「♪さーさーのーはー♪」
七夕の飾りつけをしたリビングで、その後片付けをしながら、カイトが口ずさむ。
ささらさ七夕
例年のことながら、散らかした弟妹はすでに部屋に戻って、夢の中だ。
マスターに片づけのスキルはなく、夜のメイコに片づけに費やす時間はない。
必然的に、カイトとがくぽがふたりで、リビングの片づけに当たっていた。
貧乏くじと言えば貧乏くじだが、ふたりきりだと思うと、「楽しい」貧乏くじに変わる。
「♪………」
うたい始めたカイトだったが、そこで首を傾げてうたを止め、片づけの動作も止めて、しばし考え込んだ。
テーブルだけでなく、床にまで散乱した文房具を拾い集めていたがくぽが、顔を上げてカイトを見る。
「ん!」
なにか納得したように頷くと、カイトは再び片づける動きに戻った。拾い集めた色紙をテーブルの上で、きれいに整えていく。
そのくちびるが開いた。
「♪たーなーばーたーさーらさらー♪」
「かーいーとー」
「ぁはっ」
がくぽに呆れた声で呼ばれて、カイトは明るく笑った。
ハサミやノリ、ホチキスといった文房具をサイドボードの引き出しに仕舞いながら、がくぽは眉をひそめてカイトを見る。
「なにゆえ、正しくうたっていたものを、わざわざそちらに修正する」
「んー、だってさ。なんか、しっくりこなかったんだもん!」
「しっくりってな……」
色紙を束ねながらきっぱり答えるカイトに、がくぽはさらに眉をひそめる。カイトは色紙をきれいに整えると、ちょっと満足そうに眺めた。
それから呆れた顔のがくぽを見て、軽く首を竦める。ぺろりと舌を閃かせた。
「間違ったのうたって、がくぽに『間違ってる』って言ってもらわないと、なんかしっくりこなかったんだよ」
「………」
しっくりとは、そちらの話か。
瞳を見張るがくぽに笑いかけてから、カイトは立ち上がって傍らに来る。サイドボードに色紙を仕舞うと、困ったような表情のがくぽを、いたすらっぽく輝く上目遣いで見た。
「ね、正しいの、がくぽがうたって?」
「……」
きょとりと瞳を瞬かせてから、がくぽはやれやれと笑う。
散らかし放題にされたリビングも、きれいに片付いた。少しばかり遊んだところで、構いはしないだろう。弟妹は寝てしまったし、メイコもおそらく深酒に潰れている。
マスターも――まあ、そこは深く考えない。
がくぽの手が伸び、カイトの腰を抱いた。
「それから、共にうたうか?」
「ん、抱っこ抱っこで!」
笑うカイトが、がくぽに抱きつく。
胸に埋まる頭に顔を寄せ、がくぽは微笑んだ。
共に声を合わせてうたう――以前より、ずっとずっと近づいたこころで。
抱きしめる腕は同じでも、抱きしめるこころはまったく違って、このくちびるは素直に愛しさを吐き出す。
「がくぽ」
笑って見上げてくるカイトに軽く口づけ、がくぽは耳元にくちびるを寄せた。
「愛してるぞ、カイト」
「ふひゃっ」
吹きこまれる言葉にカイトが笑って、それから伸びた手に頭を撫でられる。
「ん、俺も、がくぽ大好き!」
無邪気な言葉とともに、くちびるに軽くくちびるが触れる。
「ははっ」
笑うと、がくぽはカイトと抱き合ったまま、ソファへと向かった。
声を合わせて、言祝ぎのうたをうたうために。