こんにちはっ!
キラめいてますかっ?!
みなさまのアイドル、まじょっこのつぐみですぅ!
まじょっこアイドルとデスフラグ
「おい、挨拶が寒い。キラめいてってなんだ。あと図々しい。自分でみなさまのアイドルとか言うかふつー」
「きゃああああああ!」
使い魔は黙りやれ!――…ですぅ!
っていうか、へび太さんはこの世から存在を取り消してくださいぃい!
「おい半人前。あんまり暴言吐くと、俺、この壷から出て、おまえの目の前に行くぞ。這って行くぞ。にょろにょろと…」
「いやああああああ!」
だめですぅ!想像してしまいましたあ!耐えられないですぅ!
「覚えとけよこんちくしょー!――…ですぅ!」
師匠直伝の捨て台詞を叫ぶと、わたくしは部屋から飛び出しました。
おんなじ部屋にいただけでも褒めてくださいぃい!
へび太さんがいないところで仕切り直し。――といきたいところですけれど。
「はぁあああ。ですぅ…」
どうしたらよいのでしょう…。
みなさまのアイドルであるまじょっこのわたくしが、へび恐怖症だなんて。
そのせいで、使い魔のへび太さんに舐められまくりだなんて。
一人前のまじょっこたるもの、へびの一匹や二匹、わしづかみにしてリボン代わりに使うくらいの――
「ふぅううう」
――
いけません。
想像して気絶してしまいましたですぅ。
そもそもどうして、へび恐怖症のわたくしの使い魔が、へびのへび太さんであるかといえば。
もとはと言えば、へび太さんはわたくしの師匠の使い魔なのですぅ。
師匠は偉大な魔法使いで、「東に『とらつぐみ』あり」と、天下にその名を轟かせた方!
――なのですが先ごろ、弟子のわたくしをひとり置いて………ぐすん。
その師匠がのこして行かれたのが、へびの魔物のへび太さんなのですぅ。
偉大なる師匠が、三日間にも及ぶ激闘の末にしもべにしたというへび太さんは、一人前のまじょっこになったばかりのわたくしには、手に余るランクの魔物。
いいえっ!
使い魔相手に弱気は禁物。敢えてこう言いましょう。
力は互角。対決したなら、決して負けはしない、と!
――ですが、ですがぁ!
へび太さんはへびなのですぅううう!
そ、それも!全長一メートルの、青大将なのですぅうううう!!
「ふぅうううう」
――
――
いけません。
想像して気絶してしまいましたですぅ。
全長とか、青大将とか、具体的な単語を想像するから…
「ふぅうううう」
――
――
――
い、いけません~。そうぞうしてはいけません~。
「半人前、おまえな…。まだそのレベルなのかよ」
背後から、へび太さんの深いため息。
え?
「ひぎぃいいいいい?!」
へ、へび太さん?!いいい、いつの間に?!
はっ!
っていうか、今振り返ったら、なまへび太さん?!
「なま言うな。なんかエロイだろ。俺をワイセツ物扱いするな」
ど、どどど、DO―しましょう?!
壷から出たなまへびのへび太さんと、狭いお部屋にドッキリ☆ふたりっきり!
「だから、なまって言うな。てか、人の話を聞け」
あああ!お空の彼方のお師匠さま!助けてくださいですぅ!わたくしはいったいDOすれば?!
祈るわたくしに、そのとき、ありありと師匠のお顔が見えましたのですぅ!
『つぐみ!人生には闘うか逃げるかで、その後の運命を分ける勝負のときっていうもんがあるんだZE!今がそのときDA!』
はっ!師匠!
そ、そうなんですのね!わたくしが一人前のまじょっことなるために、使い魔のへび太さんとの勝負は避けて通れぬ道!
ここで闘い勝つか、逃げて負けるかで、へび太さんとのこれからの関係が決まるんですのね!
それならわたくしは!
「闘いましょう、力あるかぎり!刃は折れるとも、正義は決して折れず!」
へび太さんっ、勝負ですぅ!
「いやあのな、つぐみ」
「いやああああ!」
へびに名前を呼ばれましたぁあ!呪いますぅうう!
「なんかカッコよさげなこと言っといてその反応かよ!いや全然カッコよくなかったけどな?!」
えろいむえっさいむぅ、えろいむえっさいむぅ…
「やめろ半人前!つうかいいか?!そういうことは、ちょっとでも、数ミリでもこっち振り返って俺の姿を見てからやれ!」
「ぐぐぐ、ぐっちょんばーり!」
バリアを張りましたですぅ!へび太さんはわたくしにさわれないんですぅ!
「魔法じゃねえ!どこのガキだ、この半人前まじょっこ!」
そんな大口を叩けるのも今のうちですぅ!
へび太さんの属性は水!火の属性のさらまんだーを召還して燃やし尽くしてあげますぅ!
「…サラマンダーはトカゲだぞ。おまえ、爬虫類と両生類と魚類と全部ダメだろ。あとな、水の属性に対抗するのは土の属性だから。超基本」
ううううるさいですぅ!えっと、えっと…。あっ、
「しゃかぁしぃわっ、いねっ!――…ですぅ!」
「前々から思ってたんだけどなおまえ、そのとら直伝の罵詈雑言、使うのやめれ。使いこなせてないから。ついでに、他人事ながらすげぇマヌケだから、罵倒はこっち向いて言え。あらぬ方を向いて叫ぶな」
あうう、これもだめ、あれもだめ?!
こうなったらぁ、こうなったらあ!
「じばくするですよぉおおおおお!!」
「もろともに滅んでどうする!もういいから、とにかく俺を見ろ!!」
「ひぎぃっ?!」
へび太さんに肩を掴まれて、強制的に振り返らされ――
――え?肩を掴まれ??
…へび太さんに、人の肩を掴める手はないはずですぅ。手があったらトカゲですから、トカゲ郎さんですしぃ。
「あれ?へび太さん?で、いらっしゃいますぅ?」
「そう。言っとくけど、俺クラスの魔物になれば、人型を取るくらい朝飯前だから」
振り返らされたわたくしの目の前にいたのは、玲瓏とした美貌の青年。
切れ長の瞳は冷たく冴えて、すっと通った鼻梁は高すぎず低すぎず、きれいな三角を描いています。薄めのくちびるは、血を刷いたような緋色。
それらのパーツが、透明なほどに白い肌に、黄金律を奏でてきれいに収まっています。
まさに、人外の美貌。
「おまえみたいな半人前に見せるにはもったいない美貌だからな。我慢して壷に篭ってたんだけどよ。限界。ありがたがれよ」
「まあ、へび太さん……」
しばし見惚れてから、わたくしは我に返りました。
へび太さんの手は、わたくしの肩を掴んだまま…――
「っき」
「は?」
「きゃぁああああああ!」
へび太さんにさわられましたわああああ!へ、へび!へびにぃいいい!
「はぁああああ?!ちょ、つぐみ!おまえ、この姿でもダメなのかよ?!」
へび太さんはへび太さんですぅう。
「ふぅうううう」
「っば!ばっかじゃねーの、おまえ!な、なんだよ、俺は俺って…っ。こんな美貌をつかまえてよ…。って、あ、気絶すんな!――あーもう!めんどくさすぎ!早く慰安旅行から帰って来やがれ、とらつぐみ!」
その後のふたりに進展があったかどうかは、また別のときに。
機会があれば、お話させていただきますぅ。