かっこいいひとが、正門のところにいる、と。

帰ろうとしたところでそんな声が聞こえてきて、カイトはぱっと顔を向けた。

綺々凛々

とはいえ昇降口の中からでは、正門は見えない。

ただ、『かっこいいひと』と聞いて、カイトがすぐさま思い浮かべるのは、自分の家庭教師――

彼よりかっこいいひとなど、カイトは見たことがない。

「……………メール、なし」

念のため、携帯電話を取り出してメールの履歴をチェックしたが、彼からの連絡はない。

ということは正門にいるのは、彼ではないかっこいいひと。

きっと絶対、彼よりかっこいいなんてことはないけれど、どうせ正門は使うし、話のタネに顔を見るくらい――

と、思ったら。

「……………せんせ」

遠目でも、そのひとを見間違えるわけなどない。

『部外者』ゆえに正門の傍らに立ち、中に入って来ようとしないのは、誰あろう、件のカイトの家庭教師である、がくぽだった。

「え、どうして……………でも」

昇降口を出たところで立ち止まり、カイトはもう一度、メールの履歴をチェックする。

センター預かりにもなっていない。

連絡はなし。

けれど、がくぽがいて、人を待っている風情だ。

「………だれ?」

門柱に凭れて俯いているがくぽを見つめ、カイトの声は不安に揺れた。

この学校の生徒で受け持っているのは、カイトだけだと言っていた。だから人を待つなら、きっとカイトだ。

カイトだと、思うけれど――メールも電話も着信した履歴がない、携帯電話。

会いに来たよと、早くおいでと、言われもしないのに、カイトを待っていると断定することなど、出来ない。

だって本当に、とてもとてもかっこよくて、素敵なひとだから。

「…………せんせ………」

かっこいい、迫力がある、すごくきれい――

周囲の声を聞きながら、カイトはしばし立ち尽くして、その姿を見つめていた。

「………っ」

ややして、きゅっとくちびるを噛む。

握り締めていた携帯電話を鞄に放り込むと、ひとつ大きく、息を吸った。

大好きな先生――カイトに、君が好きだよと言って、キスをくれる先生。

たとえ連絡をくれなくても、ここにいるなら、カイトを待っている。

「ぜったい。ぜったいぜったいぜったい。ぜったい!」

つぶやくと、カイトは一度目を瞑って、開いた。

固まって痛い足で地面を蹴り、重い腕を振り上げて、閊える咽喉を振り絞る。

「せんせーっ!!がくぽせんせーっっ!!」

手を振り回し、大きな声で呼びながら駆け寄っていくと、ぱっと振り向いたがくぽは、はっきりと笑顔になった。

手を上げて、招くように応えられる。くちびるが動いて、カイト、と呼ばれた。

やっぱり、自分を待っていてくれた!!

こみ上げた悦びに、カイトはほとんど泣きそうになりながら、がくぽの胸に飛び込んだ。