どうしてくれようか――この、かわいいコイビト。

sleeping beauty

畳に胡坐を掻いて座り、がくぽはぼんやりと目の前を眺めていた。

視線の先では、カイトがお昼寝中だ。

今まで、カイトが昼寝をしているといったら、必ずリビングだった。

なによりそこは家族が集まるところで、ぽかぽか暖かい陽だまりと、ふかふか気持ちのいいクッションがある。

おっとりぽややんとした性格そのままに、家族と陽だまりを愛するカイトは、遊ぶのでも昼寝をするのでも――はっきり言えば、夜眠る以外、自分の部屋に戻ることはない。

それはなにもカイトだけに限った話ではなく、家族全員に見られる傾向だ。

がくぽは自分の部屋にいることが多いが、それでも気がつくとリビングにいる時間のほうが長くなりつつある。

なんだかんだと家族にも馴染んだ最近――

ひとつだけ、変化が。

「――どうしたものだろうな」

眠るカイトを眺めたまま、がくぽはつぶやく。

変化、ひとつ――

気がつくと、カイトががくぽの部屋で寝ている。

気がつくと、というか、パターンはなんとなく把握した。

仕事などでがくぽが家に不在だと、カイトはがくぽの部屋に入りこんで、お昼寝している。

主不在の部屋に勝手に入りこんでいるのも問題だし、そこで昼寝をしているとなれば、ふてぶてしいことこのうえない。

起こして正座で説教と反省文、もうしませんの誓約書コース。

「………………ほんに、悩ましいな、お主」

胡坐を掻いた膝の上に肘をつき、つぶやくがくぽの瞳は笑っている。

人の部屋に無断で入りこんだうえ、図々しくお昼寝に勤しむカイトは、もうひとつ、やってはいけないことをやっている。

押入れに仕舞われているがくぽの寝間着を引っ張り出して、お昼寝ケットにしているのだ。

つまり人の押入れを、不在の間に勝手に漁っているという、重大なマナー違反。

そんな「ワルカイト」は、大きな着物に全身、くるりとくるまって、挙句顔まで埋めて、健やかにお昼寝中。

――わかってしまう。

がくぽがいなくて、寂しかったのだと。

部屋には、がくぽがいつも焚き染めている香の薫りが、仄かに漂っている。

寝間着には、もっと濃厚にがくぽのにおいが。

入りこんで、くるりとくるまっている時点で――しかもそれが、いつもいつもがくぽの不在のときとなれば、カイトの考えたことなど、あっさりと読み解けてしまう。

陽だまりのリビングも、笑いさざめく家族も、がくぽひとりの不在を埋めるのに足らない。

そうやって犯す、小さなちいさな悪事。

「やれやれ」

笑いほどけて、がくぽは着物に埋まって丸くなっているカイトへと手を伸ばした。

ぐっすりと眠りこむ体を持ち上げて、膝の上に抱えこむ。

ぎゅ、と抱きしめると、凭れかかるカイトの額にキスを落とした。

「ん……………んにゅ……………」

もごもごと何事かつぶやき、カイトは瞼を震わせながら開いた。

いつも霞んでいる瞳が、さらに茫洋と霞んでがくぽを見上げる。

起き切らない顔が、さらに甘く蕩けた。

「がくぽだぁ」

「ああ」

幼い声を上げて、カイトはもそもそと手を伸ばす。がくぽの着物を掴むと、全身で擦りついた。

「ふひゃ…………起きたら、本物のがくぽが抱っこしててくれたぁ…………しやわせぇ…………」

「やれやれ」

悪びれもしない。

それどころか、全力で喜んでいる。

正座してお説教、反省文からのもうしません誓約書コース。

――もうしません、なんて。

「よう眠れたか」

擦りつくカイトの顎を撫でてやりながら訊くと、無邪気な笑みが返って来た。

「ん!」

カイトは元気いっぱい頷いて、大きな着物にくるまったままの腕を、がくぽの首へと回す。

ぎゅ、と力いっぱいしがみつかれて、がくぽは笑いながら、寝乱れた頭に顔を埋めた。

カイトには、がくぽの使う香の薫りが移っている。

移っているが、馴れたはずの香は、カイトの体臭と合わさると、妙に甘さを増したように感じた。

じゃれつくカイトを膝の上に、がくぽはその甘さを存分に堪能した。