Words

言葉は、踊る。

伝わらない。

聴こえない。

それでも、踊る。

踊って、そこに。

「掴めないものを、掴むの?」

落ちた問いは、誰からだったか。

誰。

だれ?

知っている。そう、知っている。

言葉が踊る、伝わらず、こえななった。

その、直前に。

「掴めないのに、掴むの?」

嘲笑いとともに。

いや、恵みを与える、慈雨のように。

言葉えられ、伝わらないまま、踊って、そこに。

「私の手は、掴めるよ」

骨ばった細い手を伸ばして、ナギコは言った。

その手は確か、冷たかった。

細いから、血管の通りも悪いのだろう。だからこんなに冷たいのだ。

そう思ったことがある。

だから、手を取ればきっと、冷たくて。

「私のこの手は、掴むことが出来る。あなたがちょっと手を伸ばしたなら、とても簡単に」

手を差し伸べたまま言って、ナギコは深い湖面を思わせる瞳で、立ち尽くす私を見つめた。

「掴める。この手は、現実だよ。あなたが追い求める、掴めるか掴めないかわからない、夢想じゃなくて」

ナギコは言った。とても自信に溢れて言った。自分を絶対の正と信じて言った。

私の言葉は空疎に砕け散り、届くことなく、伝わらないとだけ思い知って――

その瞬に、言葉はり始めた。

いや、それ以前からも、踊っていた。

ナギコに出会った瞬間から。

けれど、もはや絶対的に意味も掴めず、狂うように踊りだしたのは、あのときだ。

言葉は、踊る。

伝わらない。

仕方がない。

踊っている言葉を捕まえるのは至難の業で、私の言葉はとなり、繋がりもおかしいままに、支離滅に発される。

言葉は、踊る。

形を取りながら、掴むことも出来ないままに。

捕まえられない言葉を発することは出来ず、ようやく捕まえたものだけを発していては、意味も成さない。

「私の手は、掴めるのに。あなたへと、伸ばされているのに。あなたが、ほんの少し、手を伸ばしてくれたなら」

言葉は、踊る。

伝わらない。

聴こえない。

――ナギコの言葉をこれ以上聴かないために、私は私の聴覚を塞いだのだった。

だから、聴こえない。

もう、聴こえない。

私を惑わせ、乱し、引きちぎる、言葉、は。

踊る、言葉。

届かい。

らない。

聴こ

私は耳を塞いだまま、手を差し伸べる相手に、笑った。

涙に濡れて、鼻水を垂らしながら、笑った。

現実、だから。あなたの、手を、掴めない。誰が、すと、いうの。わたしと、あなたを

懸命に、吐き出した言葉。

私以外の誰に赦されないと、あなたはこの手を掴めないの?

返された言葉。

でももう、聴覚は塞がれた。

聴こえない。

答えは、永久に。

涙と鼻水に塗れ、笑う私に、細く尖った顔が近づく。

くちびるに、くちびるが触れて――

踊る言葉は、永久に、封じられた。