フィヨルドの占術師

「そういえば、カイト先生……カイト先生の体重って、何キロぐらいなんですか?」

勉強の合間、息抜きの雑談中だ。ふと思い立って訊いたがくぽへ、カイトはふっと笑った。とてもナナメだった。

「がくぽくん……せんせがとっっってもイイコト、教えて上げるねあのね、女の子に体重訊くと、もれなく抹殺されるからそれがたとえ、『軽いね細いね』って、褒めるためだったとしてもね?!」

「いや、せんせ、まっさ……あの、先生?!なにかトラウマでも?!」

尋常ではない、鬼気迫る様相でのご回答だったが、違う。微妙にずれている。

がくぽが体重を問いかけたのはカイトであり、そしてカイトは男だ。曰く主張されたところの『女の子』ではない。

たとえがくぽの恋人として、ベッドでは『女役』だったとしてもだ。がくぽが問いかけた先のカイトは、あくまでも『男』なのだが――

「てかさ、いきなりナニなんで俺の体重なんて気にしてんの、がくぽ」

目を白黒させて戸惑うがくぽに、カイトは打って変わって軽い調子で訊き返してきた。

つまり、『いつもの』だ――からかわれたのだ。相変わらず、年下の少年をからかうことに全力を懸けてくれる恋人だ。

言うなれば、カイトのこの性質、性根具合については、もはや諦めが勝るがくぽだ。

不憫な少年は憤ることも抗議することもなく、返された問いに素直に答えた。

「ええと、姫だっこ嫁だっこですかとにかく、それです。鍛えるにしても、一応先に、カイト先生の体重も目安として確認しておこうと思って…。もちろん、どうあっても平気なように、俺が鍛えればいいだけの話ではあるんですけど」

「ぅんむっきむっきーvvvになって姫だっこ嫁だっこ……を、ヤんの俺でがくぽ、が???」

にこにこと――がくぽの主観だ。他人から見れば『にまにま』というのが近い――話を聞いていたカイトだが、その表情まま首を傾げた。ふくろうもかくや、いっそそのまま回転しそうなほど、傾げる。

がくぽは疑問もなく、先の自分の問いをすらすらと補填しているが、むしろ新たな疑問が量産されていく。

つまり古今続く、女の子憧れのシチュエーションのひとつだ。騎士でも王子でもなんでもいいが、憧れの彼にお姫様よろしく、軽々と横抱きにされるという――

それをカイトとやる予定だと言っているのだろう。カイトを姫役に、そしてそのために、騎士役、抱える側のがくぽは筋トレを始める気だと。

しかしてあえてくり返そう。『女の子の』だ。

カイトは男だ。たとえ『女役』であっても、女の子的嗜好はない。

そんなことは承知のはずなのだが、いったいなにをどう考えた挙句、こんな結論に至ったのか、このお子は。

カイトが言外に含ませた意味もわかったうえで、それでもがくぽはこっくり、とても素直に頷いた。

「はい。俺の体格がもう少しいいところまでいけば、きっと先生は『やれ』って言うでしょう?」

まるで疑いもない様子で、とても素直に――

素直は美徳とはよく言うが、時と場合による。

カイトのこめかみとくちびるが、ひくひくと引きつった。一応まだ、笑ってはいる。いるが――

「あのね、がくぽくん……神威がくぽくん君、俺がナニに見えてんのそんな夢見るオトメ『かーわーいーいー』?」

にこにこひくひくと訊くカイトの機嫌の向きは、名前の呼び方からしても、あからさまだ。

それでもがくぽが前言を撤回することはない。多少気後れしたように首は竦めたが、きっぱり言った。

「いえ、先生は……自分の好悪の感情とかは脇に置いて、とりあえず『お約束』は『お約束』として、できることは全部試すでしょうなので、乙女かどうかは関係なく、『まあお約束だから』で、姫だっこもやれと……」

「くっふふふふぅっ!!」

――概ね言うと、まったく反論の余地もない、正確にも過ぎる分析であり、導き出された解答だった。

カイトの恋人のがくぽは、単にきまじめな少年であるだけでなく、実に頭脳明晰、優秀極まる生徒でもあるのだ。

怪しい笑い声を閃かせたカイトは、爛々に目を輝かせて立ち上がると、きまじめ素直な年下の恋人に向かってびしぃっと、人差し指を突きつけた。

「太ってやるッ!!がくぽがむっきむっきーvvvに筋トレ極めるまでに、ぷっくぷくに太ってやるぅうっ!!」

そうそう簡単に自分が与える『試練』をクリアできると思うなよということだが、いわば悔し紛れで、敗北宣言だ。そのまま、ぅわぁああんと泣きながら走り去っても、不思議はない風情だった。

そうやって敗北感に塗れる年上の恋人の全身を、服の上からとはいえ改めて隈なく確認した年下の、きまじめにも過ぎる恋人といえば、非常に厳格な様子でこっくりと、頷いた。

「そうですね、先生……始音先生……是非にもお願いします。三食しっかり食べて……ええ、最低でも朝昼晩と、一日に三回はきちんとしたものを、しっかりきっちり食べて……もう少し、体に肉をつけましょうか………!」