塔の中の魔王
大陸の北に位置し、冬の長いヴィトニカ地方にも、ようやく春が巡って来た。やわらかい陽光が燦々と降り注ぎ、よく手入れされた中庭には花が咲き乱れている。庭の中央に誂えられた四阿からの眺めはことに素晴らしいものだった。
「やーっぱ、こういう日は外でお茶がいいよなあ」
ふわふわといい香りを漂わせるお茶セットを前に、軽装鎧に身を包んだ青年がうれしそうに言う。
「エルの淹れる茶って、なんでこううまいんだ?」
問われて、裾の長いローブを身に纏う青年が肩を竦めた。
「茶葉がいいからな。それにヴィトニカの水は大陸百選に選ばれるくらいの名水だ。ちょっと手順を守ってやれば、だれでもうまい茶が淹れられる」
「でもエルのは特にうまいよ。俺が自分で淹れても、こうはならねえもん。さすがは大賢者だよなー」
「そんな褒め方されてもちっとも嬉しくないぞ、あほ勇者。だいたいおまえはなんでも感覚でやっつけ過ぎなんだ、ゼータ」
四阿のベンチに座って古文書を開いていた大賢者、エルが、だらけきった姿勢でテーブルに懐く勇者、ゼータに向き直った。あ、これはお説教が始まるな、とゼータはのんびり考えた。
エルはお説教が大好きだ。
こんなぽかぽかお天気で、花が咲き乱れた素敵庭でピクニック中にお説教もないとは思うが、くどくど言っているエルも好きだ。エルは興味のない人間や見込みのない人間にはまったく構わない。常にくどくど言われるのは、つまり、捻じ曲がった大賢者さまなりの愛情表現なのだ。
それに、その美貌称える詞なし、と詩人たちを泣かせるきれいな顔が、厳しく眉をしかめたさまはいつまで経っても見飽きない。他人に説教されるのは嫌いだが、エルは別格だ。目にも耳にも愉しい。
何事も超プラス思考で捉える、ある意味まったく勇者らしい勇者であるゼータの思考回路を正確に読み取り、エルのくちびるから小さなため息が漏れる。
見た目は詩人が涙を流して悦ぶ凛々しくたくましい若武者で、なにより気難しいことで有名な伝説の聖剣を従わせた、預言の勇者だ。これでもう少し頭を使うことを覚えてくれれば、申し分ないのに。
にまにまと緊張感なく笑って見つめてくるゼータに、エルは口を開く。
そこに、金切り声が割って入った。
「こぉおの、ばか勇者、ばか賢者ぁああ!!おまえら仮にも敵の分際で、魔王城でピクニックすんなあああ!!」
「「お」」
ゼータとエルが揃って声を上げ、声のしたほうを見る。
総重量を考えると眩暈がしそうな衣装を纏った、実にかわいらしい青年が、分厚いローブを蹴立てて中庭に面した回廊から走り出して来るところだった。
その姿を認めたとたん、ゼータの笑みがだらしなく崩れ切った。
「エルー。ちょっと発言修正。俺、エルの淹れる茶は格別にうまいと思うけど、やっぱいちばんはルークの淹れてくれるお茶だわぁ」
「当然だな」
ゼータほどだらしなく相好を崩さないものの、ひどくやわらかな雰囲気になったエルが至極もっともと頷いて同意する。
そのふたりが寛ぐ四阿までやって来た青年は、手に持っていた薄い冊子でゼータとエルの頭を交互に叩いた。
「ああもうばかばかばか!おまえらなに考えてんの?!ゼータ、それ軽装鎧でしょ?!勇者の鎧はどうしたの?!エルもだよ、大賢者の杖は?!ここ魔王城なんだって言ってるでしょ!そうやって隙なんか見せたら、勇者と大賢者なんてすぐさま倒されちゃうんだからね!!」
「たとえばおまえとかに、魔王様?」
きいきい叫ぶ青年、この城と素敵庭の持ち主の魔王ルークに、ゼータは甘く笑って手を伸ばした。
重厚な衣装のせいで誤魔化されがちだが、勇者の自分と比べたらずいぶんと細い腰に腕を回して抱き寄せる。
抵抗もできずにゼータの胸に倒れこんだルークは、一瞬、戸惑ったように瞳を揺らめかす。しかしすぐさま顔を上げると、でれでれ笑う勇者の頬をぎりぎりとつねり上げた。
「そぉおだよっ!俺魔王なんだからね!勇者も大賢者も敵なんだから、寛ぐな!お茶するな!もうちょっと危機感持てばかぁ!!」
「そうは言うがな、ルーク」
鋼鉄の無表情と詩に謳われた顔を笑み崩したエルが、席を移動してゼータとの間にルークを挟む恰好で座る。突き出されたルークの腰へさらりと腕を伸ばした。
「私たちはおまえと敵のつもりはまったくないんだが」
「そうだぜ、ルーク。おまえは大事な幼馴染みだ。俺たちのかわいいルークだぞ?戦ったりするわけないだろう。な?」
「んっんんっ」
蠱惑的な笑みを閃かせたゼータに見惚れた一瞬にくちびるを塞がれ、濃厚なキスをお見舞いされて、ルークの腰がエルの膝へと落ちる。
「ルーク、かわいいルーク、愛しいルーク…」
「ゃあ、んんっ…ふぁ、んぁう」
キスの合間に、ゼータはやわらかい声で囁く。
魔王と威張ってはいても、所詮は快楽に弱い魔物だ。ルークは巧みなキスとやさしい言葉にたちまち溺れ、ゼータに縋りついた。
笑ってそれを眺めていたエルが、もじもじと蠢くルークの下半身へと手を差し入れる。重装備の魔王装束もなんのその、あっという間に下穿きへとたどり着くと、紐を解いてするりと下げた。露わになった白い尻を持ち上げ、肉を割る。隠されていた窄みに口を付けると、舌を伸ばした。
「ぁあっ、は、エルぅっ」
切ない声を上げ、ルークは仰け反る。窄みに口を付けたまま、エルはしたり顔で頷いた。
「グレた幼馴染みを正しい道に戻してやるのが私たちの目的だからな。勇者だとか大賢者だとか、ひとが勝手に付けた名前に従って、かわいいルークを虐めるわけがない」
「そうそう。な、早く魔王なんか辞めちまえよ。そんで村に帰ろうぜ?今度は三人でいっしょに暮らすんだ」
この装甲を剥がすのは初めてではない。手際よく上から衣装を開いていきながら、ゼータも甘く誘う。
ルークは苦しそうにぷるぷると頭を横に振った。
「んゃっ。お、れは…、まおー、なのっ!ぁあっ…せかい、を、ほろぼす、ん、だからぁ、ぁあんっ」
甘い声で啼きながら、強情に言い張る。
ゼータとエルが揃ってため息をついた。その息に敏感になった肌を撫でられ、ルークがまた啼く。
ゼータの牙がつぷんと立ち上がったルークの胸の突起に齧りつき、エルはふるふると震える袋を口に含んだ。物欲しそうにぱくつく下の口には、細長い指を差し入れる。
「クソ預言者の言う通りにする義理なんてないっての。おまえみたいにかわいくてやさしいやつが世界を滅ぼしたりなんてするわけないんだから」
「そうだぞ。やつらがおまえにした仕打ちを思い出してみろ。こんなかわいいおまえを、世界を滅ぼす魔王だなどと決めつけて、生まれたときからあんな寂しい塔にひとりきりで閉じこめて…。グレるのも仕方ないとは思うが、私たちのことはもう少し信じてもいいと思うぞ」
「そうだぜ。あんなに何回もダンジョン攻略しておまえに会いに行ってた、俺たちの真心をもう少し信じろよ」
ゼータの指が、衣装を開きながら上半身を撫でまわす。剣だこが出来てごつごつと硬い皮膚は、ルークのやわらかい肌に痛みに似た快感を呼ぶ。頑丈な牙が首筋に傷ができるほど強く噛みついて、背筋に電流のような快感が走った。
崩れそうになるルークの腰を、古文書を優雅に繰って大魔法を次々と発動させたエルの指がやわらかく支えた。そのまま、引き裂こうとするように双丘の肉を開く。はしたなく晒された襞に舌が潜りこみ、唾液を流しこんだ。溢れた分を、音を立てて皮膚ごと啜られる。
普段は黒目がちに潤むルークの瞳が、赤く染まった。
胸に食いついているゼータの頭を掻き抱き、下の口を丹念に開いているエルを振り返ると、切ない声を上げた。
「も…いれてぇ…っ。エルとゼータの、おれのなかにいれてぇ…っ」
「そんなかわいいお願いは聞かずにはおれねぇよなあ、エル」
「焦るな、あほ勇者。ルーク、もう少し解さないとおまえが痛いぞ」
冷徹なほどのエルの指摘に、赤い目のルークがいやいやと首を振る。弄られてもいないのに痛いほど反り返る自身の欲望を見せるように体を捻り、かん高く啼いた。
「ぃたいのいぃから…っ。はやく、ゼータとエルの、おれのなかにいれてぇ…ぉくまで、ぐちゃぐちゃにかきまわしてよぉ…っ」
しばし見惚れた二人だったが、ややしてゼータが目を眇め、ルークの体越しにエルを見た。
「エルのいじめっこー」
「黙りおれ、適当勇者」
こほん、と咳払いし、エルは伸び上がるとルークの頬にキスをした。
「わかった。やるから、泣くな」
「ふぁ、ぁあん」
啼き声で応え、ルークは腰を揺らした。その腰を下ろし、ゼータとエルは自身の下穿きを緩める。
かわいいルークの痴態で十分に熱くなっているそれを、ぱくつく口に宛がった。
まずはゼータが欲望を差し入れる。そんなところも勇者らしいサイズのそれで、ルークの小さい口はいっぱいに拡がった。エルの入りこむ隙間などないように見える。
寸暇躊躇ったエルに、ゼータにしがみついたルークが涙目で振り返る。
「はやくぅ、エルもぉ…っ」
「…俺からもお願い。早くしないとひとりでイっちゃう」
かわいいおねだりとかわいくないおねだりを受けて、エルはため息を吐いた。
魔王であるルークの中は、動かなくてもそれはそれは気持ちいい。下手な人間なら、中毒になって死ぬまで抜けなくなるくらいだ。
エルはいっぱいに拡がった襞を優雅な指先でなぞり、わずかな隙間に差しこんで無理やり拡げた。
「ぁうぅっ」
「いい子だな、ルーク…」
痛みに顔を歪めたルークにやさしくささやき、エルは無理やり自身を押しこんだ。きつさは半端ではない。だが、快楽を治める魔王は普通なら無理なそれを受け容れてしまう。
「ぁん、いたぃ…っ。きもち、ぃい…っ」
「俺も気持ちいいぞ、ルーク」
上擦った声でゼータは囁き、ゆっくりと腰を動かした。中でエルのものと擦れる。そのうえ、熱い粘膜にきつく包まれて、痛いくらいに絞られる。気を抜くと一瞬で達してしまいそうだ。
「あぁう、っぁあ、ぃやぁ」
「ルーク、かわいいルーク、愛しいルーク…」
二人に揺すり上げられて嬌声をこぼすルークに、エルが謳うようにつぶやく。
呪文の詠唱の美しさで、魔物を金縛りにすると伝説になった大賢者のうただ。堪らずに、ルークは首を振って仰け反る。嬌声とともに突き出されている舌に、エルは情熱的に咬みついた。
「ぅんんっ、んんふ」
「ルーク…」
「あー。いいなあ…この眺め。俺もキスしたいけど、エルとルークがキスしてんのもいい…」
「あほ勇者が」
心底からうっとりしたつぶやきに、萎えるほどではないが脱力して、エルはルークのくちびるを空けてやった。すかさずゼータが吸いつく。
「んゃあ…ふんぅ」
「ルーク、かわいいルーク、私たちのルーク…」
謳いながら、エルはルークの耳を含む。ゼータにしつこく吸いつかれて呼吸が覚束ないルークの中が、不安定に絞まってふたりを絞り上げた。ごつごつした互いのものに擦り上げられる感触と、容赦ない絞り上げと。
「イきそうだ、ルーク…おまえの中に、私のものを出したい」
「ああ、ルーク…俺も、おまえの中に出したい。奥にまで、全部、掛けてやりたい」
両耳に熱く囁かれて、ルークが震える。あまりの切なさに、ぽろぽろと涙がこぼれた。その涙をも、ふたりが舐め取る。頬から目尻へとたどったくちびるが、ルークのくちびるを塞ぐ。
「ルーク、かわいいルーク、俺たちのルーク…」
「私たちだけのルーク、愛しいルーク…」
このささやきには、いつも抗しきれない。なにもかもが有耶無耶になって、ルークの頭はふたりでいっぱいになってしまう。
その昔、ひとりきりで塔の中に封じこめられていた時代。
たったふたりきり、困難な道のりを越えて会いに来てくれた初めての友達。
たったふたりきり、魔王城へと連れ去られ、新たな魔王に仕立てられた自分に会いに来てくれた。
「ぁ、エル、ゼータ…ぁ」
とっておきの甘い声が、意識もせずにこぼれた。腕はゼータにしがみつき、頭はエルに凭せ掛ける。こみ上げる熱のまま、ルークはかん高く叫んだ。
「ふたりとも、だいすき…っ」
背筋を雷のような快楽が貫き、ルークの頭の中が爆発する。そこへ追撃するように、体の内奥へと、ふたつの熱が弾けた。
「「ルーク」」
大好きな声に両側から呼ばれて、白濁する意識の中、ルークは微笑んだ。
勇者と大賢者。
このふたりの腕の中以上に、安心できる場所などない。
どこまで行っても、魔王を辞める気はないのだけど。
***
北国であるヴィトニカの春は儚い。天気のいい日が続くとは限らず、名残の冬がいつまでも顔を出す。
今日はそんな寒い日で、ゼータとエルは暖炉に火を入れて部屋でおとなしくしていた。
とはいえ、根っから肉体派の勇者であるゼータにとって、部屋の中でぼーっとしているほど退屈なことはない。その顔が倦んでいることに、古文書に夢中なように見えて、エルはきちんと気がついていた。
なにかしら退屈を殺せるものを与えてやらないと、自分にとばっちりが来る。
だがさて、なにがあるだろう。
のんびりとエルが思考を巡らせたときだった。
「ぅわああああああん、ゼータぁ、エルぅうううう!!」
「「お」」
退屈に喧嘩を売りかけていたゼータの顔が輝き、エルはやれやれと表情を和らげた。
泣きながら部屋に飛びこんで来たのは、彼らのかわいい魔王様、ルークだ。今日も今日とて、重厚な魔王装束に愛らしい体を覆い隠している。
その威厳を端から台無しにして、愛らしい魔王様は立ち上がって迎えた勇者の胸に泣きながら飛びこんだ。
「聞いてきいてぇ、ひどいのぉおおおお!!」
「ああよしよし、どうした?なんでも言ってみろ。だれがおまえを虐めた?」
この世のたったふたりだけに向けるとっておきの甘い声で、ゼータが泣くルークを宥める。だが、その顔が期待に爛々と輝いているのを、エルはきちんと確認していた。
ルークがこんなふうにやって来たときには、退屈を殺すネタが飛びこんで来てくれたということと同義なのだ。
勇者の表情に気がつかないルークは、顔を真っ赤にしてぐすぐすと洟を啜った。
「あのね、ヴェンダールが俺の言うこと聞かないで、勝手にアレシィガを攻めてるの!だめって言ってるのに、ぜんぜん聞いてくれないんだよぉ!もうやだもうやだ!なんで翼将ってあんな我が儘で態度でかいの?!」
「…ヴェンダール?」
思いきり問う顔を向けられて、エルは呆れたようにため息を吐いた。仮にも勇者なのだから、敵の主力の名前くらい覚えていてほしい。
「十三翼将の一匹だ。席次は八。焔獄の竜王ヴェンダール。その名のとおり、炎属性の竜だ」
「なるほど」
頷き、ゼータは癇癪を起こして叫ぶルークの頬を挟むと、黒目がちな瞳を覗きこんだ。
「それで、そいつがおまえの言うこと聞いてくれないのか?」
「そうなの!ダメって言ってるのにぃ!俺魔王なのに、ご主人様なのに、言うこと聞いてくれないなんて、さいてぇ!」
「よしよし」
頭を撫でた手が、そろりと首に落ちる。大きく開いた襟から、首の根本をなぞった。
「ふぁ」
びくりと震えて縋りつく魔王に、勇者はにんまりと笑った。
「大丈夫だぞ。俺に任せろ、ルーク。そんな悪いやつは、俺がぶった斬ってきてやるから」
「え…」
きょとんと顔を上げたルークのくちびるが言葉を発するより先にゼータが塞ぎ、ねっとりと口中を弄る。思ったとおりの展開にエルは苦笑すると、古文書を脇に除けた。記憶を探る。
「アレシィガと言っていたな。西のほうだ。ここからだと魔法で飛んでも往復三日かかる」
「三日かあ」
成り行き任せ勇者が、わずかに天を仰ぐ。すでに自分の力で立てなくなっている感じやすいルークを腕に抱え上げると、ベッドに運んだ。
魔王のための特別誂えのベッドだ。男三人で寝ても、まだ余裕がある。昨夜も昨夜で、ここでさんざんにルークを啼かせた。
精力の旺盛さは魔王も勇者も負けない。どちらかと言えば悟り境地の大賢者なのだが、このふたりだけで事に及ばせる気はない。服の前を寛げながら、ベッドへ行った。
「じゃあ、三日分、たっぷりかわいがってやんないと」
「だから、往復だけで三日だと言ってるだろう、あほ勇者」
「大丈夫だって。行ってちょちょいとやっつけて、ささっと帰りゃいいんだよ。エルの作戦と俺の攻撃を組み合わせりゃ、翼将だろうがなんだろうが、ちょちょいのちょいよ」
軽く言う勇者に、大賢者は困ったものだと眉をしかめる。鋼鉄の無表情を謳われたその顔は、だが、やわらかく笑み崩れていた。
「ちょっと待って、ゼータ!翼将斃しちゃだめ!俺の部下だよ!我が儘だけど、態度でかいけど、あんなのでも大事な戦力なんだからね!!」
「だから斃すんだろうが、魔王様」
我に返ってきゃんきゃんと叫んだルークに、ゼータはにっこり笑った。
「俺は勇者だぞ?魔王の配下が暴れてたら、斃しに行くのが普通だろ」
「…ぅ」
ぐ、と言葉に詰まったルークの真っ黒な瞳がみるみるうちに潤む。ぐす、と洟を啜った。
「やっぱり…やっぱり、ゼータ、敵なんだぁ…。そうやって俺の部下全部殺しちゃって、俺をひとりぼっちにするんだぁ…そんで、みんなで俺のこと虐めるんだぁ…」
「ルーク」
かわいらしくもしゃれにならない暗い未来予想図に、エルは吹き出しかけて堪える。ベッドに押し倒されたままぷるぷる震える愛しい魔王の額にそっと口づけた。
「ひとりぼっちになんかならないだろう。私たちがいる。悪い友達と全部縁を切ったら、私たちが全力でおまえを守ってやる。私たちのほうが翼将十三匹よりよほど頼もしいぞ?なにしろ伝説の勇者と大賢者だ」
「そうだぞ。早く魔王なんか辞めろよ。そんで村に戻ってさ、三人でのんびり暮らそうぜ。今度こそ、どんなやつが来たって、必ず守ってやるから」
ゼータも請け負い、ルークの頬に口づけた。そのままくちびるを滑らせて、首へと下ろす。手慣れた仕種で、分厚い魔王装甲を剥いでいった。
「…辞めないもん」
強情に、ルークは言い張る。肩をたどるゼータの頭をぺしりと叩き、下半身を弄るエルの髪を引っ張った。
「俺は魔王なんだから…ぜったい、世界を滅ぼすんだからね!勇者と大賢者なんて、けちょんけちょんにやっつけてやるから。けちょんけちょんにやっつけて…」
語尾が、甘い吐息に変わる。与えられる感覚に顔を歪めながら、魔王は強気に宣言した。
「それで、ふたりのこと、下僕にして…っ。一生、この城で、俺の傍で、飼い殺してやるんだからぁ…っ」
想像で喜悦に染まる魔王の声に、勇者と大賢者は揃ってため息を吐いた。
昔も今も、これだけは変わらない。
かわいいルーク。
そんな未来もちょっといいかな、とは思うが、自分たちは、この哀れな魔王様にまっとうな人生というものをあげたいのだ。
封じられることもない、斃されることもない、平凡だが自由な人生を。
「…ま、ここらへんはおいおいな」
「そうだな。焦っても仕方ない」
顔を見合わせて笑い、勇者と大賢者は魔王の体に沈んだ。
「とりあえず、三日分フル充電な。浮気する気なんか起きないように」
「それなんだが、三日間くらいなら持ち堪えられる淫従の魔法がある」
「ナイスだ、大賢者。さすがはエル、俺の相棒」
「ちょっと待て、おまえたちなにする気だ!俺には仕事があるんだぞ、魔王ってヒマじゃないんだぞーーーっっ!!!」
魔王の叫び声は、すぐさまかん高い嬌声へと取って代わった。