狂的なシスコン(もしくはブラコン)で鳴らすコードだが、幸いなことにその愛は一方通行ではない。年頃少女な妹たちも(おそらくは弟も)、兄のことをよく慕ってくれている。

シスター・リアド

「………なにこの花束。なにこのプレゼントの山」

暇だから相手をしろと押しかけて来たシグナルは、いつも質素に片付いたコードの部屋を華やがせる品々に、ぎょっとして立ち止まった。

部屋の出入り口だ。

「入るならとっとと入れ!」

「んぎゃっ!」

動きの止まったシグナルの尻に、容赦なく足を飛ばして蹴りこんだコードは、部屋を飾る品々にちらりと目線をやった。

「11月23日は『いい兄さん』の日だとか、妹たちが言いだしてな。俺様には、いつも世話になっているからと」

説明する声は素っ気なく、言葉も簡素だったが、コードの顔はそれこそ『いい兄さん』らしく、やわらかに綻んでいた。

シグナル相手には滅多に見せない類の、やさしい表情だ。

蹴られた尻を押さえていたシグナルは、いつもきらきら輝いて見張られる瞳を冷たく眇めた。

「…………………なにその笑顔

ぼそりと吐き出すと、部屋の中を改めて見回す。巡って目線をコードに戻したシグナルは、その顔が未だに笑みを刻んで贈り物を確かめていることに、癇性に眉尻を引きつらせた。

くちびるを尖らせると、乱暴なしぐさでどっかりと、胡坐を掻いて座る。

「なんだよデレデレしちゃってさコードのくせにっ!」

「ふん」

普段なら仕置きのひとつふたつ入れている不肖の弟分の生意気な言いようを、コードは鼻で笑い飛ばした。

不貞腐れきって頬杖を突くシグナルを見下ろし、手を伸ばす。お世辞にも整えられているとは言い難い髪を、さらに乱すようにわしゃわしゃと撫でくり回した。

「うらやましいか」

「やめろよ!」

「っと……」

喚いて、シグナルはコードの手を払いのける。礼儀にうるさいとわかっている相手に、常になく乱暴なしぐさだ。

どうやら今日のシグナルは、本気でへそを曲げているらしい。

これだから子供は機嫌の取りようが難しくて面倒だとかなんとか、考えるコードをシグナルはきっとして睨み上げる。

「僕はコードの弟じゃない」

「……そうだな」

なにを当たり前のことを言うのかと、薄ら笑いを浮かべる青年に、シグナルは縋るように手を伸ばした。

ぐ、と、掴む手首。

細い。けれど強い。筋張った、大人の。

「こんなやんちゃで利かん気の強い弟、俺様も持った覚えは……」

「違う」

腐す言葉を続けようとしたコードを、シグナルは強い声で遮った。

じっと、コードを見据える。

「僕は、コードの弟じゃない。男だ。子供扱いするな」

「……」

不肖の弟分が放った言葉に、コードは軽く目を見張った。

シグナルは真顔で、掴まれた手首にこめられた力は強く、痛い。

そうだ。痛いと思う。思うようになった。いつしか、いつからか――

「ふん。くちばしまっきっきのひよっこが」

「コード!」

嘲笑い、コードは縋るシグナルの手を振り払った。抗議の声もどこ吹く風で、赤い手痕と痛みの残る手を伸ばし、再びシグナルの頭を撫でる。

「そういうことを言っているうちはまだ、子供だと言うんじゃ」

「っっ……っ」

きゅっとくちびるを噛んだシグナルが、次の瞬間には素早く体を反し、コードをきれいに床に転がす。普段の道場通いの成果を無為に発揮して、コードには痛みも衝撃も与えることなく。

伸し掛かったシグナルは、こうなってもなお余裕に笑う年上の相手へ、ぐっと顔を寄せた。

吐き出す。

「それでも僕は、コードの男だ」