者の千進

――がくぽっおれ、えっち、きらいっですっっ!

「ぅ……っ」

「ふ、ゃっ?!」

迂闊にも蘇らせてしまった記憶に刺激され、がくぽのものはあからさまにどくりと脈打ち、漲った。

そのがくぽのものといえば、現在、カイトの腹の内に収められている。否、つい今しがた、収めきったところだった。

それで、さらなる快楽と一体感とを目指して動く前の、互いに互いを馴染ませるための、ほんの一瞬の休息――

あえて言うなら、『なにもしていない』時間だ。

確かにがくぽのものはカイトの内にあるし、それはもう、ひっきりなしに締め上げられ、搾るように吸いつかれもするが、そうそう積極的な動きとまではなっていない。

だというのに、がくぽのものは、まるで強い刺激を受けたかのように反応した。

このあえかな隙間時間に、身に余る快楽をなんとかいなそうと必死だったカイトだ。それが思いもよらない刺激を重ねられ、悲鳴に近い声を上げて、ぱっと瞳を見開く。

驚きとともに見つめるカイトから、がくぽはさりげなく、しかしきっぱりと視線を逃がした。

――まさか、思い出したカイトの様子があまりにも愛らしく、それに反応したなどとは、言い難い。

否、いや、確かにほんとうに、そうなっても仕方がないほどには、愛らしかったのだ。その後速攻でベッドに押し倒し、こういう状態に雪崩れこんだほどには、とにかくもう、先のカイトは愛らしかった。

つまり今年のカイトの、『エイプリルフール』だ。がくぽのために用意してくれた、とっておきの『ウソ』だ。

がくぽのためだけの、がくぽ以外には決してできない、トクベツの――

――がくぽっおれ、えっち、キライっですっっ!!

「くっ……っ」

「ぇえぅ……っ?!」

さらなる不覚でまたも思い出してしまい、挙句、蘇ったそれでまた、覿面に反応してしまった。

カイトはますます目を丸くし、いったいなにが起こっているのか、信じられないというように、腹のほうと、がくぽの顔と、忙しく見比べる。

否、だから、なにが起こっているのかと問われても、説明はし難い。とてもとても、説明しづらい…――

確かにほんとうに、そうなっても仕方がないほど愛らしくはあった。そこは決して否定しないし、させもしない。

が、それと、それを理由であると説明できるかどうかは、また別の話だ。

「がくぽ…っぁっ?!」

見つめるだけでは埒が明かないと、とうとう声を発したカイトだが、言葉は続かなかった。がくぽが卑怯を重ねることにためらわなかったからだ。

つまり、カイトが声を上げると同時か、少し先に、視線を逃がすだけでは不足だとがくぽも勘付き、腰を揺すり上げたのだ。

「ふぁ、あ……っ、め、だめ、がく……っまだおれ、ぁ、ひゃぁんっ!」

奥に突きこまれて、カイトは大きく痙攣しながら首を横に振る。腰を挟むカイトの足がきゅうっと締まり、さすがにがくぽも痛みを覚えた。

覚えた痛みは挟まれた腰と、回って腹と、繋がる――

「ふ、ぁあっ、あ、おっき……っ、ぁくぽ、またおっき、かた……っ」

「く……っぅ」

いっそ痛いほどにがくぽのものは脈打って、滾る。

ほんのひと突き、話題を逸らす程度の刺激を与えるつもりが、もはや我慢の利かないところにまで追いこまれた。

そうでなくとも先のカイトの、愛らしさ極まる思い出という、『貯金』が利いている。ほとんど猟奇を疑われる献身と忍耐を誇るがくぽとはいえ、今日の我慢の緒はひどく短い。

だからつまり、それほどに先のカイトは愛らしかったし、なによりもがくぽは嬉しかったのだ。

――がくぽっおれ、えっち、きらいっですっっ!!

エイプリルフールだ。単純にウソを告げることもあれば、言葉を裏返しの意味で伝えることもある。

必ずしも参戦しなければいけないわけでもないのだが、カイトは参戦した。そしてその、参戦の仕方だ。

まさか、これで勝負をかけてくるとは思わなかった。

これを勝負の盤上に乗せようと思うとは、思いつける日がくるとは、そうして折れることなく、ちゃんとやりきって、伝えてくれるだなどと――

「んんっ、がく、ぁ、だめっ、め……っあ、ごりごり、まだ、ま……っ」

「『だめ』は『イイ』で、『まだ』は『早く』――か?」

「ひっ、ゃ、なに、がく……っ!」

都合のいいところだけを都合よく聞き替え、がくぽは堪えきれずに含み笑う。笑いの振動と、実際に与える律動と相俟って、カイトは背を大きく仰け反らせた。

絶景だなと、がくぽは思う。ただひとりにだけ赦される景色で、だれとも共有することがない――

今の世で『絶景』と言えば、それは共有するものだ。ひとりきりの目に残すものではなく、家族親戚、友人知人内に留めることすらもなく、広く国内へ、世界へ――

けれど今、がくぽが目にするそれは、だれかと共有し、承認と称賛を集めるものではない。

がくぽだからそう思うというものだし、がくぽひとりが見ることを赦された、今の世にあってはいっそ、もっとも贅沢な。

「んんっ、や、ぁく……ぅっ」

うわごとのようにこぼすカイトに伸し掛かり、がくぽは笑うくちびるをその首筋に辿らせた。追加される刺激にさらにびくびくと痙攣しながらも、カイトの腕は待っていたとばかり、がくぽの背に回る。

大人しくしがみつかれながら、がくぽは首筋から辿ったカイトの耳朶を、かぷりと口に含んだ。赤く染まり上がってもやわらかに甘いそこを、乳を強請る子のようにちゅくちゅくと啜る。

では弱くないところを上げてみよと、逆に訊き返したくなるほどには、弱いところばかりのカイトだ。もちろん耳朶も弱いし、そうやって甘えるようにしゃぶられるのは、もっと弱い。

背に回った腕のみならず、腹の内のがくぽのこともきゅぅうっときつく締め上げ、その感触にも追いこまれて、カイトはぼろりと涙をこぼした。引きつるような声を上げながら、懸命に首を横に振る。

「ぁくぽ、おっき……っ、ぉなか、なか……おっき、の、かたぃ……っ」

「ああ、すまん、カイト」

舌触りも歯触りも最上の心地であるカイトの耳朶を口に含んだまま、がくぽはしらりとして謝った。

「そうか、まだ『ちいさい』か。硬さもこれでは、まるで不足だと?」

「ひゃ、ぅっ?!ぁく、ぁ、がくっ、ぽっ?!」

都合よく聞き替え、言い替えて、がくぽはしがみつくカイトをものともせず、腰を突きこむ。

もはやほとんど思考できる状態ではないが、しかし、いかになんでもがくぽの言い方が不穏だとは、カイトにも薄々わかるのだろう。

必死な様子で名を呼び、しがみつく指が立って、背に爪を刻む。

がくぽもさすがに少々、痛みを覚えた。痛みは背筋を辿り、腰から腹へ流れ、さらにカイトと繋がる――

「男の矜持だ。このまま済ませては名折れというもの――そうだろう、カイト今、大きくして、もっともーーーっと、硬くしてやるからな………なに、俺の本気を見くびってもらっては、困る」

「やぁっ、がく……っ―――っっ!」

どこか迷いを残し、ゆるゆるとした動きだったがくぽが、あからさまにきつく、突き上げた。それも一度で治まることはなく、全身でしがみつかれて不自由しながらも、立て続けてくり返し、カイトの腹をかき回す。

カイトの上げる嬌声はもはやほとんど、悲鳴に近い。悲鳴のようだが、腕も足もきつくしがみつき、絡みついて、がくぽを決して逃がすまいとしている。

――がくぽっおれ、えっち、きらいっ!

「ふ、く………っ!」

襲ってきた強い衝動を堪え、がくぽはきつくくちびるを噛んだ。

無理をかけないように気遣いつつも、カイトの腕から逃れ、身を起こす。腰にきつく絡まる足も掴んで、軽く、割り開いた。

そうやって距離を取り、感覚を最低限引き離すことで、狂うほどに猛りかけた己を鎮める間を持つ。

しかしこうするとカイトの全景が確かめられるうえ、今、もっとも卑猥さを極めている場所が、まるで隠せることもなくがくぽの目に入った。

小さな蕾が真っ赤に熟れて、とても呑みこめないのではと危惧するがくぽのものを健気に咥え、ひくついている。

その先を辿れば、カイトも歴とした『おとな』なのだとわかる形をした男の象徴が、それこそ男らしく漲って、雫をこぼしながらぷるぷると震えている。

あとで口に貰おうと次の狙いを定め、がくぽはてろりとくちびるを舐めた。途端、カイトの太腿があからさまに引きつり、なにより、がくぽのものを呑みこんだ場所がきつく締まる。

「カイト?」

どうしたのかと咄嗟に確かめたがくぽに、カイトの足はますます強張り、腹もきゅうきゅうと波打った。

「………カイト」

「ぁ、ぁく……っ、がく、ぽ……っ」

別の意味で呻いたがくぽに、カイトは引き離された腕を伸ばし、強請る。

大人しく倒れてやったがくぽに、カイトはすぐさままた、しがみついた。のみならず、今度はがくぽの首筋に顔を埋め、ねこのようにすりりとすりつく。

「すき………っ、ぁくぽ、だいすき……………っ」

「………っ」

うわごとのようにこぼしながら、カイトは全身でがくぽにしがみつき、すりつく。

後ろ暗いところを大量に抱えたがくぽといえば、しばし、固まり――

「ああ、カイト――俺もだ。愛している」

万感の思いをこめて真摯にささやき返し、組み敷くカイトをがくぽからもきつく、抱きしめた。

そうやってしばし『抱き合う』だけの小休止の間を挟み、がくぽは身を起こした。今度は、カイトを抱いたままだ。

「ゃ、ふかぁ………っ!」

なんとかぎりぎり、快楽処理が追いついたところだったカイトだ。が、あえなくというもので、座位へと変わって新たな刺激が加わり、あっという間にまた、水際の快楽にぷるぷると痙攣し始めた。

一度は緩みかけた腕にも力が戻って、抱えるがくぽをさらに抱えこむように、縋りつく。

大人しく縋りつかれてやりながらも、まったく大人しくなりきることはなく、がくぽはそのまま、カイトを突き上げた。

「ひっ、ゃあ、あ、ふかぁっ……おく、おく、ぃや、あ、がく………っっ」

「は……っ」

刺激の強さに身悶え、カイトは嘆願を吐きだす。

聞いてやれない自らの未熟さを嗤いつつ、がくぽはますます強く、きつく、カイトを突き上げ、腹の内をかき乱した。

――えっち、『きらい』っ!

「ん、ぅー………っ」

「ぁ、あ、ふぁあ……っぁあっ!」

記憶のカイトと、今のカイトと――

重なって倍々どころでなく跳ね上がった愛らしさに、がくぽは今度こそ堪えも利かず、自らの精をカイトの腹へ、さんざんに吐きだした。

一拍遅れて、カイトもまた極みにのし上げられて引きつり、仰け反って痙攣する。

その痙攣がある程度のところまで治まるのを待ち、がくぽはくったりと肩に凭れたカイトの耳朶へ、くちびるを寄せた。

「――なあ、カイト………思うにこれは、『まんじゅうこわい』だなああ、いや、案ずるな、たとえ『わかって』いたとしても、な。腹いっぱい、喰わせてやるゆえ、な?」