「エモーションさん、まだいますか?!」
『きゃあエース!!もちろんおりましてよ!!』
研究室に駆けこんで来たシグナルに、ホログラム・プロジェクタから明るい悲鳴が上がる。
ノィジック・リップ・トラップ
「おっそいわ、ボケが!」
「仕方ないだろ、コード!僕ちびだったんだよ!!」
ばさりと軽く羽をはためかせ、プロジェクタの中の妹と対していたコードがシグナルの肩に止まる。
肩の上に顔をしかめてみせてから、シグナルは『母』の前に行った。
「よかった、間に合って……」
『まあ、エース、あなた……』
「なんじゃ、おまえ、この様は………木っ端まみれではないか」
エモーションは上品に口元を押さえて驚愕を隠し、コードのほうは呆れを隠しもせずにシグナルの髪をついばんだ。
コードの言う通り、現在シグナルは、長い髪のあちこちに枯葉をまとっていた。
「僕のせいじゃないよ!ちびがかくれんぼしてて……あたた」
「ったく、みっともない。A-ナンバーズともあろうものが、家とはいえ、木っ端まみれでうろつくとは」
「だから僕のせいじゃないったら!隠れる場所を選ばないちびに言ってよ、ちびに!ったた、コード、もっとやさしく!!」
肩に乗ったコードが、髪に絡みつく枯葉をくちばしでついばんでは払っていく。大雑把なやり方なので、髪の毛もいっしょについばまれて、微妙に痛い。
悲鳴を上げるシグナルに、エモーションは口元を押さえたまま、上品に笑った。
『エース、知ってまして……?鳥の最大級の愛情表現は、毛づくろいなんですってよ……?』
「え?エモーションさん?」
「エレクトラ!!」
きょとんとして訳がわからぬげなシグナルに対し、コードのほうは羽を震わせて妹を見た。
淑やかにしておちゃめな電脳ガールは、慌てる兄へと楽しげにウインクを飛ばす。
『兄様、甲斐甲斐しい♪』
「エレクトラ!!」
「え、鳥って、え、え…………えええっっっ」
ようやく飲みこめたシグナルが目を丸くして叫ぶ。しかし、彼にはそれ以上ツッコむ暇は与えられなかった。
「っていだっ!!あだだっ?!ちょ、コード!!いだっっ!!」
「やかましい、このひよっこ!!いつまで経っても手間の掛かる!!ちったあしっかりせんかぃっ!!」
「ごごご、ごめんなさいっ?!いだっ、いだだだぁっ!!」
鋭い鉤爪で容赦なく頭を鷲掴みされ、くちばしでつつかれ、シグナルは悲鳴を上げて研究室を走り回る。
その様子を眺め、エモーションは満足げに頷いた。
『兄様ったら、照れ屋さん♪』