紙と紙を、ぺったりとノリで貼りつける。
「…と、そうか。砥石が必要だったな。十六夜、これを押さえて十数えろ。十数えたら、手を放していい。俺はちょっと、砥石を取ってくるから」
「はい」
朔がノリで貼りつけた紙人形を俺に渡して、部屋を出て行く。
数え唄
今日はお部屋に和紙を広げて、工作中だ。朔の仕事に使う、紙人形をつくっている。
――紙人形なんて、なにに使うかよくわかんないんだけど。
「じゅう………」
見送って、俺はしっぽをぱったんぱったん振った。
「十六夜、あんた、数の数え方なんて覚えてる?ていうかそもそも、十なんて数えられる?」
「(((゜v゜)))」
ひょこひょこ、と両脇から顔を出した上弦と下弦に、ものすごくまじめに訊かれた。
「むむむ!」
ふたりして俺のこと、なんだと思ってるんだろう!
たしかにちょっと寝惚けてて、いろいろ曖昧だけど、さすがに数を数えるくらいのこと!
「ばかにしないでよね!」
俺は胸をそらし、それだけでなく、耳としっぽも誇り高く、ぴんと立てた。
「いち、じゅう!!」
ほら!
「………………これをネタじゃなくて本気でやってるから、やるせないわ」
「(((!_!)))」
…………あれ?
「あ……そか」
そういえば、「じゅう」って、もっといろいろなんか、あるんだっけ。
「えっと……」
俺は人形を放り出すと、指を折って、もう一度数える。
「いち、ごぉ、なな、にぃ………」
「数学者に訊いてみたいわね。法則性があるのかどうか」
「<(`v´)>」
「よん、じゅういち……」
「十を超えているぞ、十六夜」
砥石を持った朔が、呆れたように言いながら入って来る。
「まあ、今さら驚きもしないがな。ところでこなた、その調子で、俺の年が来年いくつになるか、言ってみろ」
「え?朔の年?」
確か今年が………だから。
「ななさい!!」
「ぷっきゃきゃ!」
「(((^▽^)))」
親指だけ折った手を突き出して言うと、上下が同時に爆笑した。
朔は頭が痛むような顔をして、俺の両脇を陣取る上下をどかして隣に座る。
「あれ?だって、よん、きゅう、ごぉ、……だから」
「もうどうなってんのか、さっぱりわかんないわね!」
「さすがに来年七つだったら、俺も絶望するな」
「ええ?!!」
ななつって、そんなにだめなの?きれいでかわいい数なのに!
しゅんとすると朔は膝立ちになって、俺の頭に手を伸ばした。寝てしまった耳をかりかりと掻いてくれる。
「ふやや」
きもちいい。
しっぽがぱったんぱったん、揺れ出す。
朔はやさしく目を細めて、笑った。
「気にするな。数など数えられぬでも、こなたはかわいい」
「ばかな子ほどかわいいって言うものね!」
「(-v-)」
笑う上下を、朔はじろりと睨む。
「言うがな。貴様らは他人のことを言えんぞ」
「あら?」
「(゜_゜)」
上下がきょとんとする。
そこへ、蝕が入って来た。俺の耳を掻いている朔を見て、苦笑する。
「朔、終わったのか?十六夜がおると、仕事にならぬか?」
「吐かせ」
ふんと鼻を鳴らして、朔は卓の上へとあごをしゃくる。
「ほとんど終わってるわ。あとはちょちょいと仕上げをするだけだ。息抜きしたとて構わんだろうが」
「息抜きな」
笑う蝕に、朔はまじめな顔を向けた。
「それはそれとしてな、蝕。貴様も俺の養い親なら、答えろ。俺は来年、いくつになる?」
「ふん?唐突だな………。まあ良い。さすがの吾も、養い子の年くらいはな………」
ぶつぶつ言ってから、蝕は親指だけ折った手を突き出した。
「ななつだ!」
「なんだこのイヤな相似性!!」
震え上がって叫ぶ朔の傍らで、上下が生温く笑う。
「あー………神さまってほんと、ザンネンよねえ………」
「(´v`)」
「ぬ?違うか?だが確か、きゅう、さん、ごぉ………」
蝕が指を折って数え直す。
その蝕に、上下がぴょんと飛びついた。
「いいのよ、蝕!数なんてコマカイことはボクたちに任せておけば!」
「(´▽`)」
「ぬぬぬ?」
上下を抱っこして首を傾げる蝕に、朔は舌打ちする。
「ばかな子ならともかく、ばかなおっさんがかわいいんだから、貴様らは大概だ!」
「ほえん」
俺はふと思い出して、指を折る。
蝕を見て、朔を見た。
「そぉいえば、朔。俺と蝕って、同い年………」
確か、同じ胎から同じ日に生まれた、
「十六夜」
記憶を探る俺の肩を、朔がとってもまじめな顔で掴んだ。
「こなたはかわいいからいい」
「……………なら、いいや?」
朔がかわいいって思ってくれるんだったら、それでもういいか、な?
首を傾げる俺の耳を、またしても朔がかりかりと掻いてくれて、俺はとろとろんになってしまった。