こんなことは、言いたくない。

言いたくないのだけど――

Under Pressure

がくぽの一日の、スケジュール。

朝起きたら、ベッドの中でカイトといちゃいちゃ。

→ベッドから出たら、朝ごはんを作るためにいっしょにキッチンに入って、べたべた。

→ごはんを食べながらも、あーんしたりちゅっちゅしたりおさわりしたり。

→お片づけをいっしょにしたら、学校に行くまでひたすらカイトといちゃべたいちゃべた。

→二時間くらいして午前の講義を終えると、カイトが家にいる日は帰ってきて、ランチデート。

→午後の講義が始まるまで目いっぱい、カイトを構い倒して、再び学校へ。

→そしてまた、二時間くらいして午後の講義を終えると、まっすぐご帰宅。

→キッチンに立つカイトになにかとちょっかいを出しつつ、お夕飯にして――

あとはもう寝るまでとにかく、カイトといちゃべたいちゃべたちゅうちゅうちゅう。

カイトとしては、一日中がくぽと愛し合うことが、いやなわけではない。むしろ、歓んで。

でも、言わないといけないことがある。

こんなことを言う羽目に陥る日が来るとは、まさか思わなかったけれど、心を鬼にして、言わないと!

「がくぽ………っ、がくぽも………っ、こんなこと、ばっかりして……っ、べんきょーしてるの?!」

二人で暮らすアパートメントでいっしょにお昼ご飯を食べ、『じゃあデザート』などと言われ、ダイニングテーブルに転がされた状態で、カイトは叫んだ。

親と暮らしていたとき、言われたくなかった言葉、ナンバー1。

親元を出てがくぽと暮らし始めて、ようやく解放されたその言葉を――皮肉にも、自分が言う羽目に陥るなんて。

「家にいるときに………っ、べんきょーしてるの、見たことないけどちゃんと、授業についていけてる?!」

「心配ない」

嬌声交じりのかん高く甘い声で詰るカイトに、がくぽは体に埋まったまま、素っ気なく答える。

そう、親にこれを言われると、カイトの声もトゲトゲとしたものだった――ちゃんとやっているのに、と。

でも、言わないといけない――言わずには、おれない。

水が合うのだろう。たまに見に行くがくぽは、本当に楽しそうに生き生きと、講義を受けている。

友人も多くて、ふざけ合う姿は年相応で、――

高校生のころのがくぽを知っていればいるほど、この環境を失わせる要因になりたくないと、痛切に思う。

カイトに耽溺して学業を疎かにした挙句、退学などと――

「がくぽ………っ」

涙交じりのカイトの声に、がくぽはようやく顔を上げ、うっそりと笑った。

「………本当に大丈夫だ。単位を落とすようなへまはしない。この生活を失うようなことは、決して」

「………」

潤んで見つめるカイトの頬にキスを落とし、がくぽの瞳は鋭さを帯びて宙を睨んだ。

「俺が道を踏み外せば、この生活を失う。おまえとひとつ屋根に暮らし、共に生きる生活を。――常に触れ合えるこの距離を失ったらもう、生きてはいけない。おまえと共に居続けるために、決して他事も疎かになどしない」

「………」

真摯に告げるがくぽに、カイトはすん、と洟を啜った。

そのカイトへ、がくぽは一転して悪戯っ子めいた表情を浮かべると、瞳を輝かせた。

「大体にして、人間の集中力なんてものには、限界がある。長時間の勉強は惰性でしかない。それより、短時間でも極限まで集中してやったほうが、効果も高いし効率もいい」

「………」

「なによりも、きちんとおまえを『補給』しておかないと勉強にさっぱり身が入らなくて、それこそ時間の無駄だ」

なんだか、うまく騙されているような、言いくるめられているだけのような。

「…………………しょーがない子………」

それでもつぶやくと、カイトは伸し掛かったままのがくぽに手を伸ばし、その体を抱き寄せて口づけた。