「じゃあ、これは次のとき、来週までの」

「えっ、がくぽせんせっ来週、お休みだよっ?!」

「え?」

次のときまでの課題を説明しようとしたがくぽに、カイトが瞳を見開いて叫ぶ。

驚いて目が丸くなったのはがくぽもで、間抜けにカイトを見返した。

朧心中

「休み?」

「そーだよっ言ったよね、俺来週は修学旅行だから、せんせもお休みって」

「…………あ。…………………………………ああ………」

カレンダーを指差して言われ、がくぽはようやく記憶を掘り起こした。

確かに言われた――修学旅行に行くから、来週は一週間、家庭教師は休みだと。

覚えていたくない不愉快な予定だから、すっかりと忘却の彼方にやっていた。

「そうだった、な」

「うんっねっ、せんせっせんせにもちゃんと、お土産買ってくるからっ。なにがいい?」

「ああ、ありがとう。…………ええと、どこに行くんだったっけ……」

「もー他人事だと思って、全部忘れてるーっ俺、この間もちゃんと説明したのにぃっ!」

詰りながらも、カイトの声も表情も明るい。

仕方のないせんせだなとかなんとか、ぶつくさ言いつつも、鞄の中から旅行のしおりを取り出すと、開いて説明し始める。

上の空で聞きつつ、がくぽはため息を噛み殺した。

なにが不愉快だといって、カイトと一週間も会えないことが、なによりも。

いっそ行くなと言いたいが、自分にも学生時代があった。

学生にとって修学旅行がどれほど楽しみなものかは知っているし、大切な思い出になるとわかってもいる。

だからできるだけ、笑って送り出そうとは思うけれど――

「ねっ、せんせっお土産なにがいいっ?!」

「ん、ああ…………」

きらきらと輝く笑顔のカイトは、本当に修学旅行が楽しみなのだろう。

一週間も会えないことを寂しがっているのは、自分だけ。

感傷と理不尽な憤りとで複雑な胸中を持て余しつつ、がくぽは微笑んだ。

そっと顔を寄せると、カイトの額にくちびるを落とす。

「君が無事に帰ってくること」

「え………」

きょとんとした教え子に、がくぽは微笑んだまま、くり返す。

「君が思う存分に旅行を楽しんで、無事に帰って来てくれること。それが私にとって、なにより一番のお土産だよ、カイト」

「そんなの、んっ」

なにかしら反論を紡ごうとしたくちびるを塞ぎ、がくぽは自分のもやつく胸にも蓋をした。