Cold & Frosty Berry
「旦那様、暑いです」
「………そうか」
愛する奥さんからの御言葉に、旦那様はようやく一言、吐き出した。
リビングの中は、クーラーが効いている。たとえ暑さに弱いロイドとはいえ、へばるほどではない。
いくら愛しても、いくら付き合っても、理解するに難しいのが、がくぽの妻、カイトだ。
未だに頻繁に、頭を抱える。
「では………ん」
「ん、………は、だんなさま………っ」
「………」
――なにかもっともらしい解決策でも提示したように偽って、奥さんを誤魔化そう。
悩んだ末の結論を吐く暇はなく、がくぽのくちびるはカイトによって熱烈に塞がれる。
羽ばたくように何度も何度も口づけ、それだけでは足らないと、もどかしく舌が伸ばされてくちびるを舐め、――
リビングに胡坐を掻いて座るがくぽの膝に、カイトは半ば乗り上がっている。背中に腕を回して、一ミリの隙間すらも赦せないとばかりにしがみついて。
その状態でキスを続けること、すでに数分。
「………あつい、です、旦那様………ぁ」
「……………」
キスの合間に詰られて、がくぽは軽く、頭痛を覚える。
興奮するのだから、暑くもなるだろう。いくらクーラーを利かせたとしても、それは致し方ない。
暑いのがいやならば、キスを止めればいい。
もちろん、暑いから止めますと言われたら、がくぽは盛大に抗議する。
抗議はするが、奥さんの言うがまま、小休憩を入れることになるだろう。
なにをどう言おうとも、奥さんの尻に完全に敷かれている旦那様だ。勝ち目などない。
「ん………ね、旦那様………あつい………です」
「カイト………」
抱擁はかえってきつくなり、キスの熱も高じていく。
冷める間など、一寸もない。
なんのための詰りだと、奥さんに頭突きをかましたい気分にまで追い込まれたところで、がくぽはようやく気がついた。
カイトはがくぽの膝に乗り、殊更に身を寄せて甘えている。
キスを止める気配もなく、どころかいや増しに増していく快楽と興奮。
つまりカイトが、『あついあつい』と言っているのは、
「………脱がせろということか………!」
「…………」
思わずつぶやいたがくぽを、カイトはけぶりながらも冷たさを宿した瞳で見つめた。
然もありなん、それも仕方がない――
考え過ぎたのだ。
理解不能なことが多いカイトの表現だから、まさか通俗的なことを言いはしないだろうという、思いこみがあった。
通俗的で良かった。素直に、曲解して。
気まずさから微妙に顔を逸らしたがくぽの襟もとに、カイトは拗ねたように咬みつき、擦りつく。
「………旦那様。あつい、です」
「………ふ」
名誉挽回させてやろうと、もう一度念押しにつぶやいてくれるカイトに、がくぽの顔にも笑みが戻る。
首元に懐くカイトの顎を掬って顔を上げさせると、キスの余韻で赤く染まるくちびるへ、くちびるを寄せた。
「そなたはまこと情のある、好き妻だ、カイト」
触れる寸前につぶやくと、答えを言わせることなくくちびるを塞ぎ、今度こそ望まれるがまま、その服に手を掛けた。