「ぁ、ん………っ、がくぽ………っ」
「『悪戯』であろう?」
「ぁ………」
抱き寄せられたカイトだが、旦那様はいつものように伸し掛かっては来なかった。服を脱がすことすらしない。
Pumpkin Peter-02-
なにをしているかと言って、膝に乗せたカイトを服地の上から撫で回すだけだ。
それも明確に淫靡な目的を含んで撫で回しているというのでもなく、単純に興奮する体を宥められているだけのような気もする。
それでいながら、時として尖る胸や熱を篭もらせる股間を意味深につまみ、もしくは擦っていく。
宥められたかと思えば、煽られる。
もどかしい。
愛撫ではない。確かに言う通り、『悪戯』だ。それも性質の悪い。
「ん………っ、ふ………っ」
「『悪戯』されて、そのような声を上げてはいかんな、カイト………」
「が……くぽ………っ」
しているのが旦那様なのだから、甘い声も上げる。
だというのに意地悪く囁くがくぽに、カイトは詰るように瞳を尖らせた。しかし一瞬のことで、すぐさま瞳は甘く蕩け、熱を含んでがくぽを見つめる。
「ん………」
「………」
カイトは『悪戯』するばかりのがくぽの手を掴むと、自らコートを開き、引きずり出した裾からシャツの中へと辿らせた。
笑いを含んで見つめ、大人しくされるがままの旦那様の手を、度重なる愛撫によって快楽器に変えられた胸の尖りに導く。
「だんな、さま………ね?ぁ、つまんで………転がして………」
「淫らがましい妻だな、カイト?」
「ひぁあっ」
甘えて強請りつつ、尖りを彷徨わせたカイトの耳朶を食み、がくぽは意地悪く吹き込む。そうしながら、指の先にあるものをつまみ、望まれるがまま、こねくり回した。
ようやく得た直接の愛撫に、酒が入って感度を増しているカイトの腰は大きく跳ねる。がくぽはさりげなく片手を回して跳ねる腰を抑え込み、赤く染まる耳朶を含んで舌で転がしつつ、カイトの胸を弄んだ。
「ぁ、あ、ぁ………っぁ、だんな、さま………っぁ………っ」
身悶えることを制限され、カイトの体には逃がしきれない熱が篭もっていく。苦しさと、それでも止められない快楽の狭間に置かれ、磨かれたカイトの声は甘く高く、音を奏でた。
「ふ………」
悲痛にも、幸福にも聴こえる音に耳を澄まし、がくぽのくちびるは堪え切れない笑みをこぼす。
「まことそなたの声は、耳に甘い」
「っぁああっ」
爛れる毒を流し込むにも似た囁きとともに、がくぽはつまんでいたカイトの胸の尖りを、多少痛いほどにきつく引っ張った。
腕の中で一際大きく跳ねた体は、そのまま激しい痙攣を起こし、ややしてがくぽに全身を預ける。
「………そなたの酒癖の悪いことと言ったら、百万語を費やそうとも足らぬ。まさか胸を嬲られただけで、極めようとは………俺の妻は、そうまで淫猥な性質ではあるまい?」
「ぁ………」
一時的に力を失ったカイトにやわらかにくちびるを降らせながら、がくぽは詰る言葉を吹き込む。
ひとつ震えて視線を向けたカイトは、やさしい笑みを刷いて己を虐める旦那様の首に手を掛けた。抵抗することのない顔を招き、くちびるを重ねる。
「だんなさま………」
舌を吸って離れると、カイトは未だスラックスを穿いたままの足をもぞつかせた。濡れて気持ち悪い。
しかし気持ち悪い以上に、求めるものがある。
「ください、旦那様………俺、旦那様の、おしゃぶりしますから………」
「………」
首から落ちた手は互いの体の隙間に入り、カイトは十分に兆しているがくぽのものを着物の上から撫でる。
日常のことはなにも出来なくても、これに関しては旦那様が念入りに教えた。
カイトからしたいときの、おねだり方法も含めて。
堪え切れずにくちびるから覗く舌は、いつも以上に赤く膨らんでいるように見える。これに包まれ舐めしゃぶられれば、さぞかし気持ちが良いだろうと思うような。
強請りながら、カイトは体を崩してがくぽの膝から降りようとする。
しかし腰を抱いたがくぽの手は強く離れず、カイトはもどかしい表情を向けた。
「だんなさまぁ………」
「そなたが『悪戯』してどうする、カイト?今日、悪戯するのは、俺であろう?」
「ぁ………っ」
ようやく腰から手が離れたかと思いきや、がくぽはカイトを絨毯の上に転がした。瞬間的に竦んだ足を割り開くと、素早くスラックスを開き、下着ごと足から抜き去る。
「びしょ濡れだ。仕様のない」
「ぁ……っ」
愉しそうに嘯いたがくぽは、躊躇いもなく濡れそぼるカイトの下半身に顔を埋める。跳ねた腰を両手で押さえると、獣が水でも飲むような音を立ててそこに舌を這わせた。
「ぁ、ん……っ、ぁ、あ……っゃ、がく、………がくぽ………っぃや、や………っ」
「厭ではなかろう?一度達したであろうに、すでに勃ち上がっておる」
「ゃ、です……っ」
舐めしゃぶられて、いつもなら大人しくされるがままのカイトだが、今日は身悶えて暴れた。
力の差があるからがくぽは易々と押さえこんでしまうが、カイトは懸命に首を振り、長い髪を掴んで引っ張った。
「これ」
「舐める、だけじゃ、いや……です………。も、ください………旦那様………入れて………かきまぜて……」
「………」
涙目で強請られて、がくぽは濡れるくちびるを舐め啜った。カイトが触れられもせずに吐き出した、体液の味がする。
カイトの唾液はまだ甘いと思うが、ここはさすがに甘くはない。独特のえぐみが、ロイドであってもきちんと再現されている。
旨いと、単純には言えない味だが――
「しかし、困ったな、カイト」
「え?」
見せつけるようにくちびるを舐め、がくぽは似非くさい笑みとともに嘯いた。
「『菓子』を貰ってしまった。これ以上、そなたに『悪戯』すること、叶うまい?」
「………っ」
隠語や婉曲表現、隠喩といったものを理解しないのが、カイトだ。物堅い旧型機であるという以上に、うたうたうことに特化し過ぎた『カイト』であるがゆえに。
いつもなら、茫洋と霞んだ表情で首を傾げ、上げた覚えはありませんがとでも返していただろう。
だが今は、酒が入っている。
他のKAITOシリーズが酒で豹変するように、カイトも酒が入ることで思考に鋭敏さを増す。
がくぽが差した『菓子』の意味を即座に飲みこみ、愕然と瞳を見開いた。
まさか、この期に及んでそう来られるとは思わなかった。
酒酔いの奥さんに呆れたがくぽがまったく兆していないならともかく、その雄はあからさまに反応している。酒でいつも以上にやわらかく熱く蕩けた奥さんの腹の中にねじ込みたいと、強く主張しているのだ。
だというのに、――
「がくぽ………っ」
詰る響きを帯びて睨んだカイトに、がくぽは似非くさい笑みのまま顔を沈める。再び兆すカイトの雄に舌を絡めて粘っこく舐め、滲む先走りを啜りながらさらに嘯いた。
「これほど旨い『菓子』を貰いながら、なにも貰っておらぬと主張するほど、そなたの夫は厚顔ではないぞ?」
「っぁうっ」
カイトも旦那様の弱点を熟知したが、がくぽはより以上に奥さんが弱い方法に長けている。
這う舌の加減といい、道筋といい、カイトは言葉も思考も継げずに快楽に落とし込まれ、足先を痙攣させた。
それでももどかしさは募る。
『妻』ではあってもカイトも男だから、勃ち上がって天を撞くその場所への愛撫には弱い。
弱いが、同時に男であっても『妻』だ。『妻』として旦那様に仕込まれた体は、雄への愛撫よりもそのさらに奥に潜む場所への愛撫と刺激を求めて、激しく疼く。
たとえ何度極めて体液を吐き出そうと、吐き出すものがなくなろうと、そこを旦那様のもので貫かれない限り、疼きが治まることはない。
「ん………っ」
「ふ……っ」
涙目で身悶えるカイトに、がくぽは愉しそうに笑っている。
カイトは一度、くちびるを噛んだ。
旦那様は、兆している。兆しているどころではなく、未だに着物の中に収めていることが不可解なほどに、雄を膨張させている。
カイトだけががくぽを欲しているのではなく、がくぽもまた、カイトを欲しているのだ。
こんな意地悪は、がくぽにも酷だということだ。なにか、打開策があればこその――
「………旦那様」
「ああ」
カイトは足の間の体をきつく挟んで、自分へと招く。大人しく招かれたがくぽの首に手を掛けると、腰を浮かせて擦りつかせた。
「………『おかし』、……ください」
「………」
熱に縺れる舌で懸命に吐き出すと、がくぽは切れ長の瞳を軽く見張った。
カイトはさらにがくぽを抱き寄せ、腰を揺らめかせる。
「………俺の……下の、口に………旦那様のおいしい『おかし』………食べさせて、ください………」
「………」
懸命に強請るカイトに見入っていたがくぽだが、ややして笑み崩れた。くちびるが落ちてきて、こめかみに当たる。
「愛おしい妻のおねだりなら、いくらでも呉れてやる。腹が膨れて、もう要らぬと言うまで食わせてやろう」
「ん、ぁ………っ」
言葉とともに、待ち望んだ場所を指が探る。すでに蕩けている窄まりに押し込んだそれは、すぐに抜けた。
「がくぽ………」
「すでに十分に、大きく口を開いておる。これ以上、ほぐす必要もない。待たせたようだな?」
「………」
恍けた言いようの旦那様を、カイトは軽く睨んだ。言葉で詰る代わりに、体を挟みこむ足と首にかけた腕に仄かに力を込めた。
「………怒るな。これ以上、待たせはせぬ」
「当たり前です………待たせるなら、『悪戯』しますから………っぁ、あ………っ」
言いかける途中で、カイトの中にがくぽが押し込んで来た。指とは比べものにならない荒々しいまでの質量と熱と、締め上げる襞を力強く押し開く硬さ。
旦那様そのものである頼もしいものの感触に、カイトは背を仰け反らせ、痙攣した。
焦らされた。
そのせいもあって、押し込まれただけで達したカイトに、焦らしたほうは薄く笑う。
「……まだ入れただけだというのに………そなたの酒癖には、まこと困らされる」
「………がくぽ……」
がくぽの体に絡みつくカイトの足と腕に、縋る力が込められる。
言葉は意地が悪いものの、やさしく微笑んだがくぽはそんなカイトの目尻にくちびるを落とした。
「俺が懸命に堪えているというのに、癖になるだろうが。俺はそなたを酒浸りにしたくない」
「っ、ぁ、ふぁ……っ」
囁きへの答えは待たず、がくぽは腰を打ち付けだした。達したことで収斂する襞を押し開き、引っかけ、奥を突き上げて、カイトを惑乱する。
「が、くぽ………がくぽ………ふぁあ、おいし……おいし、です………おれの、だんなさま………っ」
「………っくっ」
悲鳴と紙一重の甘く高い声で囀られ、がくぽは顔を歪めた。
カイトの声は、あまりに耳に甘い。
それがこうして快楽に染められ、我を忘れて囀るときの甘さたるや、喩えようもない。
「………出すぞ、カイト……っ」
「ぁ、あ、くださ………だんなさま………だんなさまの……おなか、に………っ」
「………っ」
一際きつく締め上げられ、搾り取るように襞が蠢く。
がくぽはカイトの腹に募り募った欲望の丈を吐き出し、それでもなおのこと求めて、濡れるカイトの腹の中を掻き回した。