座敷に正座して、ぶっさぶっさと、畑から採って来たばかりのきゅうりとなすに割り箸を突き刺す。

今年もこの季節が、

「ぶっひひんっ、今年もアツイ季節になったわね、六所のちっこいの☆」

「ふもぉおっ、今年のアツさも格段のものだぞ、六所のちっこいのよ!!」

「貴様らまとめて地獄へ堕ちるがいい!!!」

叫ぶと、俺は無意味に胸を逸らして立ちはだかる、腰みの姿のうま頭とうし頭のまちょ男を蹴り飛ばした。

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む、しまった。

突然のことに、罵倒を間違えた。

そもそもこの二匹は、地獄の番人たる牛頭馬頭-ごずめず-だ。堕ちるなら地獄ではなく、天国だった。天国が果たして堕ちる場所かどうかはさておいて。

「ひひひんっ、挨拶途端に蹴りを入れる淀みのなさの磨きっぷり、六所のちびっこは順調に成長しているわ!!」

「ふもぉおおっ、蹴りの重さも格段に増している。成長しているな、六所のちびっこよ!!」

「ちびっこ言うんじゃねえっ!!!」

「ひひひひんっ!!」

「ふもぉおおおお!!!」

叫んで、もう一発蹴りをお見舞いする。

ごろごろと転がった二匹は、座敷を飛び出して庭に落ちた。

俺はすたすたと歩いて縁側に行き、そこから転がる二匹を睥睨する。

「そこで這いつくばって用件を言うがいい、ロクデナシども!!場合によってはこのまま飛び乗って、トランポリンにしてくれる!!」

「お、大きくなっていると褒めたのに、子供ってわからないわ………っ」

「大きくなったでは不満なのか………子供とは兎も角むつかしいイキモノよ………!!」

俺は膝を撓めた。

飛び上がり、抱き合って震える二匹の胸に着地する。たっぷりと「重さ」を増して。

「「ぶふぉっ!!」」

地に倒れて内臓を吹き出しかけた二匹を、俺は上に乗ったまま、腕を組んで睥睨した。

「貴様ら、その『子供』になんの用で来た児童福祉法は知っているかさあ、猶予はないぞ。きりきり吐け」

「わ、我ら地獄の門番……馬頭」

「同じく地獄の門番………牛頭」

霊力で押さえつけられて苦しい息の下、馬頭と牛頭が懸命に言葉を紡ぐ。

「「児童福祉法なんて知らない!!なぜなら地獄住まいだから!!ごふぉあっっ!!!」

無言で霊力という名の重石を増した俺に、二匹は口から泡を吹いた。

しかしまあ、言うことはもっともだ。

地獄に「児童福祉法」が存在するわけもない。そもそも「福祉」という概念があっては困るだろう。

犯罪者にはとにかく罰に次ぐ罰に次ぐ罰。そこに容赦も斟酌もない。

人権などというものはもちろん存在せず、死んでいる以上は生存権も存在しない。

ひたすら罰。

とはいえ。

「そんなことだから貴様ら、閻魔が拗ねて公務を放り出したりするんだ。もう少し子供に気を使え」

罰される側ならともかく、俺たちは地獄の公務員とでもいうべき側だ。

呆れて腐した俺に、口角に泡をつけた馬頭と牛頭が震える。

「こ、子守りなんて出来ないわよ………っ」

「わ、我ら地獄の門番だぞ………子守り技術なぞ持ち合わせは………っ」

「よしよし、学習出来るまではどこまでも重くなるぞ」

「「ぐふぅ………っ」」

しかし無駄なことに霊力を使わせてくれる。これから繁忙期だから、霊力は一厘だとて無駄に出来ないっていうのに。

この損失、どうやって穴埋めしようか。

考えているところに、ぱたぱたと軽い足音。

顔を上げると、野菜篭を持った十六夜が、きらきらした笑顔で走ってきていた。ご機嫌の証に、しっぽが力いっぱい振られている。

「朔、さく…………っ、えっと、ええっと……!!」

「うむ、落ち着いて思い出せ」

名前を覚えるのが苦手な十六夜は、俺が足の下に敷く二匹をきらきらの笑顔で指差し、しばらく言い淀んだ。

それから、一際輝く笑顔になって、頷く。

「ばーべきゅーのひと!!」

「「すでに調理法決定済み?!!」」

…………………成長したな、十六夜……………。

そうか、こなたにとってこいつらはもう、なまにくではないのだな………調理方法決定済みの、完全なる食肉なのだな……………………。

「朔、さく、今ね、とーころもしと、ぴーまんと、にんじん採れたとこだよ!!」

「「準備万端!!」」

俺は嘆息すると、足の下で震え上がる二匹を見下ろした。

うむ、長い付き合いではなかったが、短い付き合いでもなかった。

しかし。

「精をつけるなら肉だな、肉…………調理法も決定した以上、致し方あるまい。覚悟を決めるか………」