B.Y.L.M.

ACT5-scene5

カイトは興奮に肌という肌を染め上げ、突き上げる感情に体を震わせ、もはや背後からすら、立ち昇るなにかが見えるような様相だった。

それこそ、実際に見える翼を――闇すら明るく見えるほどに昏い、射干黒の翼を負う異形であっても小物と笑い飛ばせるほどの、圧倒的ななにかだ。

斜めに曲がった気分まま、椅子にも斜め掛けとなっていたがくぽが、一瞬で姿勢を正した。こころなし、だれた感のあった翼すら、しゃっきりと正される。羽根の一枚いちまいから、流れを直したがごときだ。

そのうえでがくぽは、右の拳をさっと胸の前に掲げ、略式の騎士の礼まで取った。主命を拝するときのそれだ。

まったく反射の行動だが、そうさせるだけの威勢がカイトにはあった。それはたとえ、がくぽほどに騎士としての忠誠を仕込まれていなかったとしてもだ。

思わず姿勢を正さずにはおれない、拝命せずにはおれないものが、今のカイトからは醸されていた。

ただし言うなら、カイトにはその自覚がなかった。自分が怒りに駆られている自覚こそあったが、そこまでの威勢を発しているとは思っていない。

ただ、歯がみするような思いで、異形の夫を――常になにかしら、怯えたように接してきた夫を、悔やんだ。

いったいカイトのなにを恐れるのかと、それが腹の奥底に、常にくすぶっていた。

人智を超えたという意味で『魔』の冠を与えられた南王と対峙し、一度はその首を掻き飛ばしまでしたほどの英雄が、がくぽだ。

優れた剣技と体技と知略と、なによりも怯みを踏み越える勇あればこそ、ひと皆諦めた南王と対する覚悟を固め、そして実際、挫けず戦いきったのだろう。

だというのにがくぽは、まるで力弱いカイトを相手にひどく怯えた様子で接する。常になにかを窺うように、――偏向と傾倒著しい忠誠を捧げる騎士とはいえ、その範疇からも逸脱して、がくぽはカイトに怯えている。

カイトからがくぽへ触れたとき、びくりと竦み、震えられた記憶は生々しい。

だが、いったいなにを――カイトのなにに、そうまで怯えるのかと。

カイトにはずっと、それがわからなかった。

そして今、明らかにされたのは、確かに思い違いではなく、がくぽはカイトに怯えていたということだ。

いったいカイトのなににといって、カイト『に』怯えられることに、だ。

カイト『に』、怯えられ、おそれられ、愛想を尽かされることに――

言われてみれば、――言われなくともそうだが、カイトの夫は異形だ。カイトだとて、そんなことは忘れたことがない。なにしろ目をやれば、異形の異形たる由縁が、常にはっきりと映る。

頭の両脇には捻じれ曲がった巻き角を持ち、背には巨大な翼を負う。その翼は黒色だが、比べるなら、闇ですらも明るく見えるほどに昏い、射干黒だ。獲物を狩る際には鉤爪も出すようだし、牙も――

ひとならぬものと縁遠い、ひとの地たる西方、哥の国で生まれ育ったカイトだ。

これを異形と呼ばなければ、異形などというものはお伽噺にも存在しないと言えるほどに、間違いなく、がくぽは異形だ。

そもそも夜と昼とで成長が合わないということがもう、常たるひとであり得ない。無情な夜の少年は、きっぱりと『体質』のひと言で片づけたが、そんなひと言で、簡単に終わるような状態ではない。

それこそまさに、たとえ異形ならず、ただびとの形をしていたところで夫が常人たり得ぬ、なによりの証左というものだ。

だから今さら改めて言われるまでもなく、夫が異形だということなら、それこそ、二月前には判明している。わかりきったことで、それで――

昼の青年を初めて目にしたとき、カイトが驚いたのは確かだ。角と翼持つひとを見たことなどないのだから、当たりまえだ。なにより、少年から青年に変容までした。

そもそもカイトは呪術や、ひとならぬものが身近でない場所で生まれ育ったのだ。そんなものはお伽噺か、教義に於ける便宜上の存在でしかないと思っていた。さもなければ、詐欺だ。

とにかく現実に存在し得るとまるで思っていなかったのだから、これで驚かないなら、カイトは豪胆を通り越し、いっそ死んでいる。

あの頃は確かに、まともとは言い難い精神状態ではあったが、極限とまでではなかった。カイトは息を吹き返したところだったし――

だから、それで、そうだ。

それで、怯え、おそれると。

驚くばかりでなく、おそれ、厭うと。

角と翼持つ異形がおそろしいと、あまりに醜い見た形に、おそれをなして――あまりにも、過ぎ越して、醜悪な――醜く、醜悪な、悪鬼――

「愚弄するな、神威がくぽ」

一度、怒声を発したことで小康状態となり、カイトは今度は低く、抑えた声でがくぽを呼んだ。

呼ぶのは家格を含む、名のすべてだ。年長者から年少者へ、あるいは上役から配下へ、道理を言い聞かせ、説き伏せるときの。

憤りは完全には過ぎ去っていないのだと、これからが本番だと知らしめるそれだ。

「ぅっ…っ!」

右拳を胸に当てたままのがくぽは震え上がり、仰け反るほどに背を伸ばした。否、おそらく仰け反ることで多少でも、距離を稼いで逃げたいという、そういう精神の顕れだ。

実際カイトは、小康状態でしかなかった。怒りは消えず、未だこころの内にくすぶっている。きっとほんのわずかにも刺激されれば、再度の噴火に至るだろう。

とはいえカイトもまた、怒りに任せるだけだったわけではない。昂ぶる自らへ懸命に、自制を言い聞かせていた。

握り締めたままの拳に、さらに力を入れてこみ上げるものを堪えつつ、深い息を継ぎ、どうしても昂ぶる気持ちを逃がす。

しかし逃がしても、にがしても――

思い返すだに、腹が立つ。

腹が立って、仕様がない。

言うに事欠いて、なんということを言うのか、この夫は。

この男は、ほんとうにまったく、致し方ないにもほどがある。度し難いとは、カイトの夫のためにある言葉だ。

迸りたがる激情を何度か呑みこみ、カイトはがくぽを睨み据え、ゆっくりと口を開いた。

「愚弄するな、神威がくぽ。私の夫は、うつくしい」

「……………………………………………………………は?」

――今日はまた、よくよくこの、間が抜けたにも程がある返答を聞く日だった。先にはカイトがやったし、その前にはがくぽがやった。

さらに考えるに、カイトは一度しかやっていないが、がくぽは二度目だ。どれだけ間抜けかという話だ。どれだけ頭の働きが鈍いのかという。

機微に敏く、要ること要らぬこと、やたらに気を利かせるのが得意なのが、昼の夫だ。今日はいったいどうしてこうまで鈍いものか。もしかして具合が悪かったりするのだろうか。

思いながら、カイトはきゅっと、拳を握った。

恥ずかしい。いたたまれない――

ほとんどあり得ないが、具合の悪い可能性が出てきた夫も案じられるが、しかしいいか。

八つ当たりしたい。

なぜ今日に限ってだ。

なぜ、今、この場に限って、だ。

「ええと、あの、カイトさま…」

ひどく気の抜けた声を出したがくぽに、カイトは精いっぱいの威厳を保ち、言い放った。

「控えろ、神威がくぽ。反論も反駁も受けつけぬ。私の夫はうつくしい。以上」

「えぇえ………っ?!」

まさしく、軍にあって指令を下す指揮官のごとき調子で、カイトは言いきった。

そしてこういう言い方をした以上、下士官から上官への反駁は、いのちを懸けてやれということだ。カイトとがくぽとは上官と下士官ではなく、夫婦だが。カイトが妻であり、がくぽが夫であるはずだが。

さすがに意想外が過ぎたらしく、胸に当てられていたがくぽの拳も緩んだ。切れ長の瞳がまん丸く、それこそ誰が見ても情けない様子となって、鬼上官と化した妻を窺う。

カイトは澄ました顔で佇んでいた。つまり、命令は下しきったと、これ以上の反駁は決して容れないというときの、指揮官の表情だ。応の返事を待つだけの、横柄な態度でもある。

――態度ともあれ、カイトの肌という肌は隠しようもなく、赤く染まり上がっていたわけだが。

それは先の、過ぎる憤りに因るものではなく、羞恥のためだ。よく見れば、恥ずかしさのあまりに瞳も潤んでいるし、睫毛も堪えきれず、ぷるぷると震えている。

可能であればカイトは、今すぐにでもこの場から逃げだしたかった。大声で喚き散らしながら駆けて行って、どこかに穴を掘って埋まりたかった。穴がだめなら布団でもいい。とにかく埋まりたい。

態度こそ指揮官であり、口調もそうだが、内容だ。もちろん戦線にあっての、兵卒への戦闘命令ではない。

いるのがそもそも、前線であるどころか後営ですらなく、近場でイクサが行われているわけでもない、平和な敷地の、平和な屋敷内だ。そして対する相手は兵卒ではなく、騎士でもなく、夫だ。

それで、なにを言わされているのかという話だ。

なにをわかりきったことを、正面きって言わせるのかこの夫はという、もはや恨みがましいまでになってきた。

醜いと言う。

醜悪な、悪鬼の様相だと。

少なくとも『悪鬼』という部分に関しては、カイトも否定しない。肯定もしないが、否定の根拠もないというところだ。

確かに西方――哥のみならず、西方全体における最大宗派のということだが――にあって、教義上、黒い翼は闇の眷属のものだ。角や爪といったものもそうだし、話に聞くそれと、がくぽの――昼の夫の特徴とは、見事なまでに一致する。

だから、悪鬼とだけ言うなら、まあそうだろうと思う。どうにも劣等感が強いらしいので、積極的に肯定してやろうとは思わないが、否定すれば嘘になって、おそらく傷を深める。

わかるから否定もしないが、同意を求められれば、西方の教義上、否定の根拠はないという言い方をする。

だが、くり返そう――醜いと言う。醜悪だと。こんな相手、百年の恋も醒めると。

よくぞ言ったものだと、腸が煮えくり返るとはこのことかと、カイトはその憤りをよすがに、澄ました上官顔をなんとか、取り繕っていた。

異形で良かったと、カイトは思ったのだ。

異形であればこそ、この美貌でも受け入れられると。

むしろこの美貌が単なるひととしてあったなら、なにがどうなるか、それこそ先のがくぽの言いようだ。自分で自分がおそろしくて、ちょっと考えたくない。

夜の少年だとて、相当にまずいのだ。相手が年下であるからには、カイトは年長者として相応しく振る舞わねばという矜持と、扱いの難しい年頃であることに、ようやくいろいろ誤魔化し、無難に済ませている状態だというのに。

これがとても素直に愛らしい性根の少年であったらと思うと、だから自分で自分がおそろしくなるから、カイトはまるで考えたくない。

そういう、並外れて過ぎ越した美貌を持っていてだ。

たかが角と翼、それにたまに出てくる鉤爪だのだけを取り沙汰して醜いとは、醜悪極まるとは、よくぞまあ、言ったものだ。

自分はいったいいくつの、まさかうぶな小娘なのかと悩みこむ動悸をカイトに頻繁に起こさせておいて、百年の恋も醒めようとは、言ってくれたものだと。

――否、未だ恋に落ちたというわけではないから醒めようもないという言いようもあれ、しかしだ。

「…………はあ、まあ…」

ややして、なんとか声をこぼしたがくぽだが、やはりなにかしら気が抜けた、間抜けなものだった。

まったくもって、美貌を無駄にするにもほどがあるというものだ。自覚がないということは、罪だ。度し難いことといったらない。

――と、懸命な努力でもって、憤りの炎へ新たな風と薪とを送るカイトを、がくぽは上から下からという風情で眺めた。ようやく開いた目で、改めて確かめているような眼差しだ。

ここでおかしな素振りを見せると、要らぬ誤解を生む。そしてことは振りだしに戻るのだ。

こんな恥ずかしい、羞恥の極みのようなことを、怒りに任せてとはいえ、二度も三度もやれる自信はない。否、決してやりたくない。

その思いのもと、もはや全力を懸けてというほどの力でもって、カイトは自らを鼓舞し、律して、澄まし顔を取り持った。

ここぞ、王太子としてのあの、つらく理不尽な修養の日々を活かすべきときだ。なんのために苦労を重ね、身につけた技術だと思っているのか――

もちろん、こんなことのためではないことだけは、まったく確かだ。

基幹がぐらつくために、徐々に仮面が剥がれ落ちていくカイトの、その最後の砦が崩れるかという、寸前。

「ええ、はい。ぅん、そうか………わかりました、カイト様」

がくぽはようやく、応の返事を寄越した。

そしてここにいるのは昼の青年であり、言うなら、彼の特性だ。

胸に当てていた拳も下ろしたがくぽは、のみならず、体を折り曲げ、小卓に伏した。ぶるぶると、肩が激しく震えている。背に負う翼が落ち着かずそよぎ、無為と羽ばたいた。いつの間にか鉤爪が収まっていた、小卓上の拳がきつく握りこまれ、昂ぶる気持ちを抑えようと苦闘するさまが――

「ええ、はい、ほんとに、よく……よくっ、っ!!」

「……っ!!」

総毛だって、カイトは身構えた。

角と翼を持つ異形であるのが、昼の夫の特徴だ。しかして付け加えるなら、昼の夫にはもうひとつ、特徴的なことがあった。

これぞまさに、悪癖の最たるものだ。

「――っっ!!」

「っくぅ……っ!!」

――次の瞬間には想定した通り、敷地を揺らすのではないかというほどの爆発的な笑い声が轟き、カイトはくちびるを噛んで悔し涙を堪えた。

わらいたいならわらえばいいと、確かに言った。

自棄を極めていたからこその発言ではあるが、こういったことが夫の、ろくでもない大笑のツボをよく刺激するということだけは、カイトもなんとなく理解していた。

だから言った。確かに言った。わかってもいた。夫が――昼の夫が『笑う』なら、きっとこうなると。

「ぃ、いつまで、わら……っくぅうっ」

豪放磊落と言えば聞こえはいいが、笑われている身にはそんな余裕などない。

ほどなく音を上げたカイトが詰ると、仰け反って大笑を迸らせていたがくぽは、笑い過ぎて滲んだ涙を拭いつつ、首を振った。横だ。拒絶だ。なんという男だ。

「いや、ええ、愉快だ愉快ですよ、無理です、止みませんね!」

「言いきっ……っ?!」

カイトは全身の肌という肌を真っ赤に染め上げてぷるぷる震え、羞恥と屈辱とに耐えていた。

この足が動くなら、間違いなく走って逃げている。そして布団にこもって、夫が謝るまでは出てきてやらないのだ。

「………は」

考えて、カイトは軽く眉間を押さえた。堪えきれず、ため息がこぼれる。

きっとカイトが籠城している間に、日が落ちる。謝るまでは出ないと強情を張るカイトに、謝れない青年がなんだかんだと手をこまねいているうちに、夜となるのだ。

そうすれば否応もなく、夫は青年から少年に入れ替わる。未だ『謝る』ことができない、覚えられない青年から、徐々に謝ることを覚えてきている少年にだ。

結果は推して知るべし――

短絡的なことをやらかさずに済むという意味で、動かない足には感謝しよう。

そう思い決めて、カイトは再び、きっとしてがくぽを見た。笑っている。ただ、ひどい発作はなんとか過ぎたようだ。笑いながら目尻を拭い、カイトを見ている。

その視線の甘やかなことといったら、抱えていた憤りが一瞬で霧散するほどだ。

まさかそんな現金なと狼狽えたカイトだが、まさかもなにもなかった。一瞬で、火消しが終わった。

「……っ」

くっとくちびるを噛み、極まる羞恥を堪えてうつむいたカイトに、がくぽが手を伸ばした。顎に指を掛けられる。

きっと顔を見たいのだろうとわかりはしたが、見せたくない。意味不明の動悸を激しくしながら、羞恥に染まる顔など――

「たまにあなたはそうやって、うつむいてしまったり、不自然に視線を外されるので」

「っ!」

はっとして、カイトは顔を上げた。促されるまでもなく、がくぽを見る。がくぽは軽く、肩を竦めた。

「あなたがおやさしいことは、知っていますからね。私が見たくない、私に見せたくないような顔をしたのを、きっと隠してくださったのだろうと、考えていました」

「がくぽ…」

ことの発端を思い出し、カイトは居住まいを正した。

しかしそうしてやる必要は、概ねなかった。相手はがくぽだ。夜の、繊細な少年期の夫ではなく、昼の、青年期の夫だ。

頬の赤みを消せないまま、それでも懸命に堪えて顔を上げているカイトに、がくぽはにっこりと笑いかける。例のあの、爽やかだとは思うのに、どうしてまた、こうまで胡散臭く見えるのかという。

「まあ、合ってはいたようですね。ただ、私が想定していた方向とは、まるで逆だったようですが……まさか、私の美貌ぶりにおそれをなしておられたとは」

「がくぽっ!」

なんという立ち直りの早さだ。なんという男だ。なんという夫なのだ。

先の殊勝さや劣等感はどこに放り投げたかと、カイトはがくぽの胸座を掴んで問い詰めたい気分に襲われた。

実際にそうまではしないが、雰囲気は伝わるだろう。がくぽはことさらに恭しく、またも右の拳を上げて、胸の前に置いた。軽く頭を下げまでして、完全に騎士の礼だ。ひとをばかにするにもほどがある。

それで、つぶやく。あまりにも真摯に。

「良かった。あなたが、私を不愉快だと避けておられるのではなくて――」

「ぅ……っ」

どこまでも卑怯なと、カイトは歯噛みした。

茶化しながら、どうしようもない本音を差し挟んでくる。これを否定すれば、すべてが振りだしだ。そんな面倒極まりないこと、絶対的にご免被るというのだ。

「くぅっ……っ」

だからカイトはただ歯噛みして、羞恥から吐きこぼしたくなる言葉を口中で砕く。

敏い男だと、思っていた。豪胆な男であると。

こちらの話をろくに聞きもせずに好きなように動くし、でありながらカイトが言わなかったものを、やはりなにも言わずに掬ってくるような相手だ。

けれど判断を誤ることは、絶対的にある。劣等感で凝り固まっていれば、なおのことだ。

そもそもカイトとて、夫が自らの異形に劣等感を抱いていそうだということは、なんとなしに察していたのだ。さすがにここまでのものとは、思っていなかったが――

カイトが意味不明なまでに胸を高鳴らせ、羞恥で逸らした顔を、歪めた表情を、閉じた瞳を、――

劣等感に凝り固まって歪み、曲がった目が、自らへの、自分という『悪鬼』への嫌悪の表明だと誤解して受け取っていても、そうそうがくぽだけを責められる話ではない。

これは、自分にも非があることだ。

気持ちを改めたカイトは、新たな覚悟で夫へ目を向け――

戦慄した。

ほんのひと瞬きの間に、夫が二人に増えていた。