花降らし
カフェで買ったランチを持って、近所の公園へ。
空いていた陽だまりのベンチに並んで座って、おなかいっぱい、おいしいものを食べた。
がくぽはお約束のように、『カイトが作ったもののほうがうまい』などと言って、カイトはそんなまめなコイビトの頬に、ご褒美のキス。
それから、なにをする予定もなく、そのままそこでひなたぼっこ。
「…………なんだかちょっと、おじーちゃんみたいじゃない、俺たち?」
「ああ?…………ああ、…………まあな」
笑って言ったカイトに、少し考えてから、がくぽも頷いた。
いい若い者の午後の過ごし方としては少しばかり、『枯れ』気味。
けれどお日さまは気持ちがいいし、公園にはいろいろなひとのしあわせが溢れていて、なんの関わりがなくてもいっしょの空間にいるだけで、しあわせが増えていく気がする。
「…………なあ、カイト」
「んー?」
気持ちの良い陽射しに、うとうとしかけた頃。
ぼそりと声をかけてきたがくぽに、カイトはわずかに顔を向ける。
背もたれに思いきり凭れて、空を眩しそうに見上げていたがくぽも、カイトのほうへ顔を向けた。
黙って手を伸ばされて、繋ぎたくなったのかと思ったら、なぜかわざわざ選んで左手を取られる。
そのままがくぽは、その手と手を繋ぐことなく持つと、するりと甲を撫でた。
「んふぁっ」
くすぐったさに、眠気が少しばかり追い払われた。
反射的にぴくりと揺れて引いたカイトの手を逃がすことなく、がくぽはさらに、薬指の周囲をぐるりと辿る。
「知っているか、カイト。――この国はな、同性同士の結婚を認めているんだ」
「え?」
唐突な話題に、カイトはきょとんと瞳を瞬かせた。しぱしぱと、瞬きだけをくり返す。
がくぽはわずかに悪戯っぽく笑って、預けられたままのカイトの薬指をつまんで振った。
「だから、男同士でも、結婚できる」
「………………へえ……」
外国に、そういう制度を設けている国があることは知っていた。
けれどまさか、自分が今、がくぽと住んでいるところがそうだとは知らなかった。
思わずきょろりと公園を見回してから、カイトのくちびるは悪戯っぽい笑みを刷いて、がくぽに戻った。
「俺と結婚したい、がくぽ?」
「そのつもりで、連れて来た」
「はい?」
からかうつもりで訊いたのに、まともに返答された。それもかなり、聞き捨てならないことを。
瞳を見開くカイトに、がくぽはつまんだままの薬指を軽く振る。
「……………………だってがくぽ、俺たち、ガイコク人だよ?」
「届出自体は認めている。それに、帰化しても構わないと思う国を選んだ」
「……………………」
カイトはひたすらに目を丸くして、あっさり答えるがくぽを見つめる。
がくぽはほんのり笑みを刷くと、つまんだままのカイトの薬指の付け根を撫で、持ち上げると口づけた。
「――結婚してくれるか、俺と?」