正月だな。なにはともあれ。

「今年も無事に、ひとつ、歳を重ねた」

正月の膳を前に、俺はしみじみと感慨に耽る。

正月朔日

ほんとうのところ、俺の成長ぶりは歳ひとつ分どころではないが、まあ、生物としての慣習に従い、俺が重ねたのは歳ひとつだ。

「それでいいんだよ、朔朔まだちっちゃいから、一年で歳いくつも重ねちゃったら、ちっちゃいまんまおじぃちゃんになっちゃうけど、ひとつずつだったら、ちゃんとおっきくなれるもの!」

「ちっちゃい言うな!!」

隣に座る十六夜の無邪気な言葉に、俺は思わず膝立ちになる。

なんてオソロシイことを言うんだ、こいつは!

「まあ、そう急くな。ひとの齢なぞ、有って無きが如し短さじゃ。ゆっくり歳を取れ」

屠蘇を舐めながら、蝕がうっそり笑って言う。

だがしかし言わせてもらうならば。

「俺が歳に見合わん内面的成長を遂げているのは、だれあろう、養い親である貴様の甲斐性が足らんからだぞ、このロクデナシが!!」

「朔よ……」

蝕はため息をついて天を仰ぐ。

神が天を仰いでどうする。それだから貴様はロクデナシだと言うんだ。

代わって、上下が身を乗り出した。

「いいのよう、蝕は甲斐性なんてなくてそのために、ボクたち眷属がいるんだもの!」

「(´▽`)」

「狛共が!」

こんなおっさん、甘やかしてどうする!

「………あのね、朔?」

ちょいちょいと袖を引かれて、俺は十六夜へと顔を向ける。

「俺、迷惑おしごと、あんまり出来ないし……」

「十六夜は十六夜であるだけで価値がある。蝕は俺に対して義務があるが、こなたが俺に持つのは権利だ。存分に主を愛せ」

きっぱり言うと、十六夜の顔が笑みに綻んだ。

花のようにきれいな、とは言うが、十六夜ほど美しい花など見たことがない。

ああ、正月から良いものを見た。幸先が良い。

ゆえに寛容なる俺は、愚衆が犯した去年の罪を忘れて、今年も奉仕してやろう。

「朔、だいすき」

笑みの形のくちびるが、俺の口を掠めていく。

屠蘇の入った盃を取ると、十六夜はかわいらしく、祈りの形に掲げた。

「朔、おたんじょうびおめでとう。今年一年が、良い年でありますように」

俺は盃を合わせると、笑った。

「当たりまえだ。こなたがいるのだから」