香るのは、血と埃、そして頭が眩むような雄の臭い。
ヴィッカー・ダァリン
「神無……っ」
「大人しくしていろ。傷つけたいわけじゃない」
「……っ」
双魔は夕飯も食べ終わって、自分の部屋で読書に勤しんでいたところだった。そこへ荒々しくやって来たのが、見るからに乱闘明けの神無だ。
双魔がなにを言うより先に、神無は華奢な体を抱え上げ、ベッドに放り投げた。
慌てる双魔が起き上がろうとするのを、素早く伸し掛かって押さえこみ、薄いパジャマ越しに体を撫でる。
「ん……っ」
涙目で小さく呻く双魔に構わず、神無はひたすらに細い体を撫でる。裾をまくり上げて上半身を露わにし、かすかな抵抗を見せる下半身からはきれいさっぱりとパジャマと下着を取り去ってしまった。
「ぁ……っんんっ」
「かわいい乳首だ」
薄紅色の胸の突起に口づけられ、双魔はびくりと竦む。弱々しい手が、ぎゅっとシーツを握った。
「舐めてやると、物欲しげに尖って……」
「ぁ……あ、ゃあ……っ」
神無は胸に口づけたまましゃべる。くちびるに肌をくすぐられ、吐息がいたずらに感覚をざわつかせる。
腰を浮かせる双魔に満足そうに笑い、神無はつぷんと勃ち上がったそこに軽く歯を立てた。
「ゃ、ぁあうっ」
「痛くされるともっと気持ちいいんだろう、双魔?咬みつかれると、声が甘くなる」
「ぁ、う、神無ぁ………っ」
涙を含んだ声が、容赦を乞うようにも、行為を強請るようにも聞こえる。
神無はうっそりと笑って、立てた歯に力を込める。
「ぃ……っぁうぅ………っっ」
上げかけた悲鳴を、双魔は懸命に噛み殺した。
乱闘後、血が騒ぐと言って双魔を求めるときの神無は嗜虐趣味だ。悲鳴を聞けば聞くだけ煽られ、さらに嗜虐的に攻めだす。
傷つけたいわけではないというのも本音ではあるが、それ以上に、双魔の悲鳴を聞きたいという欲求も強い。
「か、んなぁ……っ」
悲鳴を上げる代わりに、双魔は弱々しく名を呼ぶ。ぎゅっとシーツを握ってよすがとしたまま、下半身を突き出し、擦りつけるようにした。
「神無………かんなぁ………」
「もう濡れてる………」
擦りつけられるものの感触に、神無は満足そうに笑う。体を起こすと、双魔自ら開いてみせた下半身を眺め、くちびるを舐めた。
「こんなかわいい形をしておいて………」
「んんっ」
「感じやすくて、弱い」
「ふ………っく」
笑いながら、神無は双魔のものを口に含む。震えて敏感に尖ったものを、丹念に舐めしゃぶった。
双魔はシーツを掴む手に力を込める。がくがくと腰が揺れ、腹がきゅうっと締まった。
「ん、イっちゃ………かんなぁ、イっちゃぅ………っ」
「イけよ。飲んでやるから、全部」
「ふ………っぅく………っっ」
小さく呻き、双魔は神無の口の中に体液を吐き出した。
間歇的に溢れ、とろりと粘るそれを、神無はこぼすこともなく飲みこみ、啜り、最後まで絞り取る。
「ん………っはぁ………っ」
「………足らないな」
「……っ」
快楽の余韻に震える双魔を見下ろし、神無はぽつりとつぶやく。
「あっさりイかせ過ぎた…………もう少し、痛めつけてやればよかった」
「………っか、んな………っ」
「もう少し、泣け、双魔」
「………っ」
にんまりと笑って言う神無に、双魔はびくりと腰を引き、ベッドの上へとずり上がった。
あからさまに怯えて逃げるしぐさにさらにうれしそうに笑い、神無は手を伸ばす。細い双魔の腰を掴むと、逃げた距離をあっという間に引き戻した。
「逃がすわけないだろう、双魔?」
「……っふ、ゃっ」
引き戻した腰をそのまま高く掲げ、神無はひくつく窄まりに口をつける。舌を伸ばすと襞を舐め拡げ、じゅるりと音を立てて啜った。
「ゃ、ぁあ………っん………っは、ゃ………っ神無………っ」
「これだけひくつかせておいて、嫌はないだろう?」
「ひぅっ」
濡れた音を立てるそこに息を吹きかけられ、双魔は竦み上がる。
神無はその様に笑い、さらに熱心に掲げ拡げた場所に舌を這わせた。
「ん……っんん………っは、ぁっつぃ……い……よぉ………っ」
神無の愛撫は執拗で、巧みだった。
しばらくすると双魔は熱に虚ろになり、窄まりを舐められて復活した自分のものへと手を伸ばした。緩やかに扱きながら、抱えられた腰をくねらせる。
「ぁ、神無………っ」
「いい感じに蕩けたな」
強請るような、情けを乞うような、甘い声に呼ばれ、神無は顔を上げる。濡れたくちびるを舐めると、満足そうに弟を見下ろした。
乳首をつんと尖らせ、再び勃ち上がった自分の物を、自分で扱く。
瞳は熱に潤み、力を失って茫洋に沈んでいる。
神無のくちびるが笑みに裂け、掲げていた双魔の下半身を下ろした。一度手を離すと、自分のズボンをくつろげる。
とうの昔に硬く張りつめていたものを取り出すと、やわらかく蕩かした場所に宛がった。
「ぅ、あ………っ神無………っ」
「力抜いてろ」
「ゃ、あ……ぁあ……っ」
勝手な言い分とともに、神無が双魔の中に押し入る。絡みつき纏わりつく粘膜を押し開いて奥まで収めると、浅い吐息を漏らした。
「食いついてくる………あれだけしてやってるってのに、おまえはいつまで経ってもヴァージンみたいだ」
「ぅ……っく………っ」
双魔の瞳から、ぼろりと涙がこぼれる。
ぎゅっとシーツを掴んでよすがにするのを、神無はくちびるを舐めて見つめた。
足を割り広げていた手を離すと、シーツを掴む双魔の手に添える。固く握るそこを無理やりにシーツから引き剥がすと、諸共に体を抱え上げた。
「ぁ、や………っこれ、や………っふかぃ……い………っっ」
神無の上に座らせられる恰好になって、双魔の声がますます涙に潤む。シーツから引き剥がした手が、神無の背中に回り、爪を立てた。
「神無……っぉねが……い………っ」
「聞こえないな」
「神無………っ!ぁあっ」
しがみつく双魔が、びくりと仰け反った。神無の手が腰を掴み、持ち上げて抜きかけては、腰を落として奥深くを抉る行為をくり返す。
「ゃ、ふかぃ………ふかぃ、よぉ………ぁあっ、おなか、こわれちゃぅ………っ」
「くくっ」
惑乱し過ぎて悲鳴を堪えることも出来なくなった双魔が、泣きながら爪を立てる。神無は愉悦に染まった笑みをこぼし、さらに深く激しく、双魔を突き上げ、抉った。
「ひ、ふぁ……っイく……っっ」
やがて一際かん高い悲鳴とともに、双魔の内襞が激しい収斂をくり返す。勃ち上がっていたものから白濁した体液が吹き出して、双魔が頂点を極めたことを教えた。
「……」
神無のくちびるが、にんまりとこれ以上なく邪悪な笑みに歪む。
がくがくと震えて余韻に浸る体を掴み直すと、先よりさらに激しく抉り出した。
「っや、ぁあっ、まって、ま……っぁ、神無っ」
「双魔………」
顔を歪めて悲痛な声を上げる双魔を、神無は蕩けた瞳で見つめた。
達したばかりで、双魔の体はどこもかしこも敏感に尖っている。激しく責めればそれは拷問にも似ていて、双魔は泣きじゃくって、――それでも、神無に縋りつく。
そうやって双魔を責めたてる、神無に。
「だめ、神無………っゃ、ぉねが」
「双魔」
太い杭に抉られ、貫かれ、双魔の瞳が霞んでいく。
神無はこぼれる唾液を啜り、双魔の首に齧りついた。
「双魔………だめじゃ、ないだろう?」
「ぁう……んっ」
「双魔……言え。言え…」
蕩けた声で、促す。
双魔は神無の背に爪を食いこませると、自らも腰を揺らめかせた。
「ん………っ神無………ぁ……神無………すき…………だいすき、神無………!」
「…」
箍の外れた声で、双魔がさえずる。くちびるが近づいて、神無の頬に当たり、くちびるへと辿った。
「ん、すき…………神無、神無だけ………神無が、すき…………っ」
「………ふっ」
くり返される告白に、神無は陶然と笑うと、一際強く腰を押しこんだ。
「んぁああ………っ」
腹の中にぶちまけられる熱に、双魔がきつく神無にしがみつく。
びくびくと震えて収縮をくり返し、最後の一滴まで絞り取ろうとするかのように蠢く粘膜に包まれたまま、神無は安堵のため息をついた。
「神無…………すき…………だいすき………」
余韻に震えながら、双魔がキスを降らせる。
神無は双魔の後頭部を掴んで固定し、くちびるを深く合わせて、舌を潜りこませた。息も整わないところを容赦なく責めて、華奢な体からくったりと力が抜けたところで、ようやく離れる。
頽れる体を抱きしめ、耳朶にくちびるを寄せた。
「愛してる、双魔…………」