「朗っ報っ☆」
「今年も開催決定っ!!」
「「西洋式おぼ」」
「んぬぁあにが朗報だっ、この駄馬駄牛ぅううっっ!!」
法被ヰ破狼陰
養い子の怒声とともに、野太い悲鳴の二重奏。
そして重いものが地面に叩きつけられる音がして、吾は座敷の中でやれやれと肩を落した。
養い子の過激さは年々月々日々、磨きが掛かって増し増していくが、その一端を担っているのはどう考えても、地獄の獄卒どもだ。
「西洋かぶれも大概しろ、この破れかぶれども!!貴様らのかぶれきったその脳みそに、六所神社神主特製塩かぼす軟膏を直接塗りこんでやろうかっ!!」
過激さを増す一方の養い子の罵倒に、獣特有の荒々しい鼻息が続く。
「ひひぃいんっ、いたいっ、痛いわっ!!」
「ふもぉおおおっ、想像だけで悶えるっ!!」
野太い声での悲鳴に、一部喜悦が混ざっている。「ぷるるん寒天こんにゃくゼリーぷりん:激甘はばねろ味」を賭けてもいい。
まあ、なんだな。
虐待と拷問を日常とする地獄の獄卒に、まともな感性を期待するほうが間違っている。
とはいえ、いつもいつもそう、変態の好き勝手にさせていては、未だ幼い養い子の健やかな生育に毒だ。
「仕方ないの」
吾はため息ともに立ち上がり、座敷から縁側に出た。
すぐ傍に、養い子が仁王立ちしている。
仁王立ちしても小さいが、身にまとう気迫は大きく強い。あとは性格さえ素直に純粋にすくすく育てばいいのだが、そうもいかないから子育てとはむつかしい。
足元の庭には、地獄の門番たる、うま頭とうし頭の巨漢が震えながら抱き合って転がっていた。
「かぶれも爛れになれば、貴様らももう少し」
「そこまでにせい、朔」
「ぁあっ?!!」
……………嗜めたら、養い親に向けるものではない目で睨んで来た。
どこでどう、育て方を間違ったかのう………子育てってむつかしいのう………………。
慨嘆しつつ、吾は養い子の傍らに立つ。震え上がる地獄の門番どもを軽く見て、肩を竦めた。
「西洋かぶれと言うが、世の潮流がそうなら、逆ろうても仕様のないことじゃ。いかに地獄とはいえ、流れを無視することなぞ出来まい。世というものは例外なく、変転しながら進むものだぞ、朔」
なにしろ、神として長いこと生きた吾だ。その言葉には実感がある。
しかし幼い養い子は、瞳をますます剣呑に尖らせただけだった。
「貴様、このロクデナシめ………俺がどれだけ苦労していると思っている。他人事だと思って」
「上下」
罵倒の矛先がこちらに向いたので、吾はぱん、とひとつ柏手を打った。
途端、半人半獣の禿、吾の眷属たる上弦と下弦が腕の中に落ちてくる。
「法被ヰ破狼陰!!」
「<(>▽<)>☆彡」
「よしよし……」
どこで覚えて来るのかの、こやつらも。
思いつつ、二匹を縁側に下ろす。
「ん」
「はいさっ!」
「<(゜・゜)>」
差し出した手に、心得ている上弦がぽんとブツを乗せた。
「朔、そなたは小さい」
「ちっ」
おそらく、ちっちゃい言うな、というお決まりの台詞を言おうとしたのだろう。
皆まで言わせることなく、吾は養い子の頭に、上弦から受け取ったブツを被せた。
「そなたは童べ、子供じゃ、朔」
「なに………っ。……………」
咄嗟に取り払おうと頭に手をやった朔が、その感触に黙りこむ。
吾はさらに言い聞かせた。
「そなたは未だ幼い身だ………古きに固執せず、柔軟に考えよ」
「そうも小さいちいさい連呼すんじゃねえよっ」
「ったた」
最初ほどの毒はなく、しかし罵りながら、養い子は吾の脛を蹴っ飛ばす。その顔はまさに「子供らしく」、悪戯に輝いていた。
その輝く表情のままに養い子は庭へ向き直り、じりじりと後ずさりつつ見つめていた牛頭馬頭へと、胸を張った。
「ぶひっ」
「むほっ」
魅入られて動けなくなった二頭へ正対したまま、養い子は膝を撓める。そして縁側から、身軽に飛び上がった。
「菓子を寄越せ!!さもなくば虐げられろっっ!!」
「ひひひぃいいいんっっ!!」
「ふもぉおおおおっっ!!」
悲鳴を上げる二頭の上に、ねこ耳付きの黒いとんがり帽子を被った養い子が飛び乗る。
そのまま、筋肉の上を愉しそうに跳ね回った。二頭が悲鳴を上げるが、構いもしない。ひたすら愉しそうに、虐げる。
地獄の獄卒に、菓子の持ち合わせもあるまい。
まあなんだ、普段ロクデナシのなんのと言われている養い親の吾だが、たまにはこれくらいの養い子孝行はしよう。
「蝕」
「<(-.-)>」
「ん?………ああ」
年相応の、子供らしい顔を晒す養い子を感慨深く眺めていると、上下に袖を引かれた。
そういえば、これらも童べだ。
思い至った吾は懐から、賭けネタとして持っていた「ひとくちぱうち☆ぷるるん寒天こんにゃくゼリーぷりん:チーズムース味」を取り出し、二匹の口に放りこんでやった。
「んふ、ありがと、蝕」
「<(`▽´)>」
「ん、よしよし……」
笑った上下が、さらに吾の袖を引いて屈ませる。
素直に屈むと、二匹は交互に吾のくちびるを舐めた。
菓子の名残りか、その舌は妙に甘く、ねちっこい感触だった。