ばりばりに気合いを入れるか。
それとも、普段とあんまり差がない感じで、カジュアルに決めるか。
ああ、かわいさを売りにするかどうかって問題もあったなあ。
恋煩いのしりとり
「ぐぬぬぬぬ」
ベッドに服を並べ、俺は懊悩していた。
そんな時間はない。もうすぐ出掛ける時間だ。
本日、達樹さんとおでぇとです。
付き合ってしばらく経ちますが、実はおでぇとらしいおでぇとはこれが初めてです。いや、お部屋でぇとならしょっちゅうしてるし、買い物にいっしょに出掛けるっていうのもあったんだけどね?
達樹に誘われたときも、たまには遊ぶか、くらいの調子だったんだけど。
今日の予定は、映画観て、ランチして、観光スポットで適当にぶらぶら。
おでぇとじゃね?!
そりゃ、友達だったら遊びで済むコースだよ?
でも、俺と達樹はらぶらぶ恋人同士。恋人同士がこのコース辿ったら、それっておでぇとって言わね?!
ということから、お洋服選びに手間取ってます。
正直、誘われたのが昨日で、おでぇと用に服を新調する暇もなかった。あー行くいく、とか請け合ったときも、あんまり深く考えてなかったし。
あとで、おでぇとだって気がついて、真っ青。
あの!あまあま思考ゼロの達樹から提案してくれた、初おでぇとですよ。
思うにたぶん、達樹さんはこれがおでぇとだとか考えてないけどね。そんなこと考えてたら、あそこまでさらりと口にしなかったと思う。
それでも、これは初おでぇとだと主張するわけですよ。
そして、今後に繋げるためにも、ぜひとも達樹にはいい思いをしてもらわないといけない…と、思うんだけど。
初歩の初の、洋服選びですでにつまづいている現状。
「あああああ!」
あと五分、あと五分。決めないとなんだけど!
ぴんぽん、とチャイムが鳴る。どう考えても、達樹だ。学校行事でも友達と遊ぶんでも、達樹の基本は五分前行動。
って、だからって今日、こんな早く来られても、用意できてないっつの!
「――まだ着替えてないのか」
玄関を開けると案の定達樹で、未だにパジャマ代わりのスウェット姿の俺を見て、眉をひそめた。
いや、気持ちはわかるけど!
「着てく服が決まんないの!」
逆ギレた俺に、達樹は呆れたようにため息をついた。
その達樹の格好はというと、カジュアルとフォーマルのちょうど中間あたり。
襟の開いたラフなワイシャツに、黒の袖なしジャケットと、同色のタイトなパンツを合わせてる。
――ん?あれ?いつもの達樹さんと比べて、オシャレ度二割増し?
え、もしかして、おでぇとだって気がついて、気合入れてくれたとか?つかもしかして、当初からそのつもりで、服用意してたりとか。
いやいや、まさかそんな、達樹さんに限って。
「どけ。入るぞ」
思わずじろじろ観察した俺を押しのけて、達樹は勝手知ったる俺の家、さっさと上がりこんでいく。
「――盛大だな」
遠慮なく俺の部屋に入ると、散らばり放題散らばった服を見て肩を竦めた。
「ああもう、ちょっと待ってて!今すぐ着替える!」
達樹の格好見て、ある程度参考にはなった。これに完璧合わせられる服はないけど、テイストを揃えるくらいのことはできる。
散らばった服からセレクトしていく俺の襟首が、ぐい、と引っ張られた。
「なにすんのよ?!」
「おまえ、気がついてるのか?」
一瞬魂が飛びかけて、俺は抗議のために振り返った。その俺に、達樹はまじめな顔で首を傾げる。
気がついてる?気がついてるって、主語はなに?
「おでぇとかってこと?――じゃないの?」
「――」
自信半分で答えると、達樹は微妙な顔をした。
それから俺の手から服を取り上げ、放り出す。またも勝手知ったる、でクロゼットを勝手に開け、タンスを漁り、パーカにシャツ、ジーパンと一式取り出した。
いや、達樹さん?
これ、あなたと合わせると、俺がずいぶんカジュアルな感じになりますけど。つか、色味も揃わないし。
「早く着ろ。映画に間に合わない」
「でも」
「いいか、待たないぞ。次もない」
きっぱり言われ、俺は慌ててスウェットを脱ぎだした。達樹はさっさと部屋を出る。
あらん、別に見ててもらっても構わないのよん。とか言ってる場合じゃないし。
どうも、今までの反応から見るに、達樹は今日がちゃんとおでぇとだと認識してる模様。
そのうえでの次はない発言なら、まじめにやんないと。
とはいえ。
全体を合わせると、実に軽い感じに仕上がる。
達樹が選んだパーカは大きめにぶかぶか着るやつだし、ジーパンもタイトというわけではない。
色も原色系で派手めだし、きっちりタイトに作った達樹さんと並ぶと、かなり幼稚っぽく見えると思うんだよな。
「終わったか?」
納得がいかずに裾を捻くりまわしていると、達樹が入ってきた。
「まあ一応」
「――」
お披露目すると、達樹は上から下から観察して、ふんわりと目元を和らげた。
うえ?なに、すごいご機嫌?!
「じゃあ行くぞ。荷物は用意してあるんだろうな?財布忘れたとか言ったら放り出す」
「そこはだいじょうぶ」
疑問符を飛ばしている間に、達樹はさっさと玄関に行ってしまう。俺は鞄を掴むと、慌ててそのあとを追った。
この服だと、いつものスニーカーでいいよな。
「達樹、あのさ」
「そのパーカ着てるおまえが、いちばんかわいい」
――いや、違うこと言おうとしたんだけど。
靴を履きながら話しかけたところで、唐突に言われた。
ふいを突かれて、俺は呆然と達樹を見る。ほんのり目元を染めた達樹は、じっと俺を見返して。
「かわいい」
大事なことだから二回言ったんですよね?!
達樹の顔がさっと近づき、無防備に晒した首にキスされた。
「行くぞ。ぼやぼやするなよ」
にんまり笑うと、達樹はさっさと玄関から出て行った。
つか、達樹さん。
言いたい放題、やりたい放題じゃないですか?!
なんか、なんていうか!今日のこの雰囲気ってもしかしてイケるんじゃ?
そうだよ、だって、洋服贈るのは脱がすためだって言うし。贈られたわけじゃないけど、セレクトしたのは達樹で、要するにお気に入りなわけでしょ?
すごく興奮してきたけど?!
俺は気合満々で、達樹のあとを追いかけた。
つかね、達樹?
おでぇとだったら、並んで歩こうよ!