「ん……はふ、んちゅぅ………ぅんん、は………っ」
「ぅ………っ」
ヴァン・アレン・タインの狂奏-後編-
がくぽの部屋に入ると、カイトは恋人を即座に畳に転がした。
そして抵抗の隙も前置きもなにもなく、着物を肌蹴て素肌にクリームを落とした――どうやらクリームに塗れるのは、カイトではなくがくぽらしい。
とろりと肌を伝う感触に身を竦ませたがくぽに、カイトは伸し掛かると顔を寄せ、舌を伸ばした。
躊躇いもなく、垂れるチョコレートクリームを舐める。
おかしな色気を醸し出している現状だが、そうやって熱心に舐めているさまはねこのようで愛らしく、いつものカイトの面影があった。
「カイト………」
「ん、めっ。大人しくしてるの…。甘いものキライなんだから、がくぽは俺にこんなこと、できないでしょ?」
「いや………」
たぶんカイトの肌に垂らしたら、極甘に作られたクリームでも、おいしく食べる。
そういう現金な味覚だったが、カイトはにっこり笑って、起き上がろうとしたがくぽの体を押した。
横にならせて、さらに下へとクリームを垂らしていく。
「カイト」
「ん、んんふ………ぁむ、ん………ふっ、ぁまぁいぃ………おいひぃ………」
「…………っふ…っ」
カイトは躊躇いもなく、熱を持ち出したがくぽのものにもクリームを垂らし、ぱくりと咥える。
これまで、がくぽはカイトに咥えさせたことはない。だというのに舌使いは巧みで、たどたどしいところがなかった。
「カイト………どこで、こういうことを」
「んふ………っ」
妬心に駆られて軽く頭を掴むと、先端にくちびるを添わせたまま、カイトはおかしそうに笑った。
「がくぽのマネ」
「…………俺の?」
「んやっぱり、きもちいーんだぁ………」
「っふ………っ」
そう言われてカイトの舌遣いを追えば、確かに自分がよくやるものに似ているような。
がくぽはただ、元々の知識としてある「雄の弱点」と、触れてカイトが気持ちいいと悶えたところを責めているだけなのだが、――それなりに、癖というものもあるらしい。
「ん………んちゅ、ふ…………ん、ちゅ…………くふ、ぁ………」
カイトは垂れるクリームを舐め取るように、逆に襞の中に刷り込むように、熱に絡めながら舌を辿らせる。
その瞳は陶然と潤み、表情も甘く蕩けている。
堪えきれるものでもなく、がくぽはカイトの頭を軽く掴んだ。
「出る……っから」
「ふく………っ」
離れろ、というつもりだったのだが、カイトはかえって顔を沈めた。咽喉奥まで咥えこんでから、絞り上げるように抜き出す。
先端に舌を押しこまれて啜られ、がくぽは誘われるままに放ってしまった。
「…………っく、カイト………っ」
「ぁ、ん………ふっ………こんな、いっぱい、あっついの出して………クリーム好き、がくぽ……?」
こくんこくんと咽喉を上下させながら訊いたカイトに、がくぽはわずかに顔をしかめた。
「………好きなのは、お主だ、カイト」
顎を掬って顔を寄せると、クリームでべったりと汚れた口周りを舐めてきれいにしてやる。
甘い。
――が、いつものように、頭が痛くなるような心地にはならない。
それもこれも、カイトを経由しているから――
「嫌いなものでも、厭なものでも、お主を介するだけで、すべて美味に変わる」
「んん………っぁふっ」
舐め辿った舌をそのまま、クリームで甘く冒されたカイトの口の中に差し込む。貪るように互いに舌を吸いながら、がくぽはカイトのコートを脱がせ、シャツをまくり上げた。
「んっぁ、……っつめた……んんっ」
体勢が逆転して体にクリームを垂らされ、カイトは小さく悲鳴を上げる。
がくぽは屈みこむと、垂らしたクリームをカイトの体ごと舐めた。
「んん………っ、ぁ、………ぁんん………っんっ」
「美味いな………堪らん」
「んん………ふっ」
口の周りをクリームで汚したがくぽのつぶやきに、カイトは笑う。
自分で自分の胸を撫でると、クリームの中にちょこんと顔を見せる突起をつまんだ。
「ね、………吸って?」
「………」
「ぁんっ」
求められるままにくちびるを落としたがくぽに、カイトはかん高い声を上げて仰け反る。
がくぽはころんとした突起に舌を絡め、ちゅくりと吸った。突起の周りを揉むように舌で押し、再び戻って、ころりとしたものに軽く牙を立てる。
「ん、んんぅ……っ、ぁ、も…………みるくでなくて、さびしーの、がくぽ……?」
走ったわずかな痛みに、カイトはからかうように訊く。ミルクの出が悪いと、苛立ってそこに咬みつくのは、どのイキモノの赤ん坊でもやることだ。
がくぽはわずかに顔を上げ、クリームに汚れた口周りをべろりと舐めた。
「ミルクか?甘いのが出ていたぞ?」
「………それ、クリーム………ぁふっ」
惚けた答えに笑ったカイトは、すぐに眉をひそめた。びくりと竦んで、足を立てて体を丸めようと動く。
がくぽの指がたっぷりとクリームをまとって下半身を探り、ひくついて期待を示す場所を辿ったのだ。
「んんっ………ゃあぅ………っ」
「さすがに、なめらかに入るな……」
とろりとしたクリームの助けを借りて、がくぽの指はいつも以上にすんなりとカイトの中に入ってくる。
あまりに抵抗もなく受け入れたカイトのほうは、わずかに足をばたつかせてがくぽの体を蹴った。
「こら」
「ゃ……っ、ん、こんな………っぬるぬる、してたら………指しなくても、へーきぃ………なんだか、ら………っがくぽの、クリームまみれの………ぬるぬる、はやく、入れてよぉ……っ」
「………」
強請られて、がくぽはこくりと唾液を飲みこんだ。
カイトいわくのぬるぬるしたものが、危うく「濡れ濡れ」になるところだった。
言葉だけで達するのでは、あまりにあまりだ。
しかし、おかしな色気にずっと煽られて、しかもこうも積極的に迫られると――
「…………酔っ払いだとわかっていて、醒めるのを待たぬ俺は、非道か?」
「ひゃはっ!」
チョコレートクリームでほどいた場所に、同じくチョコレートクリーム塗れのものを押しつけて、がくぽは慨嘆する。
カイトは明るく笑うと、招くようにがくぽの腰に足を回し、きゅっと締めつけた。
「よっぱらってても、シラフでも、俺はがくぽが好きだもん………がくぽが好きだから、えっち、いっぱいしたいんだからね……………だからがくぽは、俺が酔っ払ってても、シラフでも、したいって言ったら、えっちしてくれなきゃ、だめ」
クリームの海に漬けこまれたように甘く、カイトは強請る。
がくぽは組み敷いたカイトを見つめ、ちょこりと首を傾げた。
「………えっち、が…好きか、カイト?」
問いに、カイトは笑う。いつものように恥じらいに染まって、もしくは戸惑って泣きべそを掻くのではなく、心からの幸福を浮かべて。
「だいすき」
無邪気に答えて、カイトはがくぽへと手を伸べた。肩に引っかかった指が、かりりと爪を立てる。
「がくぽとするえっち、だいすき………がくぽにえっちなことされるのも、がくぽにえっちなことするのも、どっちもだいすき」
「…………そうか」
「がくぽだから、えっち、だいすき」
「………」
がくぽのくちびるが、笑みを刷く。
――危うく、入り口に宛がったものが、中にも入らないうちにそこを濡らすところだった。
カイトはきっと酔いが醒めたら、「『えっち大好き』なんて言う、えっちな俺はいやだよぉ!」とかなんとか、泣きべそを掻くのだろう。
それでも、じゃあ本当はえっちが嫌いか?と訊いたら、「……………だいすき」と。
恥じらいに染まって、泣きべそを掻きながら好きだと言われるのもかわいくていいが、こうやって無邪気なほどに素直に、好きだと言われるのもかわいい。
「だから………ね、がくぽ?俺の好きなこと、いっぱいして………」
「ああ」
「ぁんんっ」
求められるまま、がくぽは限界まで張り詰めたものをカイトの中に押し込む。
びく、と爪先を丸めたカイトだが、がくぽの体を挟む足は弱くならず、逆に招くように動いた。
「ぁ………んんん…………っ」
「カイト………」
「ふ、ぁ…は、ふひゃ……っ………っぉなかの、なかで………がくぽが、俺のこと、すきって……いってる………がくぽも、俺とえっちするの、好きだって…………」
「…………ああ」
体を圧迫する質量に顔を歪めながらも、カイトは笑って自分の腹を撫でさする。その動きにこくりと唾液を飲みこんで、がくぽはカイトの足を抱え上げた。
「ぅあ……っ」
「すまん、カイト………あまり、持ちそうにない」
「ぁあうぅっ」
多少馴染んだところですぐに腰を動かされ、カイトは止めようとするかのように、擦り上げるがくぽを締めつけた。
しかしそうやって締め上げられれば締め上げられるほど、がくぽの腰の動きは激しくなる。
「ぁああっ、は、はゃ、ぁ……はげし、…がくぽぉ……っ」
「すまん………っ」
悲鳴にも似た甘い詰りに、がくぽは小さく呻く。
強張りながら暴れるカイトの足をきつく掴んで割り開き、一際強く締め上げられたところで、腹の中に精を吐き出した。
「ぁあんんっ………っ」
カイトのものからも精が飛び散り、腹の中はきゅうきゅうと締まって、がくぽが吐き出すものを最後まで吸い取ろうと蠢いた。
「ぁ………っ、は…………っ」
蕩けた瞳で、カイトは腹の中をひたひたと埋めていくものを受け入れ、味わう。
びくびくとひくつく足を下ろし、がくぽはカイトの胸に軽く頭を預けた。
「ん………っ」
感覚が尖っている体は、肌をくすぐる長い髪にさらにびくびくとひくつく。
カイトの手が伸びて、散るがくぽの髪をまとめるように、乱すように、梳いた。
感覚は心地よく、がくぽは瞳を細める。このまま埋まりたいような気になったが、そうもいかない。
カイトの肌を濡らすのは、垂らしたチョコレートクリームと飛び散った精液だ。このまま埋まると、多少の悲劇が予想される。
がくぽは舌を伸ばすと、クリームと精液をいっしょくたに舐めた。
「んぁ……っ」
「………うまい」
「は………っぁん……っ」
汚れた肌を舐めながら、がくぽはつぷんと尖ったものを咥える。ちゅく、と吸うと、頭を抱くカイトの手が爪を立てた。
「ぁあ……っも………っ」
「………」
がくぽを受け入れたままの場所が激しく収斂をくり返し、果てたばかりのものを再び蘇らせる。
そうとはいえ、立て続けにすれば負担が大きいのはカイトだ。
この肌に触れたい欲求と、自分の耐久度を秤にかけ、がくぽは腰を引いた。
「ん、め………」
「……だが、カイト……」
「め、ったら、……め………」
力を失くして落ちていた足が、再びがくぽに絡んで押し止める。
顔を上げ、宥めるように頬を撫でたがくぽへと、カイトは蕩けて微笑んだ。
「がくぽ、きょぉはもう、俺から出るの、禁止なの………ずっとずっと、ぎゅうってしてて、ずっとずっと、入れたまんまで、いっぱいえっちするの……」
「………なるほど」
何事か納得して頷くと、がくぽはカイトの腰を抱え直した。一度は抜きかけたものを、さらに奥へと押しこむ。
「ふぁ………っ」
仰け反ったカイトへと顔を寄せ、がくぽはクリーム塗れの口でキスを落とす。
応じようと舌を伸ばしたカイトへ、ちょこりと首を傾げた。
「…………癖になったら、どうする?」
「………?」
問われる意味がわからず、カイトもちょこりと首を傾げる。
そのカイトのくちびるに軽く触れてから、がくぽはわずかに腰を揺さぶった。
「酒を飲んだお主だ。こうまで思うとおりに強請られると、癖になりそうだ。………どうしたらいい?」
「…………」
真剣に相談されているらしい。
きょとんとしたカイトだったが、すぐに笑み崩れた。
伸し掛かるがくぽに足と手を絡め、ますます体を引き寄せる。
クリームに汚れるくちびるにちゅっとキスをすると、蠱惑的な流し目を寄越した。
「思うつぼ☆俺はがくぽと、いーっぱい、えっちしたいんだから。いーーーーーっっっぱい、えっちして、がくぽ?」