「(^▽^)」
「って、きゃあ!高すぎ高すぎ!!」
下弦の放った鞠が、ボクの遥か頭上を越えて、部屋の中へと飛びこんでいく。
うたた寝
「もお、下弦はぁ!ちゃんと取れるように投げてよねっ!」
「(^o^)」
「そそそ、そんなことないわよっ!ふふふ太った、太ったなんてっ!」
言い合いながら、足についた泥を軽く払って部屋に上がる。
中をのぞきこんで、下弦と顔を見合わせた。
蝕が寝てるわ。
これが十六夜だっていうなら、おなじみの光景なんだけど………。
「…」
ボクと下弦は、しっぽすら振らないように注意して、そっとそぉっと、畳に直に転がる蝕のそばに行く。
「(+_+)」
「そうね」
下弦の言うとおり、しっぽもぱったんぱったんしてない。
眠りが浅いと、しっぽだけはぱったんぱったんしてるものだから――結構、本気で寝てるってことね。
「(゜v゜)」
「下弦、あんたって………っ」
眷属の身で、神様にイタズラしようとか言い出すなんて………オソロシイ子!
「なにしようかしらっ」
「(´v`)」
「いいじゃないっ。イタズラが眷属の本分ってもんよ。で、なにしようかしら」
「(´▽`)」
「…ざわざわ……ざわざわ……!おおお、ぶるぶる。あんたって、ほんとオソレ知らずね!」
震え上がりながら、書斎に行って硯と墨汁と筆を持ってくる。
「○」
「×もよ。あと『肉』ね」
言い合いながら、交互に筆を持って、蝕の顔に落書きしていく。
「……こんなものかしらね」
「(´▽`)」
「そんなことまで?!あんたってほんと容赦ないわ!眷属のカガミよ!!」
一息つこうと思ったら、下弦は櫛と輪ゴムを持ってきた。
その発想に、ボクは再び震え上がる。
伸び放題で放りっぱなしの蝕の髪を、ものすっごく苦労してきれいに梳いて、いくつもの束に分けて、それをひとつひとつ、三つ編みしていって。
「………ちょっと。芸術的ですらないかしら?」
「(゜▽゜)」
「ほんとね。自分たちの才能にうっとりよ」
出来上がった『作品』をつくづくと感嘆して眺めながら、ボクは下弦のことをちらりと窺う。
下弦もちょうどボクをちらりと見たところで、………ほんと、ボクたちって気が合うわね。
「………起きないわね」
「(´_`)」
神様が一度、『本気で』寝たら、頭に雷が落ちたって起きやしない。それでそのまま、千年、二千年。
十六夜だって、『ちょっとお昼寝』しただけのつもりで――
誇り高く、ぴんと伸びて上を向いていた耳としっぽが、へちゃんと寝てしまう。
平気よ、別に。
ボクたち眷属だって結構、長生きだし。朔のことだってりっぱに育ててみせるわ。
神様のスイミンを守るのだって、眷属の大事なだいじなオツトメってものよ。
わかってるわ。でも。
「(・_;)」
「………ちょっとぉ……っ………泣かにゃいれよ………ぅえええーんっ!」
「(ToT)」
「ぁあああーんっっ!!」
ボクと下弦は、みっともないくらいにわあわあと泣いた。
平気よ、平気。
寝てたって、千年、二千年たっても、ずっとずっと待ってるわ。
でも、でもでも、ボクたちがちゃんと大きくなってくのを、見ていてもらえないのは、さびしい。
ボクたちがやんちゃしたときに、笑って見守っていてくれるひとがいないのは、さびしい。
さびしいときに、ぎゅってしてくれるひとがいないのは、かなしい。
「………なんだなんだ………?どうした、二匹とも………?!」
「う、ぅええ、ひくっ、ぐすっ?」
「(;_;)」
ふいに抱き上げられて、涙に濡れるほっぺとまぶたを舐められた。
「よしよし――いい子だ。なにかは知らぬが、そう泣くな」
やさしくあやしながら、同じように下弦も舐める、大きな舌。
「じょ………っじょぐぅうう………!!」
「(;v;)」
起きた、起きたわ!
起き上がって、ボクたちを膝に乗っけた蝕はやさしく涙を舐め取って、ぎゅうっと抱きしめてくれる。
ボクたちも力いっぱい、蝕に抱きついた。
「よしよし、泣き止んだの」
笑って、それから蝕は顔をしかめた。顔、を――
「なんだ?なにやら頭がおかしな具合だが………」
「ぷっきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!!!」
「(((^▽^)))」
顔は落書きだらけのうえ、頭は三つ編みだらけ!!無精髭もっさーのおっさんが、おっさんが!!
膝の上で大爆笑するボクと下弦に、蝕は首を傾げる。
「今泣いたキツネがもう笑ただの。まあ良い。泣くよりは、笑うほうが」
言いながらにこにこ笑っている蝕の膝の上で立ち上がって、ボクはその口にちゅっと吸いついた。
下弦も立ち上がって、同じようにちゅう。
「だいすきよ、蝕!」
「vvv」
たくさんちゅうをして、ぎゅうっと抱きつくと、蝕はちゃんと抱き返してくれた。