カイトはやると決めたことは、全霊を懸けてやり切る男だ。それは日本にいたころから、変わらない。

やると決めた以上は、手抜きも妥協もしない。男に二言などない。やると言ったら、やる。

それが、がくぽが溺愛し、耽溺した、カイトという男だった。

ぶらいど・ぷらいど・ぶれいど

「がーくーぽー!」

ご近所の人々が総出で、パーティ会場へと変貌させた個人宅の庭に、一際明るく弾む声が響き渡った。

本日のガーデンパーティ――結婚披露宴の主役の片割れ、純白のウェディングドレス姿の『花嫁』だ。

花嫁は高く弾む声から受ける印象を裏切らない無邪気さで、着替えに使っていた家の中から庭へと駆け出して来る。

そのまま勢いを殺すことなく、先に庭に出て友人たちと談笑していた新郎――がくぽに飛びついた。

「ぇっへへーっ!!」

「三国一――いや。世界一の花嫁ぶりだな、カイト」

揺らぐこともなく受け止めたがくぽは、見事に『花嫁』と化した伴侶を眩しげに眺めた。

純白のウェディングドレスに身を包んでいるが、カイトだ。がくぽが伴侶とするのは、彼以外にいない。

その愛おしい伴侶だが、異国の方々から見ると多少、突き抜けて、――つまり、かわいらし過ぎるようだった。

性別や年齢について、解いてもといてもエンドレス解いても、誤解されている気配が微妙に付きまとう。

今回、結婚披露宴を催してくれるとなったときも、そうだった。

すべてが手作りの披露宴だ。がくぽの着ているタキシードと、カイトが着たウェディングドレスももれなく、懇意にしている老婦人方が手作りしてくれた。

同性同士なので籍を入れただけで終わらせたと説明したら、同性だからなんぼのもんじゃと、背中を叩いて開いてくれた披露宴なのだが、――

彼女たち含むご近所の方々や、学校の友人たちに悪意も他意もない。

むしろあるのは、困難な道を選択した若者たちに対する、深いふかい愛情だ。

である以上、誤解を拭いきれていない危惧が芬々としていても、用意されたドレスを着ないという選択肢は、カイトにない。

そして着ると決めたなら、カイトは完璧に着こなすべく、全力を尽くす。その潔さと男ぶりの良さは、がくぽも敵わないと舌を巻く点だ。

たとえそれで、正真正銘の男でありながらウェィディングドレス姿となっても。

「んっふふがくぽのヨメ俺ですし、とっぉぜん!」

翳りもなく、カイトは無邪気に笑う。ますますもって文句のつけようもなく、歓び溢れる『花嫁』そのものだ。

「そうだな、カイト………」

「ぁ……」

愛おしさが堪え切れず、がくぽはそっと、カイトの顎を捉えた。薄く開いて寄るくちびるの意味がわからない関係でもなく、カイトもまた、瞼を伏せるとほんのりとくちびるを開く。

が、二人のくちびるが触れ合うことはなかった。

無粋にも、がくぽの肩が後ろからがっしりと掴まれ、だけでなくぐいぐいと引かれたからだ。

「ああ?!」

「ぷきゃっ!!」

止めた相手は、がくぽが通う大学の友人たちだ。しかし友人とはいえ、やっていいことと悪いことがある。

殺意とともに振り返ったがくぽだが、祝いの空気をぶち壊す乱闘に発展することはなかった。――どころか、彼らの言葉に一瞬にして怒りを霧消させると、微妙な顔で腕の中のカイトへ視線を戻す。

「がくぽなに、どうしたのなに言われたの?」

瞬間的にきつく胸の中に抱き込まれ、耳を塞がれた。がくぽが友人たちから言われたことを聞き取れなかったカイトは、心配そうに伸び上がって訊く。

がくぽはしばらくくちびるを空転させてから、意を決した。

この世のなによりも愛おしい『花嫁』を、しっかりと見据える。だけでなく、抱く腕にも力を込めた。

「日本語には直すが、――言われたことを言われたまま、飾りも要約も編集もせず、そのまま言うぞ?」

前置きし、がくぽは表情を空白に落とした。機械的に、口を開く。

「『カムイ、確かに俺たちは……』」

――カムイ、確かに俺たちは、愛に寛容だ。寛容だが、犯罪を見過ごすわけにはいかない。いくら愛があろうとも、そんな幼気な少女に手を出すなど、やはりだめだ!

「い、たいけ…………な、しょう………………………じょ」

がくぽの言葉の断片をくり返したカイトの表情もまた、空白に落ちる。

理解したくない言葉を理解するための、永遠のような数秒を挟み、カイトは唐突になにかしらを爆発させた。

「って、だれがいたいけなしょじょしょーじょだ、こるぁああああ!!」

「処女だとまでは言ってない。処女少女とは言ってない、言ってないぞ、カイトー………」

がくぽは無意味な反論をこぼして友人を擁護し、ドレス姿で暴れる花嫁を止めるべく、腰を掴んだ。

この場に集まった老若どの女性よりも、華奢で細い腰を。