「りゅーちゃんのばかぁっ!!」
リュナルティックス・マームーン
「ぶわっ?!!」
友人と談笑しながら歩いていた、寮の廊下。
唐突にひとつの部屋の扉が開き、怒声とともに投げつけられたのが、バスタオルだ。
素晴らしいコントロール具合で、バスタオルはりゅーちゃんこと、竜征-りゅうせい-の頭を覆った。
「にん☆たまじゃないじゃんっ!!アダルトDVDじゃんっ!!りゅーちゃんのあかんたれぇえっ!!」
続いた叫び声に、竜征が頭からバスタオルを取って振り返ったときにはもう、部屋の扉は閉まっていた。ご丁寧に、がちりと鍵を下ろす音までする。
――その部屋に入っているのは、一年生だ。三年生の竜征に、とっていい態度ではない。当然の自衛だが。
「ぶっはははははははっっ!!引っかかったのか!!引っかかったのか、真魚-まお-!!」
バスタオルを持った竜征は、腹を抱えて爆笑した。
隣に立つ友人、狼姫-ろうき-が、そんな竜征を呆れたように見る。
「おまえな………またか。また、まおたん虐めたんか。あんな純粋無垢なオコサマを」
「虐めた言うなよ、人聞き悪い」
詰る響きに、竜征は爆笑の余韻を残したまま、体を起こす。じっとり目線の友人に、軽く肩を竦めた。
「ちょっと、からかっただけだろう?」
「『ちょっと』で、純粋培養な箱入り天使のまおたんに、アダルトDVDを渡したんか?」
ちくちくと責める友人にも、竜征が悪びれることはない。かえって、頑是ない子供でもあやすような表情になった。
「ちょっとだろう?一年生たって、もう高校生だぞ、真魚も。しかも男子寮に入ったとなれば、早晩そういう洗礼も受ける。『幼馴染みの優しいおにぃちゃん』が気を利かせて、先に免疫をつけておいてやろうとして、なんで責められるんだ?」
しらしらと吐き出す竜征に、狼姫は自分を指差した。
「こんばんは、よいこのりゅーちゃん。ボク、副寮長のヒメです。主に寮内の風紀の取り締まりを担当しています」
「ああ俺、真魚のフォローしに行かないとだわ」
狼姫にくるりと背を向け、竜征はさっさと真魚の部屋の前に行った。
じとっとした目線だけを追いかけさせる狼姫に、手に持ったままのバスタオルを振ってみせる。
「ちゃんとフォローしとくって。任せろ、虐め方も慰め方もすべて熟知していればこその、『幼馴染みの優しいおにぃちゃん』の地位だ」
「なんたる説得力のなさぶりだ。今すぐ説教室送りにしたりたい!」
激しく戦慄しつつも、狼姫はそれ以上追ってこない。
新入生が入学して、すでに数か月。
その間にこの友人が、幼馴染みの弟分だという少年を構い倒す状態に、もはや馴れた。
なんだかんだと言いつつも、真魚のほうも懐いている。
こうやって何度か悪ふざけにも晒されているが、翌日になるとけろりとして、りゅーちゃんりゅーちゃんと啼きながら、健気に後を追いかけ回す。
要するに、仲の良い兄弟のじゃれ合い。
血は繋がっていないが、そもそも実家がお隣同士で、屋根で行き来できる仲だという。家は違っても、だから本当に兄弟のように育ったのだと。
「あんま構い過ぎるなよ?もうそろそろ、おにぃちゃん離れもする年頃だろ。やり過ぎると、嫌われるぞ」
言い置いて、狼姫は竜征に背を向けると自分の部屋へと歩いて行った。
その背を見送り、竜征は肩を竦める。
「おにぃちゃん離れ。………な?」
つぶやくと、真魚の部屋の扉へと向き直る。
なに思うふうでもなく手を上げると、ここんと軽くノック。
「まぁお。俺だ。開けろ」
「どこのおれおれさまっ?!」
――甘やかす声音に、扉の向こうから響いたのは、そんな問い返しだった。完全に拗ねている。
竜征は、真魚が小さい頃から好きなアニメ番組の、かなり過去の特番が録画されたビデオを友人から借りた。録画されていたのは、VHSテープだ。
寮内にはVHS対応機がなかったので、竜征は真魚のためにとわざわざ、白DVDに焼き直しまでした。
そしてその白DVDをさらに、アダルトDVDを焼いたものとすり替えたのだ。
どの時点でどう気がついたかによるが、この反応だとおそらく、オトナのシーンを観てしまったのだろう。
「んー……そぉだな。小麦粉で白くした手と、風邪でしゃがれた声と、おっきなお口を持った、真魚の大好きなおれおれさま☆」
笑いながら言った竜征に、部屋から返って来たのは沈黙だった。
しかし、長いことではない。すぐに、かちりと鍵が開く音がした。
すぐさま扉を開き、竜征は部屋へと入る――
「ぁ、りゅーちゃ………っりゅーちゃん、りゅーちゃん………っんんっ、ぁ、んっ」
扉を閉めるか閉めないかというところで、すぐに真魚が飛びついて来た。のみならず、精いっぱいに背伸びした彼は、竜征のくちびるを己のくちびるで塞ぐ。
単に塞ぐだけではない。伸びた舌がべろべろとくちびるを舐め、開いた口の中に入りこんで、粘膜をくすぐる熱烈さだ。
三年生と一年生という年の差を考えても、ずいぶん華奢で小柄な真魚の体を抱え、竜征はとりあえず扉を閉める。
かちりと鍵を落とし直すと、熱っぽく潤んだ声で名前を呼びながらくちびるを貪る相手の体を弄った。
「んっ、ぁあっ、ふ、りゅーちゃぁ………っ」
「……お尻丸出しだ、真魚。タオル投げたろ、さっきも、そうか?」
「んっ、ぅ、そぉ………っ」
辿った手は、ズボンも下着も脱ぎ去った真魚の下半身を、遠慮なく探る。
くちびるに吸いつくことも出来なくなり、真魚は崩れかけながら懸命に竜征にしがみついた。
「だって、りゅーちゃんの声、きこえて………っ」
「だからって、こんなかっこで………」
「っぁあんっ」
真魚は、上半身にこそパジャマは着ているものの、下半身にはなにも着けていなかった。
男子寮で、男子しかいないから好きにすればいいとはいえ、だからこそ危険だという話もある。
狼姫の反応は特殊なものではなく、寮内の男子からの総合的な評価だ。
真魚は天然1000パーセントの愛らしい天使として、男子から熱狂的な視線を向けられている。
性格もそうだが、容姿も併せて愛らしい。男であることは疑いようがないが、そういった性別感を超えて、愛らしさにほっこりした気持ちを抱かせてしまうのが、真魚の容姿であり、言動なのだ。
その愛らしい天使は実のところすでに、『幼馴染みの優しいおにぃちゃん』に、ぱっくりこされている。
手を小麦粉で白くして、風邪でしゃがれた声で、天使などひとのみ出来る大きなお口を持った、とてもとても優しいおにぃちゃんに。
ちなみに、全寮生の憧れの天使である真魚を構いつけても竜征が黙認されるのは、肝心の天使が懐いているからだけではない。
竜征もまた、そこそこの知名度と羨望、そして人望を得ている。
まさに、優しくて理想的なおにぃちゃんとして、同級生からすら好かれているのが、竜征――
竜征は笑いながら、堪えきれずに濡れたくちびるを舐める。
「………ん、真魚。お尻濡れてる」
「っきゃ、っぅっ」
ひくつく窄まりを撫でられて、真魚の口から子犬のような嬌声がこぼれる。
跳ねた体をしっかり抱きこんだまま、竜征は部屋の中を見回した。
ベッドと机、それにチェストと小型のテレビがあるだけの、簡素な部屋だ。
そのベッドの上にあるものに、竜征のくちびるはまたもや、堪えきれない笑みに歪んだ。
「えっちぃDVD観て、興奮したんだ、真魚?興奮して、ひとりでシちゃったんだ?」
「っぁ、ぅ、う………っぇ、だって、だって……っガマン、できなくて………っぁあぅっ」
竜征の指が、すでにびっしょりと濡れて、物欲しげにひくつく入り口をやわらかに辿る。微妙過ぎる刺激に、真魚はがくがくと膝を震わせた。
「っぁ、あ、りゅーちゃぁん……っ」
意地悪く笑う竜征を見つめると、真魚は熱にぼやけきった顔でベッドを示す。
「ね、ね、りゅーちゃ………すぐ、すぐ、できるよ。おれ、きょぉ、おしりすぐ、できるよ………ね?やわやわのとろとろの、ぐちゃぐちゃでしょ?りゅーちゃんの、すぐに入れてだいじょーぶだから………」
「………そうだな。ひとりで、シちゃったんだもんな?」
真魚が示すベッドの上には、ローションのチューブと、男性型を模した卑猥なオモチャが、使用感も生々しく放り出されていた。
真魚の個人的な持ち物だが、与えたのは竜征だ。使い方もきちんと、実地で教えてある。
竜征から渡されたアダルトDVDを観た真魚は、堪えきれずに自慰へと走り、その過程でローションと男性型を使ったのだろう。
自慰のときに、通常の少年よろしく前だけを弄るのではなく、むしろ後ろだけを弄るように教えたのも、竜征――『幼馴染みの優しいおにぃちゃん』だ。
「まあ、真魚はな。こんだけとろんとろんになれば、すぐデキるかもしれないけど……俺のほうがなあ。まだ、そんなにガチガチじゃないし」
「ゃぁあんっ、りゅーちゃん、ウソつきっ!あかんたれのいけずっ!」
しらりとすっ呆けた竜征に、真魚はぐずつく声を上げた。笑う膝でも地団駄を踏み、竜征の下半身に腹を擦り付けてくる。
「硬くなってきてるもん……っ!ちゃんとぉ、がちがちなってる……っ」
「んでもまだ、入れられるほどじゃないだろ?誰かが、かわいーお口でなめなめしてくれたら、さっさとかっちんこっちんになるかもしれないけど」
「んーっ、もぉっ!なめなめするっ!おれ、なめなめするからぁ……っ!りゅーちゃんの、かっちんこっちんにするぅ………っ」
唆されて、真魚は素直に床に落ちる。
あまり激しく腰を打ちつけないようにと、竜征はさりげなく支えてやった。気がつくこともなく、真魚は十分に張りつめているように見える場所に、とろりと蕩けた顔を擦りつける。
「ぁあ、りゅーちゃんのぉ………っぁむっ」
「………まぁお。俺はできれば、ズボンの上からじゃなく、直舐めしてほしいよな………」
ぶつぶつとぼやきつつ、竜征は自分でジーンズのホックを外し、ファスナーを下ろす。蕩けた真魚からは、こういったスキルがきれいさっぱり失われるのだ。
そのうち焦れて、『外してよぉ、りゅーちゃんのいけずぅううっ!』と喚き出すと、きっちりわかっている。
「ほら、まぁお」
「んっ、ん……っりゅーちゃんのぉ……っふぁ、あつあつとろとろん………っはふっ、んー、ぁむっ」
下着の中から取り出してやったものに、真魚はご馳走を目の前にしたかのようにうっとりした表情を晒す。
躊躇いもなくぱくんと咥えると、その表情はさらに淫蕩に解けた。
「んん、んー………ぁふ、ぁ、……しょっぱ………ん、んん………ぁあん、りゅーちゃんのぉ………っ」
どのみちすぐに口に咥え切れなくなるので、真魚は両手で掴んで、共に扱く。懸命に竜征のものに舌を這わせながら、剥き出しになった尻がゆらゆらと揺れた。
「あー……も、真魚、おまえほんと、天使。ひとのもん、そんなに美味そうに咥えちゃって」
間違った用法で間違った褒め方をして、竜征は真魚の頬をむにりとつまんだ。
惚けた感想をこぼす竜征を、真魚は恨めしそうに見上げる。
「ん……っ、ぅーちゃ………まだ?りゅーちゃんの、まだ、おしりはいんない?」
「ん、そろそろいーかな。りゅーにぃちゃんの、真魚のかわいいお口のおかげで、がっちがち。だろ?」
「りゅーちゃん……っ!」
ぱっと喜色に輝いた真魚に、竜征はにっこり笑う。
「つーわけで真魚、ちょっと床にころんして、足おっきく広げて」
「こぉ?」
言われるまま、真魚は床にころりと仰向けに寝転がる。そろりと、足を開いた。
竜征は子供番組の司会のおにぃさんよろしい、現状で見ると非常に胡散臭い爽やかな笑顔で頷いた。
「あー、両手、お尻にやって。うん、そんで指、突っこんで……」
「んっ、ぁ、ゆ、びもっ?」
「そ、指も。真魚のヤラし過ぎる、お尻の中まで俺に見えるように、くぱーってして」
「ん………っぁ、………ね、ね………みえる?りゅーちゃん、みえる……?おれのおしり、りゅーちゃんほしーほしーって、してるの、見える……?!」
「んー、見えるみえる。ぱくぱくしちゃって、お尻じゃないよなあ、この動き……すっごいヤラシイ」
舌なめずりして言うと、竜征は真魚が舐めたせいだけでもなく漲っているものを掴んで、軽く振った。
「ほら、欲しいか、真魚?真魚のやらしいお尻に、りゅーにぃちゃんの、入れて欲しいか?」
「ぁ、あ……っりゅーちゃんの……りゅーちゃんのぉ……っ!ちょぉだい、おれに、おれのおしりに、りゅーちゃんの………っ」
言われてもいないのに、真魚は腰を浮かせ、尻に差し入れた指を広げて、竜征を招く。
すでに蕩けきっている真魚に瞳を細め、竜征はひくつく場所に己を宛がった。自分では解していない、ヒトリアソビで蕩けた真魚の中に、遠慮なくぐいぐいと押し込んでいく。
「ぁ、あ………っぁあんっ、はぁっ、あ………っ!ぁ、りゅーちゃん……っりゅーちゃんのぉ……っホンモノの、りゅーちゃんのぉお………っっ」
受け入れながら、真魚は痛みに因らず、がくがくと痙攣した。触れられることもなかった、かわいらしい男性器からとろとろと体液が噴き出している。
竜征はくちびるを舐めて懸命に興奮を抑え、名残りに震える真魚の男性器を掴んだ。
「………ほんと、やらしーよなあ、真魚。入れただけで、イっちゃうんだから。しかも……」
「ぁっ、きゃふっ、きゃぅうっ」
いつもなら馴染むまではゆっくり動く竜征だが、今日は初めから動きが激しかった。
真魚のくちびるからは子犬のような嬌声が、明らかな喜色とともに吐き出される。
無意識に手を伸ばして縋りつこうとする真魚を、竜征は膝に抱え上げてやった。体勢が変わったことで角度も変わり、自分の重みでさらに深く抉られた真魚は、再びひとりで極みに達してしまう。
「っぁ、あ、あ……っ、ぁ、りゅーちゃんの……っりゅーちゃんの、いい……っぃ………っイきすぎて、しんじゃぅう………っ」
「俺はまだイってないってのに、二回も先にイくなんて、イケナイ子だなあ、真魚」
激しく痙攣する真魚の体を抱え直し、竜征は締まる粘膜の中を割り開くように突き上げる。
「ゃ、や、ま……っ、待って、りゅーちゃ……ぁっぁあ、おれ、おれ、イったばっかりぃ……っほんとに、ほんとに、きもちよすぎて、しんじゃぅうっ………っ」
泣き喚くような嬌声を上げ、真魚は竜征にぎゅうっとしがみつく。それでも、突き上げは激しいままだ。
「ゃぁあ、りゅーちゃぁ……っ」
「ほんと、やわやわのとろとろで、お尻じゃないなあ、真魚の………ねとねとのぐちょぐちょで、こんないやらしいの、お尻なんて言わないよな?真魚のここは、お尻じゃなくて、もっともぉっとやらしい……」
「ゃぁあんんっ」
竜征が耳に吹き込むと同時に、真魚の体が一際大きく仰け反り、激しい痙攣に見舞われた。
「………っふ…っ」
食い千切られるかというような締め上げに、竜征も呻きながら真魚の中に熱を吐き出す。
「ぁあ………あー………あー…………っっ」
言葉にもならず、ひたすらに声を吐き出しながら震えていた真魚だが、唐突にその体ががっくりと力を失った。
崩れて床に落ちかける真魚を、竜征は素早く受け止める。
胸の中に抱きこんで顔を覗きこめば、立て続けに過ぎた快楽に、真魚の意識は一時的に飛んだらしい。
「………ほんっと、かわいいなあ、真魚。天使。ちょぉ天使。そんで天国」
間違った感想をでれりと崩れた表情でつぶやき、竜征は机の上へと目を遣った。そこには今は黒画面で、なにも映していないDVDプレイヤーがある。
「………にしても、痴漢ものでこの反応ってことは………次は、ソフトSMでも観せてみるか。いやそれとも、まずはいっしょに観ながら……」
――方向性を誤った学習を悪びれることもなくつぶやくと、竜征は胸の中の小さな体をきつくきつく抱きしめ、汗ばむ頭に顔を埋めた。