外は月夜で
カイトはがくぽが好きだ。『好き』という言葉ではとても足らないくらい、好きだ。
だからいつもは『大好き』とか、『とっても好き』というふうに伝える。
大大大好き、とっても大好き、すっごく好き……………
「しかしちがうのです」
「ふむ?」
自室のベッドだ。座るがくぽの足の間に嵌まるように座り、背後から抱えこまれたカイトは、学究の徒然とした、きまじめな様子で訴えた。
「今日の気分はその、どれでもないのです」
「ふむ…」
常には明るく弾む声も、迷い悩みに沈んで若干、暗い。
聞くがくぽといえば、ただ頷くだけだ。否、抱える腕に、多少の力は入った。
が、それだけだ。
どうだこうだと問い詰め、やたらに解決策を探してやろうとは、しない。
大人しく腕の中にいるカイトの話を、大人しく聞きながら、がくぽはわずかに背を撓めた。心持ち、しょぼんと落ちている気がするカイトの肩に額を預け、軽く擦りつける。
甘えるしぐさに、カイトの手が伸びた。くしゃくしゃと、犬でも撫でるように、懐くがくぽの頭を撫でる。
撫でながら軽く顔を向けたカイトは、がくぽの頭頂部へ首を傾げてみせた。
「いってみても、いい?」
「うむ……」
お伺いに、がくぽは惰性のような返事を寄越した。
しかしきちんと話を聞いている証には、肩に懐いていた頭の角度があえかに変わり、ちらりと花色の瞳が覗く。
懐いたままの姿勢であっても、揺らぐ湖面の瞳ときちんと見合い、がくぽはもう一度、頷いた。
「うむ。聞こう」
「うん」
促され、カイトもまた、頷いた。
決めた以上、躊躇うことはない。すぐさまくちびるは開き、がくぽと見合ったまま、カイトは今の自分の想いを伝えた。
「がくぽ、………いっち好き」
告げて、見合うこと、しばし――
だらりと、全身から力を抜いてがくぽに凭れきり、カイトは天を仰いだ。
さすがにそうなると肩に預けてはおれず、がくぽは頭を起こした。天を仰ぐカイトを、上から覗きこむ。
天から覗きこむ花色と逃げることなく見合って、カイトは笑った。
「がくぽが一番なら、二番とか三番とかはだれ?……って、なるでしょ。でもさ、二番も三番もいないんだよ。二番も三番もいないんだけど、今日はどうしてもがくぽに、いっち好きって、いいたかった」
「……」
笑うカイトへ笑い返すことはなく、がくぽはあえかに首を傾げた。ほんのわずか、瞳が泳ぎ、またカイトへ戻る。
「カイト、――俺もな、カイトが一番、好きだ」
きっぱりと告げて、がくぽはカイトの肯いも返しも待たず、続けた。
「俺が好きなのはな、一にカイト、二にカイト、三、四もカイトで、五もカイトだ」
「……」
きょとんと目を丸くして見つめるカイトへ、がくぽはくちびるを笑ませた。
「考え過ぎだ、カイト」
素っ気ないほどの声音で告げ、口を噤む。
しばしきょとんと見入っていたカイトだが、やがてその手が上がった。
満面の笑みとともに伸びた手は、お利口な犬を撫で褒めるときのようにくしゃくしゃと、覗きこむがくぽの頭を撫でた。