仲睦まじい様子の二人が、笑い合う。片割れが首に巻いていたマフラーを解き、相手の首にかけた。

ひとつのマフラーを二人で分け合うと、腕を組んで――

ドギー・ドッグ・ドリー

「………」

微妙な表情で広場のカップルの姿を眺め、がくぽは無意識に鎖骨に手をやった。

そう、鎖骨だ――意識したのは首でも、こうして何気なく触れることすら、出来ない。

気軽に触れられない、克服しきれない弱点。

「………」

ため息を噛み殺し、がくぽは傍らに立つカイトを見た。

寒さが苦手なカイトは、元の体の華奢さを疑うほどに、ころころぷくぷくと着膨れている。

もちろん首には、マフラー。

ぐるぐるに巻いてもまだ余る長さだから、おそらくわずかにでも解けば、あのカップルのように――

「あ、そういえばさ、がくぽ…………がくぽ?」

唐突に振り仰いだカイトは、微妙な表情で広場を眺めるがくぽに、軽く瞳を見張った。

視線の先を追い――小さく、ため息。

「がぁくぽっ!!」

「っいっ?!」

垂れる長い髪を容赦なく掴んで引っ張られ、がくぽは思いきりカイトへと屈みこんだ。

やめろ痛いハゲると何度も言っているのに、この癖だけはさっぱり聞き入れられない。

「カイ、っっ」

「んっ………っ」

聞き入れられなくても、いつものように苦情を申し立てようとしたがくぽに、精いっぱいに伸び上がったカイトがくちびるを寄せる。

そのくちびるが向かう場所は、屈んで近づいたくちびる――ではなく、この寒空にも、コートもシャツも開いて晒されている、がくぽの首。

「………っっ」

びくりと震えて強張ったものの、叩き払うことも仰け反って逃げることもなく、がくぽはカイトのくちびるを受け止める。

わずかに走った痛みと、ちゅくりと舐め辿る音。

息を止めるがくぽが酸欠になる前に離れたカイトは、長い髪の隙間から覗く耳を掴んで引っ張った。

「ばかなこと考えてるんじゃないよ」

「………カイト」

小さくちいさく呼吸を戻しながら体を起こしたがくぽに、カイトはにんまりと笑う。

「がくぽは首、隠したらだめだよ。隠したりしたら、せっかくの『首輪』が見えなくなっちゃう」

「………」

しらっと吐き出される言葉に、がくぽは首へと手をやった。

触れることは出来なくても、そこに感触が残っている。カイトのくちびるが触れ、舌が舐め――

証として残されたであろう痕を思い、がくぽの表情は自然と笑みを刷いた。

儚さがあっても確かな笑みを見たカイトは、やや乱暴にがくぽの腕に腕を絡めた。ぎゅっとしがみつくと、笑う。

「さっさと買い物終わらせて、とっととおうち帰るよ、がくぽその首、もっとがぶがぶ咬みついて、歯型だらけにしてやるから!」