身を乗り出した奥さんはがくぽの膝に手を置くと、上目遣いで見つめてきた。
「『悪戯』してください、旦那様……」
「っな?!」
がくぽは瞳を丸くし、リビングを見回した。カレンダーに目が止まって、突拍子もない奥さんの言葉の意味に思い至る。
Pumpkin Peter
渋面となると、がくぽはカイトへ向き直った。
「カイト、そなたな……なにか誤解しておるだろう?本来は、『菓子か悪戯か』と訊かれて、菓子を渡して済ますものだ。いきなり『悪戯してくれ』では、趣旨も順番も違う」
きつめの語調で説いた旦那様に、奥さんは首を傾げる。
「でも、お菓子を持っていないんです。でしたらどちらにしろ、悪戯されるしかないでしょう?」
「いや、まあ、そうだが…」
――どちらかというと短絡的な奥さんらしい、思考の飛躍だ。
とはいえ、いきなり『悪戯してくれ』に飛ぶのでは、精神的に悪い。
がくぽの思考傾向において、『奥さん』から要求される『悪戯』というものは、確実に種類が限定されてしまう。
しかしカレンダー的に考えればそういう日ではなく、だからといってすぐには、無邪気な悪戯も思い浮かばない――
懊悩する旦那様に、カイトは瞳を熱っぽく潤ませ、ますます身を乗り出した。
「旦那様がなさる『悪戯』なら、どんなことでも耐えますから……」
「かい、」
「『悪戯』してください、旦那様ぁ…」
強請られながら、くちびるにくちびるが触れる。
「っ」
「ぁ…」
潜りこんで来た舌の味に、がくぽは慌ててカイトの肩を掴み、体を引き離した。
半ば項垂れつつ、甘く蕩けた表情の奥さんを見つめる。
「カイト、そなた、――酒を飲んだな?!」
「はい」
叫ばれて、カイトは悪びれることもなく頷いた。挙句、懲りずめげずで、旦那様へと擦り寄る。
「ね、旦那様……『悪戯』してください…………」
「っぇえい、仕様のないっ!!」
間違いなく、自分が真っ先に思い浮かべた『悪戯』で良かった。
安堵するような、項垂れるような、――
複雑な心持ちで、がくぽは奥さんへと伸し掛かった。