「テスト死ね、死ねテスト、コロブチカ」
「オチが意味不明だ。つかうるさいから黙れ」
オチってなに?
達樹の思考回路こそ意味不明だけど。
こぼれたミルクは舐めとればいい
俺の部屋で顔を突き合わせて勉強してるこの状態も、かなり意味不明だけど。
なんで俺が、家でまで勉強するとか!
「どうせやるならテトリスのほうがまだいいだろ」
「テトリスのなにを学校でやるつもりだ。あとコロブチカとの繋がりは」
「テトリスの曲じゃん。コロブチカ」
ノートから目を離さないまま、達樹が鼻で笑った。
「無駄な知識は豊富だな」
「ちなみに俺、落ちもの系苦手。むしろ憎い。サタン様未だに見たことねえ」
「俺に理解できる言語で話せ」
そっか、サタン様は父親のゲームだからなー。俺ら世代の落ちもの系ったら。
いや、っていうか、そもそも。
「達樹、ゲームなに知ってんの?」
「テトリスは知ってただろう」
――そういや俺、達樹とゲームしたことないわ。話もしないし。
「それより本気で黙れよ。テスト勉強が予定までに終わらないだろう」
「うっわ、鬱」
父親と対戦するときより鬱だわ。
年季が違うんだから手加減してくれりゃいいのによ、あのくそ親父。
『ふわははは、聡、いつになったら父を越えるのかのう、不甲斐ないのう、ふわははは』
じゃねえんだよ!
ていうか。
「もうやだ期末テスト死ね死ね。日曜なのに朝から晩まで教科書と睨めっこしないと全範囲勉強し終わらないとかキリストの受難レベル超えてる。しかもこれだけ勉強しても全部出るわけじゃなくて問題偏ってるとか教師の頭は荒廃して腐れ果ててる。生徒が綱紀粛正に乗り出してもやつらに反撃の権利はない」
「飽きたならマラソンでもしてこい。ホノルル走ってくれば少しは気が晴れるだろ」
マラトンでなくホノルル?!
「なんで達樹の愛はそうスパルタなの?!たまには俺のこと甘やかして!ていうか今甘やかして!ストレスで少年Aになりかけてる俺を甘やかせ!」
まあとりあえず、拳が飛んでくるのが先だろうけど。達樹さんだから。
それでも一応主張するだけはしないと。
案の定、テーブル越しに達樹の手が伸びてきて胸座を掴む。
「――?」
かむ、と下くちびるが噛まれた。
達樹の顔が離れていき、胸座を掴んだ手はまたシャーペンを握る。
「――達樹さん?」
「一時間おとなしく勉強したら、キス一回」
わあお。
「しわい」
「一日それできちんと勉強して予定が終わったら――」
――。
おう。
じーざす。
「達樹さん、なんだろう。俺かつてなくやる気出た」
「そうか。じゃあがんばれ」
こんな、ご褒美につられるなんてベタだってわかってる。
わかっているけど、オトコノコにはどうしても欲しいご褒美があるのよ。
俺はシャーペンを握り直すと、再び教科書とノートとの戦いに身を投じた。