森の中で男と出会った

森の中で男と出会った

男は言った、「木を探している」と

私は訊いた、「木ならいくらでもある

いったい何の木をお探しですか」と

私の問いに 男は答えた

「私になる木を探している」と

男は森の奥深く

一本の木の前で立ち止まる

私は訊いた、「あなたの目の前

あなたが探していた木はそれですか」と

私の問いに 男は答えた

「まさしく この木こそ 私」と

(緑や黄色や赤色や 葉の落ちるの落ちないの)

(背が高いのに低いの 幹の太いやつ細いやつ)

(年を取ったのから 若いのまで)

(いくらでもどこにでもどんなものでもあるのに)

(緑で黄色で赤色で 葉の落ちて落ちない)

(背が高くて低く 幹の太く細い)

(年を取っていながら 若い)

(ひとつしか ここにしか これしかない)

私はすべてを見ていた

森の入り口から一歩も動かず

森の奥深く 男がとうとう

求めたものを見つける様を

私は見た 男になる木を

どこにでもあって どこにもない木を

翌日

男は木になり 木は男になり

男は森に 木は街に