ないとめあ・りんげりえ
厳密に言うなら、『変柄』とは違う。
しかしつまり、感性だ。なにを『変』として『まとも』と判断するかという。
たとえば同じ日本人であり、同じ県に暮らし、同じ地区の同じ学校に通い――といった挙句に周囲から『おばかっぷる』のレッテルを貼られる二人でも、やはり感性は違う。
同じものを見て同じ感想を抱くこともあれば、かたや『変』だと批判し、かたや『まとも』だと擁護する。
――ことから考えるに、そもそも日本から遠く距離を隔てた外国の感性だ。
おそらくその国の人々にとっては日常的であり、『普通』のことであっても、日本生まれ日本育ちの若者たちにとっては、至極新鮮に――はっきり言って『変』に映ることも、あるだろう。
「かんどーするよね、これはもはやっ!!」
「感動というか……疲れたな………果てしなく疲れたんだが……」
「右手をご覧くださいっ!カジュアルかわいくヘン柄です!左手ご覧ください!すてきシックにヘン柄ですっ!正面ご覧ください!メルヘンロイヤルヘン柄でっすっ!!」
「カイト、俺の要望をちょっと聞け。無理だとわかっているが、………うん。無理なんだな………」
普段暮らすアパートメントから交通機関を乗り継ぎ、ちょっとばかり遠出して、大型ショッピングモールへやって来たカイトとがくぽだ。
目的は、いつの間にか参加が決まっていた『なえなえ変柄おぱんつ大作戦』の、その成否のカギを握る下着を購入することだ。
要するに、カイトが穿くための変柄おぱんつを。がくぽをなえなえにするために、カイトが穿く変柄――
こんなことのために遠出かと、がくぽは出かける前から疲労困憊だった。そして回復の目途は立っていない。
一方、日本にいたころから、なんであれ『イベント』と名がつくとノリノリになるカイトは、今回もノリノリだった。
目的は最愛のコイビトを萎えさせることなのだが、気にせずノリノリだ。ちったぁ大人しくなれと、実は思っている。その本音がだだ漏れた。
――わけではない。
わけではないが、イベントといったらカイトは、ノってしまうのだ。
そしてそんなカイトをさらに元気にさせたのが、肝心の下着売り場だった。冒頭にも述べたが、おそらく本来的には、並ぶのは変柄下着ではない。変柄下着の専用売り場では――
無地やボーダーといったシンプルなものも置いてあるし、ことに特異な形の下着があるでもない。
しかしガラモノを取り出してみると、――だから感性の違いだ。きっと。
キャラクタにしろ、単なる『ガラ』にしろ、配色にしろ、あまりに目新しくて斬新で、結論として、
「ヘンだわ!これもヘン!うっわ、選びきれない!!ナニコレもう、たのしすぎるっっ!!」
――と、なる。
どんどん元気が増していく『奥さん』に対し、『旦那さん』は今にも倒れそうな風情だ。
よくある夫婦の光景だ。買い物あるある、夫婦あるあるだ。しかしどちらも男なのだが、どうしてかへこたれているのは『旦那さん』だけだ。
男であっても、『奥さん』は『奥さん』だということなのか。
「カイト……」
「んっ、がくぽっ!どっちがいい?!」
「ぐっ!」
蚊の啼くような声で呼んだがくぽに、きらきらしく振り返ったカイトは、無情にも二枚の下着を突きつけた。
よくある夫婦の光景だ。買い物あるある、夫婦あるあるだ。実のところ奥さんはすでにどちらを買いたいかが決まっているが、旦那さんにも以下略。
夫婦喧嘩のネタトップ3に入るシーンだが、補記するなら、カイトががくぽに選択を迫っているのは、がくぽを萎えさせるための下着だ。ぱんつだ。変柄の。もはや眩しいほどの――
いったい自分はナニをして、そうまで奥さんもとい、カイトを怒らせてしまったのだろうか。
思わずいろいろ振り返って思考を高速空転させつつ、がくぽはびしりと、指差した。
「あっちのナイト用品売り場の、すけすけ黒ランジェリーセット」