ぱったん、ぱったん、しっぽが揺れる。
毛づくろい
「おとなしくしろ、十六夜」
「んんぅ、むりぃ…。くすぐったいよぉ」
そうでなくてもきれいな声が、鼻に抜けて、さらに甘くなっている。
あらぬところが暴走しそうになって、俺は腹に力を込めてしっぽを掴み直した。
「ちゃんと梳かないと、家じゅう毛まみれになるだろうが。主の命を聴け」
「ぁうぅ、はぃい…」
甘い声で返事して、十六夜は座り直す。ぎゅ、と力を込めて拳を握ると、懸命にくすぐったさを堪える。
俺はふさふさのしっぽを掴み上げると、再び櫛を通した。
まったくどうなってるんだか。祀神でありながら、季節ごとに毛が生え変わるとか。
「ん、ん、んーっ」
「…」
懸命に堪える声が、かわいい。
俺が理想とするおとなの男の上背を持っていたら、間違いなく押し倒してるレベルだ。もぞもぞ蠢く尻とか、ひとを子供だと思って煽り過ぎだ。
「ふぁ、朔ぅ…っ」
「…っ」
切なく呼ばれて、根負けした。
これ以上やってたら、俺の理性が全面崩壊する。
いつかは身も心も俺のものにするつもりだが、それは俺がこいつも認めるだけ大きくなったらの話だ。
「今日はこれくらいにしといてやる…」
「え」
しっぽを放すと、十六夜はあからさまにがっかりした顔になった。ふわふわの耳が、失望にへちゃんと寝る。
…どうして欲しいんだ、こいつは。
「…」
「…」
ぱたん、ぱたん、しっぽが揺れる。
ゆらゆら揺れて、ふらふら誘って。
「横になれ」
「はい、朔」
命じると、おとなしく横になった。その頭の下に、俺の膝を入れる。
櫛を持ち直すと、艶やかな髪に梳きいれた。ふわふわの耳も掻いてやる。
「ぅふ」
切れ長の瞳をますます細めて、十六夜は笑った。
やれやれ、甘えたな式神め。
俺は丁寧にていねいに、髪と耳を梳く。
白魚のような十六夜の手が伸びてきて、俺の頬を撫でた。
「朔、俺ね。やさしい主で、ほんとしあわせ」
蕩ける笑顔に、俺は笑った。
「こなたの主はやさしいばかりじゃないぞ」
脅しつけると、それでも十六夜の蕩ける笑顔は変わらなかった。
「朔だったらいいんだ。だって、俺にしあわせを呉れたもの。だから、朔になら、なんでもあげる」
甘い声に笑って、俺は櫛を梳きいれた。
ああ、早く大きくなりてえ。