敬老精神のお約束
「十六夜、これも人間のしきたりだ。むしろ宿業だ。堪えてくれ」
「はい、朔」
屈従の顔で申しわたす朔に対して、十六夜もまじめな顔。
でもボクが思うに。
「(゜o゜)」
「そのとおりよ。いいこと言うわ、下弦」
たかが敬老の日のお祝いにおおげさなのよ!!
たしかに十六夜は、見た目は若いしきらきらぴかぴかで、まったくおじいちゃんになんて見えないけど。
これでいて、んー千歳よ。
神様の中でもとっくに若手卒業して、中堅ですらないわ。若作りにもほどがあるっていうのよ。
赤いちゃんちゃんこ通りこして、プラチナのちゃんちゃんこ上げても足らないんだから。
「ふわわ~」
涙ながらに朔が去ると、十六夜は耳をぴんと立てて、朔からの贈り物を掲げて眺める。しっぽがばったばった振られてるから、よっぽどうれしいのね。
まあ、『敬老の日』なんて言われても、ピンと来ないわよね、きっと。
単純に、主からの贈り物がうれしいんだわ。
「なにもらったの?」
「(-v-)」
下弦といっしょにお座敷に入って訊くと、十六夜は掲げていた巻紙をほどいて、ボクたちに見せてくれた。
手作りの券、十枚つづり。
――お約束だわ。
むしろびっくり。
だって朔で、相手は十六夜なのに。
でも、十六夜はものすごくうれしそうだった。
いつもきらきらでぴかぴかの笑顔が、ぎらぎらのびかびかになっているもの。目がつぶれそうって、こういうことを言うのね。
そして、
「かたたたけん!!」
誇らしげに読み上げる。
…………でもボクが思うに。
「『き』がヌケてるわ、十六夜」
「き?」
きょとんと首を傾げて巻紙を見直すと、十六夜はもう一回叫んだ。
「かたたきけん!!」
「(+_+)」
そうね、下弦。言うとおりよ。
今度は『た』が一個足らない。
「えっと…」
十六夜は悲しそうな顔になって、巻紙を眺める。
おそらく朔は気を遣って、全部、ヒラガナで書いたのよ。十六夜って、コレでいてアレだから。
でもこの場合、言葉が悪かったわ。
「『か』…『た』…『た』…『た』…『き』…『け』…『ん』……」
十六夜は慎重に、一文字ひともじ、指差して確認する。
何度かそうやって文字をなぞるのをくり返すと、こっくんと頷いた。きりっと顔を上げる。
そして、自信に満ちて叫んだ。
「かたたたたきけん!!」