ったんだけど…」

「浮気か」

「は?」

愕然としつつ、うわ言のようにこぼされたがくぽの言葉に、カイトは笑顔のまま首を傾げた。

その華奢な肩を、がくぽはがっしり掴む。

「浮気かそれはカイト浮気だな浮気だ俺以外のやつとキスした挙句それと比べただと?」

迫るがくぽは句読点をきっぱり無視した文節に、鬼気迫る形相だった。ひと目でまずい状況だとわかる。

「いやえっと、がくぽがくぽくんちょ、いたい、おちつ……『俺以外』じゃないです、がくぽくんですよ、がーくーぽっ誤解したちがうって、夢の中でも、相手はちゃんとがくぽ……」

珍しくも引きつりつつ、カイトは焦って答えた。両手を軽く掲げて、降参ポーズまで取る。

懸命に宥めようとしたカイトだが、甲斐もなく、がくぽは悲痛に叫んだ。

「夢の中の俺は俺じゃない!!」

「ぇええーーー………っ」

それはまあ、非常に厳密に定義すれば、そうかもしれないが――

絶句するカイトを、がくぽはきつく抱き寄せた。頤を掴むと、くちびるを寄せる。

「さっきのが俺の本気と思うな俺以上などないと、わからせてやる――もう二度と、他人で満足させるものか……他人のほうが良かったなぞと、言わせるものか!!」

「ふぁ、がくぽ………」

低く吐き出すがくぽはひどく男臭く、力強い雄の魅力芬々だった。カイトは危機的状況にも関わらず、うっかり見惚れ――

その無防備なくちびるにがくぽは容赦なく食らいつき、存分に貪り倒した。