『ダンナさまから電話だゾッダンナさまから電話だゾッ早く出ロッダンナさまから』

Ring a Ding a Bell of Pumpkin

「はいはいはーいっ!」

キッチンカウンタに放り出していた携帯電話がけたたましく鳴り響き、カイトは洗濯物を取り込んでいたベランダから部屋の中へと、駆け戻った。

「はいはーいっ、お待たっ、がくぽっどしたの?」

着信音で、相手がわかっている。明るく出たカイトだったが、すぐに訝しげな表情を浮かべた。

相手はがくぽだ。今日は昼食に一時帰宅することもなく、夕方まで大学で講義を受けているはずの――

「…………はなにえっちなこと、言え?!」

壮絶に眉をひそめて問い返し、カイトは一度、携帯電話を耳から離した。

表示される名前は間違えようもなく、カイトの『旦那様』だ。受話器越しだろうと、その声を聞き間違えるわけもない。

耳を戻し、カイトは眉をひそめたまま、とんとんとカウンタを叩いた。

「がくぽ、君ね。俺に真昼の団地妻ごっこでもやらせたいの?」

微妙にマニアックな問いを放ちながら、カイトは窓の外に目を向ける。まだ日が高い。

昼食の時間は過ぎたが、夕方には微妙に遠い。

「…………っあーあー、わかったわかった、わーかったっえっちなことね?!言えばいいんでしょ、言えば。言ういう、言うから!」

ごねる受話器向こうの相手にぼやき、カイトはがりがりと頭を掻いた。

カウンタから離れると、窓辺に戻る。床に放り出してきた洗濯物を大変お行儀よく、足に引っ掛けて拾い始めた。

「あー、………えっとぉー、今穿いてるのはぁ、水色のすけすけパンツでぇー。裾に白いレースがついててぇー」

おかしな声色で言いながら、カイトはリズム良く、足に引っ掛けて洗濯物を拾っていく。

ある程度腕に溜まったところで、一度、ダイニングテーブルへと置きに行った。

「ちょこっとだけ小さめサイズだから、きつきつきゅうきゅうなのぉ。もぉすぐに、はみはみしちゃいそうでー、どっきどきでぇー」

カイトはテーブルの上に洗濯物を放り出し、皺にならないように適当に伸ばして、種類ごとに分ける。

分類が終わるとカウンタへ行き、ポットからマグカップにコーヒーを注いで、角砂糖を三つ放り込んだ。

「でね、ぶらじゃぁvvvはねー、んと、してないのぉっwwwでもでもっ、なんにもしてないわけじゃ、ないんだよぉちくびちゃんにだけ、お星さまシールぅっ☆」

なんとも言えないテンションの声でアレ過ぎることを言いながら、しかしカイトの表情は至極冷静だ。マグカップを持ってキッチンに入ると、一度調理台に置き、冷蔵庫からミルクの瓶を取り出した。

そこで、ふいっと眉が上がる。怪しいテンションの声が、即座にいつも通りに戻った。

「んなに…………あそう。満足したの。え……………ふぅん、漲った…………」

微妙な表情でつぶやき、カイトは砂糖入りコーヒーにミルクを注いだ。ミルクを冷蔵庫に戻したら今度はスプーンを取り、カップに放り込む。

「ああうん、ありがと。俺も愛してるよ、ダーリン。午後もしっかり、おべんきょしてね☆」

軽く天を仰いだカイトは、しばらくして耳から電話を離した。

通話が終わったことを示すサインを見ながら、カイトもまた、待機モードに戻してカウンタに放り出す。

代わって中身をほどよく混ぜたカップを持つと、温度を見るようにそっと口に当て、頷いた。

「まあ、なんていうか…………俺の旦那様はときどき、情緒不安定だよね」

そこがかわいーんだけどさ。

愛があることをつぶやいて、カイトは甘ったるいミルクコーヒーを啜った。