形こそ大人でも、使用感のない、愛らしい色味なのがカイトの男性器だ。おかしな言い方だが、しなだれているときでも、興奮に天を衝いているときでも、清潔感がある。

だから口に含むのでも、がくぽに抵抗はない。むしろずっとしゃぶっていたいほどだ。

謀略マンチ・キャットと栄光の夜明け-03-

「ん、ぁ、あ………っ、でちゃ、せんせ………っせんせ、でちゃ……っぁあっ」

「ん……っ」

がくぽの口に男性器を含まれてねっとりと舐め回され、快楽にひっきりなしに震えていたカイトだが、一際大きな波に浚われて、腰を弾ませた。ベッドが軋むほどに激しく痙攣し、含んでいたがくぽの口の中に極めた証を噴き出す。

咽喉を鳴らして飲みこみ、だけでなくじゅるりと音を立てて吸い上げて、残滓まできれいに啜り取ってから、がくぽは顔を上げた。

ちろりとくちびるを舐め、満足そうに微笑む。

「相変わらず、濃いね………今日のことを想像して、ひとりでしたり、しなかったのかな」

「ん………っ」

余韻に震えていたカイトは、がくぽのこぼした感想が聞こえなかったらしい。小さく息をつくと、力の入らない体を懸命に起こし、傍らに座って後味を愉しんでいるがくぽに抱きついた。

「せんせ」

「ああ、………キスは待とうね、カイト。口をゆすいでいな……」

「あのね、せんせ、がくぽせんせ………きょうは、俺も、する。俺も、がくぽせんせの、………くちで、する」

「………」

意図していなかったことを言われ、がくぽはぴたりと動きを止めた。ついついじっと、あられもないおねだりをこぼすカイトのくちびるを見つめてしまう。

キス以外、知らないくちびるだ。

これまで、体を繋げることは何度かしても、がくぽはこの口に自分を含ませたり、ほんのわずかでも舐めさせようとしたことがなかった。

されるのが嫌いなわけではない。させるのが、いやだったのだ。

手を出して体まで繋げていながらなにをと言われるのは承知だが、ここに含ませるのはまた、別の抵抗があった。

自分が含むのはまったく構わないが、カイトがするのは――させるのは、違う。

腹に入れて思う存分に掻き混ぜたい欲求とそれは、ベクトルの違う場所にある。少なくとも、がくぽは。

「したことないから、ヘタかもだけど……」

「いや、……」

『かも』ではなく、確実に下手だろう。逆に下手でなければ、困る。

凝然と見つめたまま動きも取れないがくぽはそこまで考えて、ひとつ息を吐いた。ため息にも似たそれで、胸に蟠るものまですべて追い出し、自由を取り戻す。

誑かす大人の笑みを浮かべると、傍らに座るカイトに伸し掛かり、有無を言わせぬ動きでベッドに転がし直した。

「せんせ……っ」

「おいおいね、カイトそのうち………私のことを、『先生』ではなく名前で呼ぶように、いつか」

「いつかって、いつ……ぁ、じゃあ、俺きょう、がんばる………せんせじゃなくて、なまえ………なまえっ」

「いいから、カイト。無理はしない」

丸め込まれる気配を感じたのだろう。じたじたともがいていたカイトだが、がくぽは苦も無く押さえこんだ。

――そもそも、知っているにも関わらず、すぐさま『名前』で呼べずにじたじたしている時点で、『その日』が未だ遠いことがわかる。

単に羞恥心からだが、だとしても乗り越えるのに苦労する山というものはあるのだ。

多少強めに押さえつけたうえで、がくぽは快楽とは別のところで顔を真っ赤にしているカイトへくちびるを寄せた。

赤く染まり、あからさまな熱を持つ耳朶を含んでしゃぶる。

「んっ、ぁ………っ」

「そして私も、無理はしない。カイト、悪いのだけれどね………私もそうそう、余裕があるわけではなくてね君にしゃぶってもらうのは、非常に魅力的な案なのだけれど――赦してもらえるなら、できれば早々に、君の下の口のほうに、しゃぶって欲しくてね………?」

「し、たの………っく、?」

弱点を攻められながら、吹き込まれる声がどろりと蕩けて脳髄を溶かすようなものだ。元々の知識量もあるが、咄嗟に理解できないカイトは、ぷるぷると頭を振ってがくぽのくちびるを拒んだ。

素直に離してやったがくぽが待つこと、数瞬。

「したの………っ!!」

「少なくとも、解説されずに理解できるようになっているから、確実に成長はしているね、カイト」

爆発的に肌を染めたカイトに、家庭教師は非常に冷静な講評をこぼした。

しかし羞恥に思考が弾けたカイトの耳には、入らない。うろうろふらふらと目を泳がせ、先とは別の意味でじたじたともがき喘ぐ。

「せん………っせんせの、がくぽせんせの、えっちっ………がくぽせんせ、えっちっ………っ!」

「大人だからね、カイト」

しらりと告げて、がくぽは再び屈みこんだ。危ぶむほどに熱を持ちながら染まる首筋を舐めて耳朶まで辿り、強請るように、催促するように、やわらかな肉に牙を立てて引っ張る。

「で、カイト……君、えっちな私は、厭どうしても、上の口でなければ、だめ下の口で、私のことを受け止めてはくれない………?」

「んんっ、ひゃっ、ぁ、ぁうっ!」

容赦もなく、立て続けに快楽に晒され、言葉を吹き込まれる。

堪えも利かずにかん高く啼いたカイトは、懸命にがくぽの首に腕を回し、全身できゅうっとしがみついた。そうすると、足の際に当たる熱がある。もはや、なんだかわからないということもない。よく知ったとまではまだ言えないが、その質感に震えて駆け上るものがある。

「ぁ………っせん、せ………がくぽ、せんせ………」

「ああ、カイト……」

やわらかに抱き返してくれる男の耳朶にくちびるを寄せ、カイトは縋るようにかぷりと咬みついた。愛撫と呼ぶには粗雑で、痛みの走る力だ。

ぴくりと揺れたがくぽだが、カイトを引き離すこともなく、怒ることもなかった。

ただ、抱く腕に力が込められ、過ぎる快楽を逃がしたカイトは安堵の吐息をこぼす。

「いれて………して、えっち。いちばんいちばん、えっち………俺に、して、せんせ………」

「………ああ、カイト」

吐き出された許諾に、瞬間、カイトを抱くがくぽの腕には力が込められた。すぐに緩むと、わずかに性急な動きで肌を辿り、羞恥と緊張できゅっと締まっているカイトの双丘を撫でる。

「ぁ……っあ………っ」

「いい子だね、カイト………ここでもう、気持ちよくなれることを、知っているね?」

「ん………っん、ん……っ」

襞をやわやわと刺激されながら訊かれ、カイトはこくこくと頷いた。それでもまだ、体が硬い。

苦笑したがくぽは力づくでカイトを引き離すと、首筋に舌を這わせた。耳朶まで辿って鎖骨に戻り、頬を食んで、また首筋に咬みつく。

「ぁんん………っぁ、ふぁんっ」

啼くカイトの声に甘さが色濃くなり、かちこちに固まっていた体からも力が抜ける。

しがみついていた腕も緩くなったところでがくぽは体を離し、枕元に忍ばせておいたローションを取り出した。手を伝わせて襞にとろりと流し、濡れた指とともに中へと押し込む。冷えた感触にぶるりと震え、きゅうっと締めつけたカイトの耳朶に、がくぽはくちびるを寄せた。

「たっぷりと、ローションを入れるからね………初めはちょっと気持ち悪いけれど、すぐによくなる」

「ゃあんっ、ぁあ……っ」

「とろとろに蕩けたら、私のものを入れるよ、カイト………君の下の口で、たっぷりと私をしゃぶってもらうからね………?」

「んんっ、せんせぇ………っ」

耳朶には誑かす声を、腹の中にはローションを、同時に入れて掻き混ぜられ、カイトは惑乱にぷるぷると頭を振った。逃げるようにも、誘うようにも取れる動きで腰が揺らめき、くちびるからはひっきりなしに喘ぐ息と声がこぼれる。

「せんせ………がくぽせんせ………ぁ、もぉ………ね、もぉ………っ」

ややしてカイトの体は完全に解け、上がる声は強請る色を含みだす。

腰をわずかに浮かせ、突き出すようにしておねだりをするカイトの淫らな様子に、がくぽは仄かな笑みをこぼした。

「……もう少し、していたいけれどね、カイト?」

「んんん………っいれて………いれて、せんせの……っ」

ぐちゅりと、耳から犯されるような音を立てて弄るがくぽに、カイトはぷるぷると頭を振って強請る。

がくぽは笑みを深めつつ、素直に指を抜いた。しかし、ぽつりとつぶやく。

「どうも思うに君、あと少ししていたら、このままイくような気がするんだが」

「………っっ!!」

「ははっ!!」

カイトの反応は、がくぽの言葉を裏付けるものだった。いわば、『いれる』前段階の、準備中に頂点を極めそうだと。

自分でも危ないと思えばこそ、カイトも慌ててがくぽ自身を強請ったのだろう。

声を立てて笑ったがくぽは、言葉もなく、羞恥のあまりに泣きそうになっているカイトの足を掴んで殊更に開いた。

「ゃ………っ」

「行くよ、カイト。たくさん、しゃぶって………気持ちよくして、もらうからね?」

「ぁ……っ………っは、ぁ………っっ」

瞬間、漲る自分を見せつけてから、がくぽはカイトの中へと押し込んだ。体が割り開かれる感覚に、カイトが背を仰け反らせる。体のやわらかさが知れる角度だ。

様子を見つつも止まることはなく、がくぽはカイトの腹へ自分を埋めきった。

「ぁ……っあ、あ……っ、せん、………がくぽ、せんせ……っ」

「………蠢いて、絡みついて………わかる、カイト君、私のことをとても淫らに貪っている」

「ぁ、あ………ぁあん、せんせっ………」

馴染み切っていないところで軽く揺さぶられ、カイトはぶるりと背筋を震わせた。ぷるぷると頭を振り、突き上げるものを逃がそうとするかのように、ひっきりなしに息を吐く。

痛いほどに腰を挟みつけるカイトの膝頭を、がくぽは慈しみと愛しさに溢れてくるりと撫でた。

「確かに成長しているね、カイト、君は………だんだん、私に馴染んで、受け入れられるようになってきている。去年よりずっと早く、私のことを受け入れているよ、カイト。受け入れて、だけでなく、ちゃんと気持ちよくなっている。ちゃんと私のことを、貪っている………」

「ぁ………っあ、せんせ………っ」

「私が思う存分、君のことを愛し尽くせる日も、きっと近い」

つぶやくと、がくぽはゆっくりと腰を動かし始めた。際まで抜いて、ずぶずぶと埋め直す。奥を突いてやってから、カイトの弱いところを引っかけ、突いて、徐々に徐々に動きを早めていく。

腹を掻き回され、太く硬く漲る雄を咥えこんだカイトが上げるのは、快楽に染まった嬌声だ。痛みを訴える声はなく、ひたすらに甘く、蕩けて啼く。

見下ろす表情も、歪むのは突き抜ける快楽ゆえで、痛みを堪える色はない。

思いやらなければと自制してもしきれず、がくぽは激しく腰を突き上げた。

それでもカイトは心地よさに啼き、喘いでがくぽを咥えこみ、もっとと強請るように絡みつく。

「カイト………っ」

「ぁ、あ、せんせ………っせんせ、ぇ………っ」

悦楽に潰れた声を吹き込まれたカイトが、ぶるりと震える。同時に咥えこんだがくぽを、きつく締め上げた。

誘われるまま素直に欲望を吐き出し、がくぽもまた、ぶるりと震えた。

これ以上なく、悦い。

恋人がきちんと自分を受け止め、ともに昂ぶり、愉しんだ――それだけで、この行為がさらに得難く尊く、気持ちの良いものになる。

「………今年はもう少し、しようか、カイト。もう少しだけ……君に、馴れてもらおうか。私に」

つぶやくがくぽの下、極めた余韻から、すっとんと寝落ちた恋人がいる。

そもそもが深夜で、健康的な生活を送るカイトにとっては常ならば、すでに寝ている時間だ。今日はずっとはしゃいでいたというから、昼寝をしているわけでもなし――おそらく、眠気のピークもいいところだったろうが。

「………まだ早いかな。どうだろう」

苦笑しながら体を起こしたがくぽは、ぐっすりすやすやと健やかな眠りの国に行ってしまったカイトを清め、後始末をし、共に布団に潜りこんだ。

一人暮らしで、ベッドは当然、シングルだ。大の男二人で寝るには、いい加減きつい。カイトがいくら小柄で華奢であっても、抱きしめていてやらなければそのうち落ちそうだ。

「けれど、君の要望でもあるしね………まあ、おいおい。様子を見ながらと、いうところかな」

結論して、がくぽはしっとり潤むカイトのくちびるに口づけた。

腕を伸ばすと、ベッドヘッドに置いた時計のボタンを軽く押し、アラームをセットする。

いつもの起床時間だが、今の季節なら日の出とほぼ同じ時間だ。これで起きれば、当初の目的通りにきちんと、初日の出を拝める。

『夜更かし』をしたカイトが、あと数時間ののちに起きられるかどうかは微妙だが、がくぽにとっては慣れたものだ。

自分が起きたなら、どんな手を使おうともカイトを起こせばいいだけの話。

どんな手を使おうとも、だ。

「………朝になって、君を手放せる気がまったく、しないんだけれどね」

心から愛する相手を抱いて眠れる夜の、思った以上の幸福感に苦笑して、がくぽは瞼を下ろした。