てすかとりぽか

いわば売り言葉に買い言葉、勢いというものだった。普段なら決して口にしなかったろう、そんな言葉を吐いた理由は。

「ふん、なにを言うか。そなたらの父は、常に格好良かろうが」

野辺に座したがくぽはせせら嗤うように言って、ぷいと横を向いた。向いたほうには、ちょうどカイトが座っていた。剣突くやりあっている父と子供二人を、はらはらと見守っていたカイトが。

心配に潤む瞳が、それでも褪せない情愛を浮かべてがくぽの瞳と見合う。

生意気盛りの子供との口論という、著しい消耗戦のさなかにいたがくぽだ。実のところ、もはや頭がうまく回っていなかった。

そもそも、がくぽは剣士だ。

ことあれば剣に物言わすのが常で、ただただ口と舌とだけを動かすような戦いには馴染みがない。

馴れない戦いに、相手が己の子供、双子の娘と息子だ。二人掛かりで来たからと、卑怯者と罵るようなぬるま湯人生にはとんと縁がないがくぽだが、しかし疲れた。

疲労の極み、困憊もいいところだった。

「そうでしょう、カイト殿?」

「え?」

常に輝いているようにがくぽの目には映るカイトだが、このときはさらに眩く光り輝いて見えた。

生意気盛りの娘と息子と比べれば、己が伴侶たるカイトのなんと愛らしく、清楚なことか。

その極まること、喩えるなら、そう、あれだ。神だ。まさに神だ。

もちろん喩えるまでもなく、カイトは神だ。花とうたの神であり、いのちを育む神だ。

――という具合に疲れ切って思考回路が空転していたがくぽは、朦朧としたまま、カイトに同意を求めた。くり返すが、常であれば決してやらなかっただろう。

「私はいつでも、格好いいですよね?」

「あ………」

常にないのは据わらせた目もそうで、ただ父と子の諍いが治まることを願う伴侶に対し、脅すにも等しい威力だった。

そんな残念な男の在り様に、カイトは驚愕にふわりと瞳を見開き――

次いで目元が染まり、頬に朱が散って、表情が羞恥に歪んだ。かふかふかふと、興奮のあまりと思しき怪しげな呼吸をくり返し、火を噴くように赤い頬を抑え、俯く。

「ん、ぅん……っ」

こくんと、頷いた。こくこくこくと、カイトは頷く。そうやってなんとか昂ぶり過ぎた気を散らし、カイトは顔を上げた。

熱に潤んだ瞳で、がくぽをじっと見つめる。ほんわりと、微笑んだ。

「かっこいい………っ」

「か、っ……」

がくぽの視界の中、カイトの背後に大量の花びら様のものが舞い飛ぶのが見えた。幻覚だ。確かにカイトは花の神だが、花吹雪を背負うことはない。

しかしがくぽの目には、カイトの背後に大量の花びら様のものが舞い飛ぶのが見えた。語尾にもついていたし、揺らいで定まらない海の瞳にも、ぷかぷかりと浮かんで――

「あなたこそ、どうしたってそう、常に愛らしくているのです私の理性の磨きが足らぬと、鍛錬のおつもりですかそうだとするなら、私はあなたほど厳しい相手に師事したことはありませんよ、カイト殿」

「ええと、がくぽむつか、…」

慨嘆しながら抱き招かれ、カイトはきょとんと瞳を瞬かせた。ことりと首を傾げるが、すぐに顎を捉えられ、上向かせられる。

「私はさぞ、不出来な弟子であることでしょう……どうぞお赦しください、カイト殿」

「えそんなの、ゆるす、んっ、んん……っ」

カイトの反駁は、がくぽが重ねたくちびるに呑みこまれ、貪り吸い上げられ、永遠に失われた。

「リンはわかってたわ」

もはや子供の存在など欠片も覚えていないに違いない、だめ父親の背をじっとりと睨みつけ、リンは吐き出した。

「きっとこうなるって、これ以外にオチはないって、このオチ以外にはありえないんだって、わかってたわわかってたけど!」

双子の姉妹神の言葉を、隣に座り、だめ父親の背を同じくじっとりした目で見るレンが継いだ。

「なんっっか、ナットクいかねえっ釈然としねぇわぁああああっ!!」