気配に、目を開いた。案の定。
「………なんだ」
寝起きの、低い、不機嫌な声で訊く。
眠る神無の枕元に立っていた双魔は一瞬びくりと竦んだが、逃げ出すことはなかった。
手が伸びて、布団を掴む。
「………いっしょに、寝て、神無……」
fear for fear
「………」
強請られて、神無は眉をひそめた。
お互い、添い寝が必要な年ではない。ひとりきり、個別で寝るようになって久しい。
「………どうして」
「……っぅく」
訊くと、双魔は小さくしゃくり上げた。暗闇の中、目を凝らせば、べそを掻いている顔だ。
「………こわい、ゆめ、みて……」
「…………」
神無は少しだけ考えた。
そもそもが、オカルトマニアの双魔だ。マニアぶりは年季が入っている。
今さらお化けの夢を見たと、泣きついてくるわけもない。
さらに言うと、スプラッタも平気だ。
血しぶき飛び散る映画を観ながら、平気で肉が食べられる精神性の持ち主だから、夢で見たと以下同文。
そういう双魔の『こわいゆめ』といえば、幼いころから決まっている。
「…………なんの夢だ」
「………っえくっ………ふ……っ」
わかっていて訊いた神無に、双魔はさらにしゃくり上げた。涙腺の緩い弟だ。すでに涙がこぼれているのだろう。
双魔は布団を掴んでいた手を離し、瞼を擦った。
「神無に……………きらいって、いわれるゆめ…………」
「…………」
つぶやいて、双魔のくちびるからは悲痛な呻き声がこぼれた。ぐすぐすと、ひっきりなしに洟を啜る。
神無は束の間表情を緩め、暗闇に透かして、泣く弟を眺めた。
明かりを点けたい衝動と、懸命に闘う。
しばらくして、どうにか元の不機嫌な顔に戻ると、布団を開いた。
「泣くな、そんなことで。仕方のないやつだな…………来い」
「神無ぁ………っ」
しゃくり上げていた双魔の声が弾み、華奢な体が素早く隣に潜りこんで来る。
神無は寄り添う体に腕を回すと、抱き寄せた。双魔はうれしそうに擦りつき、胸元をきゅっと掴む。
「バカ双魔………」
「ん………」
罵りながら、神無は涙の残る双魔の目尻にキスを落とした。残滓を啜り、瞼を舐める。そのまま、こめかみに、頬に、キスを降らせた。
「変な夢、見やがって………」
「ごめん………」
謝りながら、双魔はますます神無に縋りつく。
顔中にキスの雨を降らせていた神無のくちびるは、ややして双魔のくちびるを塞いだ。
「ん………んん………っ」
てろりと甘く舐められ、くちびるを甘噛みされて、双魔が鼻声を漏らす。
そこで終わることなく、神無はうっすらと開いたくちびるに舌を差しこみ、やわらかに歯列を辿り、おずおずと伸びた双魔の舌を絡め取って吸った。
「は………ふ………」
「………オレがおまえを嫌うなんて………」
「ん……」
つぶやき、後頭部を撫でる。キスに蕩けた双魔は、離れたくちびるを追って、けれど明後日なところにキスをした。
「神無、大好き………大好きだから………」
「ばぁか」
キスの余韻で舌足らずに強請られ、神無は後頭部を撫でる手をずらす。やわらかな耳たぶを掴んで、引っ張った。
「疑うんじゃねえよ………ほんと、出来の悪い弟だな………」
「神無………」
それでもさらに強請られて、神無は双魔に深く口づけた。
呼吸困難で意識を失う寸前にまで追い込んで、ようやくくちびるを離す。
「…………愛してる、双魔…………おまえだけだ」